第8話 白ロリさん(わたし)は獲物を狩った
『DATE:3060.01.05 14:08』『LIFE:4』『XP:10』『RECHARGE:4』
「あれ、ご主人様どうしたんですか?――ひ、ひゃあ!?」
わたしはセリアの胸をむんずと掴んでいた。そのまま素早く背後に回ってがしっと抱きしめ、色々触りまくる。
「ちょ、ちょっとセクハラ禁止です!」
「だってふかふかで良い匂いするし、この部屋出たらもう触れないし、今のうちにセリアちゃん成分を補充しておかないと」
「どんな成分ですか!?――もうやめてくださいってば!」
セリアが本気で嫌そうなので、わたしはしぶしぶ離れた。久々に下着無しの状態でスースーして心もとない。
そして、本題の弓矢を確認する。それは右側の壁の足側半分の石壁、言い換えれば鏡の左側の壁であり、傘が置いてあった場所の上に金具で留められていた。
弓ではあるが凄く特徴的だ、上下がアンシンメトリーで一方の端に装飾が施されており、宝石がはまっている。もちろん純白である。
「これね」
「それですね。『弓Ⅰ』と『観察力Ⅰ』が習得できますよ」
わたしは「弓」を手に取って確かめてみた。全長が二〇〇cm近くあり、傘より嵩張るし、扱うのにコツがいりそうだ。
念のため、他に何か変わったところが無いか部屋の中を確認したが、何も見つけることは出来なかった。
ここに居ても仕方が無いので、さっさと扉の外に出ることにする。
「セリアちゃん、矢はどうすれば良いの?」
「普通の矢をどこかで入手して使います」
ふよふよ妖精形態に戻ったセリアが答える。
「だめじゃん、入手経路が無いよ!――矢なんて作れないし!」
「それか、弓を引き絞った状態で『矢よ出ろ』と念じれば、魔法の矢を作り出すことも出来ますよ」
「それを早く言ってよ!」
わたしは家の外に出て、実際に弓を引き絞って見た。引き絞るのにかなり力が要りそうな雰囲気だったが、「傘」の『腕力強化Ⅰ』を習得出来たせいか、全く支障なく扱うことが出来た。
言われたとおりに念じてみると、白く輝く矢が出現したので、そのまま付近の木に適当に狙いを付けて、射ってみる。
びゅん!――ばちん!
「あ……!!!――いっ痛いー!」
そう、わたしは忘れていた。わたしは幸か不幸か、普通の人よりかなり大きなサイズのモノを持っているという事を。そして矢自体は外れてあらぬ方向に飛んで行った。まあ最初はこんなものだろう。
「あー、とりあえず胸に布巻き付けておきましょうか。あとフォーム工夫すればだいぶマシになると思いますけど」
セリアは皮があれば胸当て作れると教えてくれた。しまった捨てるんじゃなかったなー。
「セリアちゃん、矢って無尽蔵に作れるの?」
「無尽蔵では無いですね、矢一本でにつき魔力を一消費します。魔力を消費すると疲労していき、ゼロになると気絶してしまいます」
「普通の人って魔力どれぐらいあるの?」
「一〇ぐらいですね」
「少な!――全然ダメじゃん。それじゃあ一〇本しか撃てないよ」
「でも冒険者や騎士みたいに経験積んで鍛えた人だと一〇〇ぐらいあったりしますし、何よりお嬢様なら大丈夫ですよ」
この
「たとえ一〇〇あっても一〇〇本撃てば気絶しちゃうでしょ?――一〇〇本なんて毎日の練習だけで使い切っちゃいそうじゃん。なんで大丈夫なの?」
「いや、お嬢様は魔力一〇〇〇以上ありますし…」
「はあ?」
確かに矢を出したとき、全く疲れた気がしなかったけど、それにしても大して鍛えてもいないのに一〇〇〇以上って。
「セリアちゃん、具体的にわたしの魔力幾つあるか教えてくれない?」
セリアは一瞬困った顔をし、そうして言った。
「禁則事項です」
「はああああ!?――なんでわたしの魔力知るのにそんな権限が必要なのよ」
「き、禁則事項なんですう!」
「可愛い言い方してもダメ!――じゃあ聞き方変えるけど、わたしの魔力は一万以上あるの?」
「あります!」
「あるんかい!」
