南部一周の回
帰ってきた上原さんはつやつやしていた。明らかに若返っていた。なにごともなかったかのように「帰りますよ」と何かを探しながら言った。
「ひょっとして、これですか」
タブレットを渡した。上原さんは気まずそうにタブレットを受け取り、回天のほうへ二人で向かった。
「少し寄り道してから帰りましょうか?」
無言のまま、続きを待った。
「回天は、糸満市と南城市の地下水脈を利用して動いているんです。なので、いくつか駅みたいなものがありまして、それを教えときたいんです」
回天に乗り込みハッチを手動で閉める。上原さんはタブレットを私が見えるように傾けて、操作の仕方を教えてくれた。初めに、行き先ボタンを押して、次にスタートボタンを押す。二工程で終わり。簡単でしょ。と、笑顔を作っていたが、上原さんの指先の爪はほぼなく、薬指は完全になかった。私はそっちに意識を持っていかれた。
あちゃー。の顔を上原さんはした。見られちゃまずいものを見られてしまったみたいの顔だ。
「すいません」
私は、とっさに目をそらした。上原さんは、よくあることのようにふるまってくれた。
「実際よくあるんですよ。爪がないのをいじられたり、指のないのを気にされたり。でも、こんなこともできるんですよ」
目の前で、爪と指が造られる。私は、リアクションができなかった。
「爪と指をなくしているのは、あまり人と関わりたくないからなんです。人というものは不思議なもので、何も話さない人にはいろいろ聞きたがるのに、話すのにわかりやすいきっかけがある人には、まず想像でストーリーを完成させてから、わかったように話しかけてくる。そして、深く詮索しない。僕の場合は、爪と指。このくらいのきっかけが丁度良かったんです」
よくわからない理屈だったが、確かに、タトゥーをいれている人には好んで話しかけないかもしれない。銭湯で隣になったら、不自然ではない微妙なタイミングで移動するかもしれないと思った。
「今、頭で思っていることが、想像のストーリーですよ」
はっ。として、上原さんのほうを見た。上原さんの爪と指は、またなくなっていた。
「今、糸数ってところにいるんですが、次は玉泉洞に行きます。基本的には沖縄県の南部を逆時計回りに回るようにはなっているんですが、緊急時には時計回りにもで来ますし、乗ってないルートを行くこともできますよ」
ニヒルに笑った上原さんは、さらにつづけた。
「玉泉洞から斎藤御嶽、与那原の地下を抜けて海軍豪公園、カニ公園、ハクギンドウ、轟豪。こんなところですか」
それから、私たちは駅に着くごとに地上に上がり、上原さんは地図で大体の場所を教えてくれた。ハクギンドウに戻るころにはへとへとになっていた。しかし、思ったほど時間がたっていなかった。30分!!これだけ。
上原さんは、またニヒルに笑った。
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