参「猫の手を借りて、お着替えを」
》同日
まず、
次に璃々栖が、虚空から厚手の長
羽織るのは、璃々栖一人でも出来た。璃々栖がその右手で襟の先を併せて押さえるのだが、
「
衣紋抜き――首の後ろを少し開けることで、姿勢を正し、呼吸をし易くするのである。女性が和装をする時の、アピヰルポヰントでもある。皆無としては、妻の首筋などあまり他の男に見せたくないところであるのだが、当の璃々栖は『花魁か!』と皆無が叫びたくなるほどがばっと抜くのを好む。
「手を貸して
猫の手も借りたいとは、正にこの事か。
「にゃん」
ベッドに飛び乗る。そこから璃々栖の後ろ首へ跳躍し、猫の両手で以て璃々栖の後ろ襟にしがみ付いた。
「――ぐぇッ」
璃々栖が淑女らしからぬ声を出して、
「をいをいをいをい、もうちょっと優しくじゃなァ……【
「にゃむにゃむにゃむにゃむ……【
出来た。猫の体をふわりと浮かび上がらせて、璃々栖の後ろ襟を優しく引っ張る。
「次は伊達締めじゃ」
虚空からゴムの入った特注伊達締めがベッドの上にボトリと落ちる。皆無はそれを拾い上げ、璃々栖の腰をぐるりと回りながら、帯を締めていく。我ながら器用なものだと思う。
お次は、着物。おはしょりを作るところで少々まごついたが、何とかなった。璃々栖の周りをクルクルしながら伊達締めをして、ほっと一息の皆無である。
最後に、帯。
(いやァ……これは流石に無理ちゃうか?)
体に巻くだけならば何とかなる。が、帯枕を作るところからが、困難を極めた。何度やっても、目も当てられないほどぐしゃぐしゃになるのである。
十分ばかり格闘していたが、
「これは……無理じゃな」
何と何と、不屈の体現者たるはずの璃々栖が、諦めた。
「まァ善い。どうせ吾妻を羽織るのじゃから」
と云うわけで、室内なのに厚手の吾妻コートを着込んで一階に降り、ボーヰに少しだけ変な顔をされながら、璃々栖は平然と、
皆無は認識阻害の魔術を使いながら、璃々栖の料理を一緒に食べさせてもらったのだが、サラダの中に入っている玉ネギだけは、何故だか絶対に食べてはならないような気がして、きっとこれが野生動物の本能と云うやつなのだろうと思った。
※※※※※※※※※※
猫にとって玉ネギは禁忌です。
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