大城さんの回

 結局、ナチョスとはコーラだけで、朝まで話した、話の内容はとくになかったが楽しかった。


 二日目の朝が来た。


 ちゃんとした食事をとってなかった私は、マックに行くことにした。本当はファミレス的なところにいきたかったが、近くにファミレスがなかった。グリドルが好きだから問題はない。

 今日の予定は昼過ぎに家電が届き、同じくらいのタイミングでエアコンの取り付けの予定になっている。

 それまでは暇なので、西海岸へ行った。ナビを西崎というところに設定した。工業地帯の先が海になっていて、砂浜とか港とかがなく誰もいないようなところを選んだ。西海岸といっても糸満市内だから遠くない。

 ナビを見ていて気が付いたのだが、沖縄県のほとんどの観光地が西側に位置している。だから、糸満市も例外なく西側にホテルがある。

 すぐに、目的地に着いた。道がなくなり防波堤があり海になっていた。私は防波堤の上に立った。遠くに空港が見える。その左側に島が見える。その後ろにぼんやりと島が見える。慶良間諸島というやつかもしれない。

 風の音と海の音を聞くだけの世界だった。グリドルとホットコーヒーを出した。コーヒーを飲んだ時、マックの店員を思い出した。

 ホットコーヒーを注文した時、注文を聞き返され、店員も意外な顔をしていた。沖縄県ではホットを頼む人が極端に少ないのかもしれないと思った。

 近くの島からボートが近づいてくるのが見えた。ボートに乗っているのは大城さんだとなぜかすぐにわかってしまった。隠れようと思ったが私が気が付いたということは大城さんも気が付いているはずなのでやめた。もしかしたら、私がここに来ることをはじめから知っていたのかもしれない。という可能性もあるから隠れるのをやめた。

 大城さんは両手に大量のモズクの入った袋を持っていた。偶然もあるものだ。と、大きな声で笑っていた。

「モズクはあげられないな。これはみんなに配るやつだから。今度とったらあげるよ」

 何も聞いていないのに、勝手に話して防波堤の中に消えていった。

 また、海を眺めた。

 

 違和感があった。


 間違い探しくらい小さな違和感だった。何かが、どこかが、変わったのにそれがわからない。わからないからゆっくり景色を眺めた。眺めている最中に小さい地震を感じた。白波も多く立っていた。

「急いでこっちへおいで」

 防波堤の中から大城さんが私を呼んだ。急いでといわれても海面にまではそれなりにある。自分なりの全速力で大城さんの声のするほうへ行った。

 大城さんは、ボートではなく回天に乗っていた。私は大城さんの後ろに乗り込み回天を閉めた。自然な形で回天に乗って、ハッチまで閉めたことに私自身が驚いた。

 大城さんは見たことのない地名に回天を向かわせていた。

 回天は静かに海底に向けて動き出し、あっという間に浮上した。

「ここで待っていなさい」

 タブレットをおいて、大城さんだけ外に出た。

 目の前に見たことのない大きさのセカイがあった。大城さんは、全身をセカイと同じ質感に変化させセカイの中に入っていった。

 二つの物体が融合する。音も光もなく、二つの水滴が一つになるみたいに静かにあっという間の出来事だった。

 水滴が少しずつ小さくなり、にんげんの形になり、色が付き、最終的に大城さんに戻った。

「おおしろさん、これって」

「すぐに、ここから離れなさい。私のことは気にしなくていい」

 人型の大城さんは、タブレットの赤いボタンを押した。回転は動き出し、私はあわててハッチを閉めた。沈んでいく回天の中でタブレットの緊急の赤い文字だけが光っていた。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る