なんかちょっとやばい気がして来たぞ。鍛えた冒険者が一〇〇なのにその百倍以上って。
「じゃあ、わたしの魔力は一〇万以上あるの?」
セリアはハッと気づいた。
「ダメです、そんな小刻みに何度も聞いたら最終的に分かっちゃうじゃないですか!――禁則事項です!」
「チッ」
セリアはわたしの目論見に気付いてしまったが、わたしも食い下がる。
「一〇〇〇と一万は答えてくれたのに、一〇万は何でダメなのよ!」
「ダメなものはダメなんですう!――分かりました、じゃあ、あと一回だけ答えますから、それ以上は絶対聞いちゃダメですからね!」
「あと一回きりなんだ。じゃあ私の魔力は一億以上あるの?」
とりあえず自分の魔力が膨大にあって、矢の消費ぐらいでは全く枯れる心配が無いというのは良くわかったので、もう適当に聞いてみた。
そしてセリアがボソボソっと小声で答える。
「実は…あります。えへへ」
まじか。
「あはは…」
「えへへ…」
何それ、もう無茶苦茶だよ。わたしは一般人一千万人分以上の魔力使えるってことじゃないか。いや一億だけじゃなく下手したら一〇億とか一〇〇億の単位かも知れない。
「普通の人が一〇ぐらいしか無いのに、わたしは何でそんなにたくさんあるの?」
「禁則事項です」
「デスヨネー」
まあともあれ、魔力の心配なく弓の練習が出来ると分かったので、わたしは狙いをつける時に弦を少し顔から放す方法で一〇〇射ぐらい練習した。
そして続けて傘で槍の打ち込みを一〇〇〇回行った。『腕力強化Ⅰ』のマスター効果が出てるのか、昨日より木が抉れる度合いが大きい。
「お嬢様、もう傘の習熟度は必要無いですけど」
「ああ、良いの。なんか、これもやらないと落ち着かなくなっちゃって」
習慣とは恐ろしいものだ。
明日は狩りの日だから、今日はこれで切り上げて休むことにした。
狩りを始めてから七日目、
午前中弓の練習を一〇〇射し、距離八〇mぐらいで命中率九割ぐらいには向上していた。始めて二日目の初心者としては破格の成長だと思うが、たぶんスキルマスターの補正が効きまくっているのだろう。
そして今日の狩りに初めて弓を実戦投入することにした。
思わぬ収穫だったのは、「弓」のスキルマスターの副次効果だ。「傘」に『腕力強化Ⅰ』が付いていたように、「弓」にも『弓Ⅰ』だけでなく『観察力Ⅰ』のスキルがついている。これが狩りに非常に役に立つのだ。
一昨日は「足跡がある」としか分からなかったが、今はその足跡が何日前に付けられものなのかや、その個体の大きさや特徴まで分かるようになっていた。
「いる…」
もちろん、森の遠方に潜んでいるイノシシやシカにも格段に気付きやすくなり、一昨日までに比べてイノシシやシカとの遭遇頻度は格段に上がってた。しかし、仕留めるとなると話は別である。
わたしは今日六頭目のシカに隠密スキルを活用して有効射程まで近づき、そして矢を射る。
ビシッ!――矢はシカのお尻に命中したが、これではダメだ。
「ピエーッ!!」
案の定、警戒の泣き声を出されて逃げられてしまった。
「ああ、もう。心臓とか肩とか頭とか難しすぎるよ!」
「お嬢様、ガンバですよ!」
そう、野生動物は生命力が高いのだ。急所に命中させないと、一撃では中々倒れてくれない。矢は魔法のものであるので、命中すると消え、傷が残るだけである。そのうち完治するだろう。
そして、今日四頭目のイノシシを発見した。
そのイノシシは「ぬた場」で泥浴びをしているところであった。もちろん、わたしはそのチャンスを逃さない。ある程度まで近づき――首を狙って矢を射る。
ズビシッ!――狙いが少し外れて背中に当たり、イノシシが「フギーー」という叫び声をあげる。急所を外した。これはダメだろう。
また逃げられたと思った矢先、イノシシは「カッカッカッカッ」と威嚇音を出してずんずんと近寄って来た。
今までのイノシシは射かけるとすぐに逃げたので、不意を突かれたが、わたしはそれならば、と二射目を射る。体に刺さったが止まらない。
「フシュー、クチャクチャクチャクチャ」
