第3話 職務質問
交番へ連行された俺は、殺風景な部屋に通されてデザイン性ゼロの冷たい椅子に座らされた。
冷たい、冷たい……鉄製の固い椅子が、ひたすらに俺の腰を冷やす。それに暖房も効きが悪く、日当たりの悪く寒い部屋が俺の体温を奪う。
「これは、何たる扱いだ!? 俺は天才を超えた超天才なのだぞ! 恐れ敬い、フカフカのソファーを用意するとともに床暖房を整備し、部屋を適温に保て! 俺を丁重に扱うのだ!」
俺のその天才的な提案は聞き入れられず、警官は厳粛な面持ちでカツ丼を差し出した。卵でとじられ刻み葱の乗せられたそれは、何処か哀しげに光っていた。
「まぁ、これでも食べて、気持ちを落ち着かせたまえ」
香ばしい匂いの漂うそれを見て、俺は眉をひそめた。
「何だ、これは?」
「壱樹亭のカツ丼だ。この界隈では、旨いと有名だぞ」
俺の提案を一つも聞き入れなかった警官は、のんびりとした口調で答えた。俺はその呑気な答えにさらに苛ついた。
「何を言っているんだ。ここは、世界中で悪事を犯した豚どもを収容する豚小屋……そして、これはその豚どもの肉を使った『カツ丼』という名の社会悪ではないか!」
すると、俺の前の二人の警官は顔を見合わせた。そして、互いに首をすくめながらはぁっと深い溜息をついた。
「君。何か、余程ショックなことでもあったのかね?」
「は? ショックなこと? 何故、そんなことがなければいけない?」
「だって、君の言動は明らかにおかしいよ」
「ふん……お前たちのような下賤の民には、所詮はこの天才過ぎる俺の崇高な言動は理解できんのだ」
警官はまたも顔を見合わせて、両手の平を上に向け首を傾げた。
「まぁ、それとも偶然にアイドルに遭遇して、気分が高揚しすぎたのか……人生の伴侶とか言ったみたいだからね」
「偶然? あれは偶然なんかじゃない。俺のこの頭脳で計算して、会うべくして会ったのだから」
「そんなこと、できるわけないだろう」
警官は馬鹿にしたように笑った。俺はそんな彼らに激しく反論する。
「いいや、できる。何故なら、俺は天才を超えた超天才だからだ。だから、俺には分かる。2999年十二の月、振動とともに悪の組織が世界に悪魔をばら撒き、世界は火の海となり滅亡する」
「いや、意味が分からないのだが……。そのような奇天烈な妄想は、一体どこから湧いてくるのだね?」
「だから、俺は天才を超えた超天才と言っているだろ! 俺はこの世の全てのものを知ることができるし、これから起こる全てのことを予測することができるのだ。俺は自分の平常心に基づき、この知能で計算して得た情報をあるがままに伝えているだけだ!」
「はいはい、分かったから。君のお名前と住所は?」
「何だ、その見下し方は!? 態度を改めろ! お前こそ、国民の血税でのうのうと寿司を食いやがって! その無礼を土下座して詫びろ!」
天才すぎる俺の崇高な考えが理解できない阿呆な警官との議論は平行線を辿るのみ。それは実に日が暮れるまで続き……警官が精神病院へ電話をしている隙に、猛ダッシュで逃げ出した。
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