ナチョスの回
濃い一日だった。何もない部屋に帰って思った。今度はポストもドアも確認したが何もなかった。ゆっくりくつろげる。ゆっくりくつろげるはずなのだが、今までのことを考えると、くつろげなかった。
車で南部を回った時より、回天で回った時のほうが短かった。信号や合流などを考慮しても回天は早すぎる。変だ。さらに、若返った上原さん。再生できるのにしない考え。「人間は」という言い方、変だ。初めから私のことを知っていた大城さん。変だ。変だ。変だ。変だ。
何もかも変だ。
初めから、出会うことを知っていたみたいだ。
今日、那覇空港に着いたことも、レンタカーで南部を回ることも、少しだけ冒険するために国道からそれたことも、私が私の考えで行動したことなのに。
考えれば考えるほど、新しい「変だ」が、生まれてくる。沼にはまる。
そうこうしている間に、夜になってしまった。電気はつけなかった。電気をつけてしまったら誰かがきてしまうと感じたからだ。なんとなく海側のベランダに出た。夜空を眺めるとそれなりの星空だった。それよりも、なんだか海くさい。くさいというよりも海がダイレクトに体の中に来る感覚だった。海抜が低いとこんな感じなのかと思った。
いや、違う。明らかに違う。海がすぐそこまで来ているみたいだ。
目を凝らして海のほうをみると、すぐそこまで液体のような、形が定まらない何かが近づいていた。
「まてまてまてーぃ!!」
無意識に声が出ていた。誰もいない夜空に声だけが響いた。近づいてい何かもなぜか止まった。
もしかして、言葉がわかるのか?試しに○×の質問をしてみた。
「あなたは、人ですか?」
答えは、×
「あなたは、液体ですか?」
答えは、×
「あなたは、誰ですか?」
「私は、ナチョス」
しゃべれるんかいぃ!しかも、ナチョスって。思わずツッコミを入れてしまった。話せるなら、問題ない。もしかしたら、沖縄県のお友達第一号になるかもしれない。ちょっとだけウキウキした。
ナチョスは、ただの液体ではなく、声を出さなくても相手に意志を伝えることのできる技術を持っていた。なんて都合のいい設定。しかも、液体なのに濡れない。フローリングが濡れてない。
私はナチョスを部屋にあげて気が付いた。「何もないから、おもてなしはできない」と言ったら、「かまわない」とナチョスは体の中から缶のコーラを2本出した。
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