璃々栖After「猫になりにけり」
壱「皆無、猫になる」
》明治三十八年(太陽暦一九〇五年)一月某日
》東京・帝國ホテルの一室《
》
朝、目覚めたら猫になっていた。
その事を受け
まず、意識を得たと思ったら、目の前が真っ暗であった。これはまァ、善い。
昨夜は雑誌『ホトゝギス』に載っていた『吾輩は猫である』とか云う読み出すと妙に止まらない小説を読んでいたところ、『
璃々栖の乳房と云ったら凄まじく、二年前に出逢った時にはもう、悪魔的な大きさと柔らかさを有していたのであるが、それが今なお育っているのだ。
愛する妻は、美しさの絶頂期にある。
身じろぎしてみる。
「あっ、んぅ……」
妻の声がした。やはりここは、昨晩泊まった帝國ホテルのベッドの中で間違いない。
もぞもぞと体を動かしてみるが、どうも様子がおかしい。手足の感覚がいつもと異なるのだ。
ベッドから這い出して、カーテンの隙間から零れる陽の光で部屋を見渡してみれば、思った通り、ここは帝國ホテルは最上階の、スヰート・ルームである。桂首相閣下がすっかり気を使ってしまって、最上の部屋を用意して
日露戦役の
ちなみに、『どんな部屋でも』と云う
――今心配すべきは、日本の財政の事ではなかった。
見下ろせば、己の手足はやけに小さく毛むくじゃらで、
(これは……猫?)
無詠唱の【
(猫やな)
自分で云うのも何だが、随分と可愛らしいキジトラ猫であった。
両の瞳は黄金色。
「
喋れない。
(これは……
璃々栖と出逢い、彼女の愛を知り、
その為、皆無は
なればこそ現状を、『またぞろ寝ぼけて身を変じたのだろう』と考えていたのだが。
(――むんッ!)
――――が、
「にゃ、
「んぅ……何じゃ、騒がしいのぅ」
もぞり、と掛け布団が動いて、布団の上に陣取っていた皆無はベッドから転げ落ちた。
「皆無……皆無ぁ?」
麗しの主、大魔王
寝惚け眼の璃々栖が右を見て左を見て、部屋を見渡し、
「……何じゃ、そなた」
二人、目が合った。
※※※※※※※※※※※※※※
本編『璃々栖』の二年後の物語です。
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