アイデンティティの回
幼いころから、居場所がなかった。
孤児だったわけではない。両親や兄弟との関係性がうまくいってなかったわけでもない。友達がいなかったわけでもない。普通に普通の生活を送っていた。
でも、どこか、居心地の悪さを常に持って生きていた。
すべての人と、表面的な関係性、上辺だけの付き合いだった。両親も兄弟も友達も。いつか、居心地の悪さはなくなるだろうと思って生きた。でもなくならなかった。
社会に出たら、表面的な付き合いのほうが多くなったから、むしろ良かった。学生の時まで感じていた、心の底にある、いつの間にか溜まっていった澱みたいなものを気にしなくてよくなった。居心地など気にもしなくなっていた。
年齢を重ねるごとに、だんだんと社会的地位が上がり、それなりに生活が送れるようになり、結婚相手が見つかると、なぜか人間的地位も上がり、私自身、他人からの評価が変わってきているのを感じていた。勝手に人生が動き出し大きな渦に呑み込まれ、自分の力ではどうしようもないところまで流される。後は死を待ちながら生きる。
悪い意味じゃなくて、人間が生まれながらに持つ運命みたいなものだと悟った。居心地のいい、悪いの話ではなく、人間に生まれたら人間として死んでいくためのルールみたいなもの。こう感じた。
しかし、人生を悟ったと思った瞬間に、「居心地の悪さ」が、また、顔を出してきた。ここではない!といわんばかりに、どうしようもなく居心地が悪くなった。
数日もしないうちに、結婚相手と別れ、会社も辞め、すべてを捨てた。
数か月の間、部屋を借りず、仕事につかず、時間に縛られず、ただ、抜け殻のように生活をした。ゴミのように暮らした。
交通事故にあい、意識をなくした。
意識が回復したのは、月並みに病院だった。知らない女性が世話をしてくれた。その女性は退院する時まで来ていた。なぜか治療費も払ってくれた。
完全にゴミの思考回路だった私は、何も考えることができず、女性のおかしな行動を見ていた。
女性と会話したのは、退院して病院から出た時だった。
女性は、車で私をはね飛ばした。(その時の記憶は私にはないが、たぶん私が悪い気がする)そして、救急車をよび、意識が回復するまで看病してくれた。
治療費を払ってくれたのは、当時の私に身分証がなく、病院側にどうしてもといわれ支払ったみたいだ。申し訳ないことをしたと思い、その場で謝った。すぐにATMで全額返そうとしたが、受け取らなかった。
女性も事故の瞬間は憶えていないと言っていた。保険で対応しなかったのは、せめてもの償いだと言っていた。上辺だけの付き合いが得意の私はその場を何の感情もなく収めた。
そのあと、どうゆう話になったかは、憶えてないが、女性の宅に居候という形にななり、バツの悪さはあったが、居心地の悪さを感じたことはなく過ごした。
3年後、女性は嫁になった。
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