第2話 予言

 頭が高~い、頭が高~い。そこの、ペチャクチャ喋っているバカップル、コンビニの前でタバコをふかし糞便座りして通行を妨げている金髪ヤンキー共、胸に金バッヂをつけたチンピラ共。俺を、誰と心得る? 俺程の天才は、この地球上には存在しないのだぞ。俺に跪き、土下座しろ!


 俺は心の中で命令した。もちろん、声に出しては言うまい。

 え、何? 怖がっているのかだと!? 何を言う、俺を誰と心得る? あんな腐れ不良輩ども、わざわざ俺が声を出して命令する間でもない……ということだ。

 しかし……待てども待てども奴さんども、一向に土下座する気配はない。


 ふん、まぁよい。お前らのような俗物はいずれ滅びる。何しろ、俺はこの世の全てのことを予測することができるのだから。


 俺は一人、ふっとほくそ笑んだ。

 今は十一月。なのに、太陽光が射しておりポカポカとした陽気。

 温暖化はこのまま、際限なく進む。そう……あと千年後にはこの世界から『冬』『雪』『寒い』という言葉は跡形もなく消え失せる。その結果、北極や南極の氷は全て溶ける。氷が全て海水に変わる影響で海面は一気に上昇するが、その頃には大量のゴミをあちらこちらに埋め立てている。だから、世界の標高はむしろ全体的に上昇するのだ。

 そして、フロンガスによって破壊された地球のオゾン層は欠片もなくなる。地球上には強い紫外線が降り注ぐが、人類は進化の過程でそれに耐えうる肌を手に入れることだろう。

 さらには人類は、農業や畜産業を行って食料を得ずともミドリムシやクロレラといった植物プランクトンを体内で育て、その葉緑体が紫外線を浴びて光合成することによって生命活動を維持することができる。そしてこれぞ、究極のエコの形なのだ。牛や豚や鶏や魚、野菜や果物なんかを食する行為は、最早野蛮なのだ。

 俺には全てが手に取るように分かる。何しろ、俺はこの世の全てのことを予測することができるのだから。


 ノストラダムスは予言した。

『1999年七の月、恐怖の大王が降臨して人類は滅亡する』

 だから、俺も予言する。

『2999年十二の月、この世の振動とともに悪の組織が世界に悪魔をばら撒き、世界は火の海となり滅亡する』

 何だって? ノストラダムスの予言は当たらなかった?

 そんなの、当たり前だ。ノストラダムスは天才を超える超天才ではなかったのだから。


 繁華街を歩きながら、そのような思考が沸々と際限なく溢れ出す。

 そんな時だった。アイドルグループ『ITK48』のNo1アイドル、マヨヨと遭遇した。

 いや、遭遇したというのには語弊がある。俺は彼女がここに現れるのを、この知能で計算し、会うべくして会ったのだから。

 俺には全てが手に取るように分かる。何しろ、俺はこの世の全てのことを予測することができるのだから。

 マヨヨ……写真を見て美しいと思っていたが、実物はさらに美しい。

 バーチャルの世界から出てきたとしか思えない、造形品のような完成された美しさ。天才を超えた超天才の相手としては、こういう女しか釣り合わない。

 俺は彼女の肩をガシッと掴んだ。

「ひっ……」

 彼女の口から声が漏れる。

 今の彼女は感動しすぎた所為か、相当に怯えた顔をしているかに見えるが、すぐに歓喜の笑顔を浮かべ恋に落ちることだろう。そう確信し、自信に満ちた声を張り上げた。

「俺は、IQ300。天才を超えた超天才だ。この世の全てのものを知ることができるし、全てのことを予測することができる。この度、お前がその超天才の人生の伴侶として選ばれたのだ。おめでとう。これからお前は、俺と共に人生という名の花道を歩むことになるのだ。有難く思え」

 殺し文句を凛々しく決めた俺は、際どい視線を彼女に送る。


 どうだ、嬉しいだろう。

 歓喜の笑顔……って、あれ? 何か、目尻に皺を寄せ、眉をひそめ……ドン引きしているように見えるぞ。そ、そうだ、もう一度言うんだ。女相手の殺し文句は、何度も言う方が効果的なんだ。


 俺はさらに声を張り上げた。

「俺は、IQ300……」

「誰か来てぇ! 変質者よぉ!」

 彼女のその叫び声が、繁華街に響き渡った。

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