綴る手紙
平賀・仲田・香菜
綴る手紙
拝復
晩秋の候、如何お過ごしでしょうかと聞きたいところではあるが実際はよく知っている。何故ならば君と私は幼馴染みであり、同じ高校のクラスメイトであるからだ。
まったく、君はいつも突然な男だ。
『女子の間では交換ノートが流行っているというではないか、もし誘われた時に恥ずかしくない文章を書きたい。練習の為に文通をしよう』
この令和という時代に文通など時代錯誤も甚だしい。斯様なことに付き合わせる此方の身にもなるべきだろう。
君はまだ就学前の幼児であった時分を覚えているか?
『悪の組織に拐われて改造人間になりたい』
この時から君は突然な男だった。そして裏路地の徘徊に私を付き合わせ、互いの両親によく叱られたものだ。不憫な少女ではないか、私は。
だが手紙を通じて文章に慣れるということは、私にも君にも、人生の良い糧となることだろう。折角の文通、楽しませて頂く。
かしこ
十一月十一日
***
前略
最近になって恋を知ったとは。幼い頃から君のことは知ってはいるが、成長したものだと感心する。君の部屋に隠されているいやらしい本の種類まで知っている私からすれば、大変に感慨深い。
ふうむ、君の心を射止めた者は何処のどなたか気にならないと言えば嘘になる。しかし、ここで聞くのは野暮天というやつだろう。君が話したいというまで私は待つ。知らないかもしれないが、私は待つことが得意なのだ、幼い頃からね。
ちなみに私は、とうの昔に恋を知っている。相手は秘密だ。
かしこ
十一月二十五日
***
前略
まだ始めて間も無いが、君との文通を楽しみにしている自分がいることに驚きを隠せない。
今日は手紙が来ているだろうかと、郵便ポストを開ける時に高まる胸の鼓動。
どんな返事を書こうかと悩みながら手元で遊ばせるペン。
お店でステーショナリーを選ぶことも、以前よりも大変に楽しいこととなった。
ところで君が使う便箋と封筒はとても可愛らしい。君の趣味なのだろうか。実に私好みではあるのだが。
かしこ
十二月一日
P.S.
追伸があります。
追伸
この手紙を書くにあたり、万年筆を買ってみた。インクも拘った。いい色だと思わないか?
***
前略
突然そのような返事を受ければ私とて少しは泡を食うし面も食らう。私を喜ばせようと柄を選んでいるだと? 君はいつから、すけこましになったんだ。誰にでもそういうことを言うものではないぞ、約束しなさい。
さて『意中の女性に渡したい贈り物を選びたい』とのことだが、その手伝いが私で本当に良いものか。君が思いを寄せる方を私は知らないのだから、大した助言などできるものではないと感じる。
しかし、きっと無理矢理にでも連れて行かれるのだろうな。君は突然な男であり、強引な男でもあることを私は知っている。だから素直について行く。
しかしもしも、君の恋が成就してしまったのならば、この文通も終わりとなるのだろうか。君のお相手にとって、自分以外の異性と手紙を交換しているなんてことは気分が悪いだろうからね。寂しく思うが仕方がない、諦めがつくというものだ。
それでは、今週末。
かしこ
十二月十五日
***
前略
筆舌にし難い思いだ。
君はやはり突然で強引な男であった。そして嘘吐きでもあった。
交換ノートに誘われた時のため? 贈り物のため? みんな嘘だったではないか。
私好みのアクセサリーを執拗に聞いてくるとは思ってはいた。しかしあの時に買ったネックレスが私の元に郵送されるとは思いもよらない。君のしてやったりの笑顔ばかりが思い浮かぶ。
そして同封されていたメッセージ。況や突然で強引なのだよ。このすけこましめが。誰にでもするものではないと約束はさせたが、それは、私にだけやれと言ったわけではないのだからな。このすけこましめが。
ええい、どうしても文句ばかりを書いてしまうではないか。全部君のせいだ。私の顔が紅潮しているのも、胸の鼓動が強く速く打ち付けているのも、全部だ。
最後に、まとまりのない手紙になったことは素直に詫びる。だが、初詣に行く時には、君も私に謝罪することを要求する。私は待つことが得意ではあるが、今日まで待たされてしまったのだから。
かしこ
十二月二十五日
追伸
私も君が大好きだ。ずぅっと前から。
綴る手紙 平賀・仲田・香菜 @hiraganakata
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