こんな鳴き声するんだ、とぼーっとしてると、珍しくセリアが叫ぶ。
「お嬢様、逃げて、危ないですよ!」
「う、うわっ」
イノシシは自分に向かってズドドドド、とまっすぐ突進してきた。あわてて横に避けると、イノシシは急にズザザっと体の向きを変え、矢継ぎ早に突進してくる。
「わ、わ、何これ、ちょ、はやい」
体が大きいくせに動きが早いだけでなく、小回りも利く。猪突猛進とか嘘っぱちだ。むしろホーミングミサイルじゃないか。
「ひ、ひえっ」
わたしは咄嗟に傘を右手に出し、開いて盾モードでガードした。衝撃で吹っ飛ばされそうになり、悪いことに木を背にして尻持ちをついてしまう。
「プギーー」
そこへイノシシがここぞとばかり突っ込んできた。ええいままよ、とわたしは傘を畳み、柄を背後の木で支え、先端を向ける。
ドゴン!――衝撃で木が大きく揺れる。イノシシは脳震盪を起こして動きが止まっていた。
「うわああ!」
わたしは必死でガシガシガシっとイノシシの頭を突きまくった。
「お、お嬢様、喉です!――喉を突いてください!」
セリアに声を掛けられ、少し冷静さを取り戻したわたしは、イノシシの喉をゴスっと突いて、ついに息の根を止めることに成功した。
「はあ、はあ、はあ…やった」
息が上がっていた。わたしの初の獲物はとにかく必死で、お世辞にもカッコいい勝利とは言えなかった。
イノシシはそこらじゅう無駄な傷をつけられてボロボロだ。それでもわたしの初の獲物には変わりがない。やっと、やっと自分の手で獲物を手中にしたのだ。
「やった、やったー!」
「やりましたね、お嬢様!」
だが、勝利の余韻は悲しげな泣き声でかき消される。
「え?――あ…」
わたしは気付いた。二頭の小さなウリ坊イノシシがキーキーと鳴きながら、わたしの初獲物に近寄って来るのを。
そうか。だから君は、矢を射かけられても、傷を負っても、逃げなかったのか。
仕留めた獲物は泥浴びをしていたこともあり、お世辞にも清潔な状態とは言えなかったので、ここでは血抜きだけし、内蔵処理は家に持ち帰ってからすることにした。
喉の傷を広げ、太い木に逆さに寄りかからせ、ロープで固定した。血がどくどくと地面に浸み込んでいく。
そして、二頭のウリ坊は動かなくなった母親の側でずっとキーキー鳴いていた。
「セリアちゃん、ど、どうしよう…」
わたしは狡かった。二頭のウリ坊の親を殺したという事実から、その後起きるであろう出来事から目を逸らしたかった。だからセリアに助けを求めたのだ。
だけど、セリアの答えは明確で、優しく、かつ残酷であった。
「そうですね、家族三人一緒の方が幸せだと思いますよ」
その言葉の意味が分からぬほど、わたしは馬鹿ではない。
「う…ぐ…ひっく」
わたしは、二頭のウリ坊を順番に天国に送り、母親の側に仲良く並べてあげた。そして、血抜きが済むまでの間に、運ぶための簡易のソリを木の枝で作っていた。
なぜだろう。つい先ほどまで、わたしはあれほどまでに獲物を殺したくて殺したくて、たまらなかったのに、なぜこんな気持ちになるのであろうか。
わたしは家にたどりつくと、早速イノシシとウリ坊の内臓を処理し、そのまま解体した。セリアは食事をとらないから、全部わたしの食料である。
成体イノシシは個体差にもよるが、平均すると一頭一五kgぐらいの食肉が取れる。毎日五〇〇g食べたとしても一か月は持つだろう。
わたしは、二頭のウリ坊の肉を数日間に分けて頂き、母親の方は全部干し肉にすることにした。
今度は皮も取っておく。捨てるなんてとんでもない。セリアがなめし方を教えてくれるそうだから、それで胸当てを作ろう。
その日の夕食は久々に豪勢で、ウリ坊のステーキは臭みが少なく、柔らかくてとても美味しかった。
「美味しいご馳走になってくれてありがとうね」
わたしは食べ終わった後、手を合わせてそう呟いた。
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