第4話 十代のカリスマ
オレンジ色の夕陽が俺を寂しく照らし、背後には寂しいほどに長々とした影が伸びる。それはまるで、俺を哀れんでいるかのようだ。
そんな、その日の夕暮れ時。
「とほほ、とほほ、とほほのほ……」
俺は一人、重たい足を家に向け、トボトボと帰路についていた。
俺の脳内では、かの有名な「十代のカリスマ」の声が激しく響き渡る。
落書きの壁と夕暮れ空ばかり見てる俺。
冷たい風、冷えた体。人恋しくて……夢見てるマヨヨの元をサヨナラつぶやき走り抜ける。
闇の中ぽつんと光る自動販売機……百円玉で買えるぬくもり熱い缶コーヒー握りしめ。
俺は考える。
何ということだ。俺が天才過ぎて、この世に理解されないとは……。
全ては奴さんどもが馬鹿なのが悪いのだ。馬鹿が悪いのだが……よくよく考えてみると、この世界の大半、いや、俺以外の者は全員、俺のこの崇高な考えの理解できない下賤の民ではないか。
どれ程の天才でも、理解されないと単なる気違……嫌だ、考えたくもない。
自分の存在は、何なのだ。俺は、自分の存在が何なのかさえ、分からず震えている。
自分の存在が何なのかさえ、分からず震えている……。
そのフレーズが俺の脳内で、「十代のカリスマ」の歌声と丁度重なった。
♪兎に角もう、学校や家には……帰りたくない~♪
♪自分の存在が何なのかさえ、分からず震えている、十五の夜~♪
(引用:『十五の夜』尾崎豊)
その瞬間。家の置き場にある自分の自転車が俺の目に映った。俺は心の内に込み上げる衝動のままに、即座にそれに乗り込んで走り出す。
「♪盗んだバイクで走り出す♪
♪行く先も解らぬまま♪
♪暗い夜の帳の中へ~♪」
大声で歌いながら自転車で走る、走る。
俺は、十代のカリスマだ。
「キャー! 何あれ、危ない!」
「目がすごいよ、目が! 完全にイッちゃってる!」
「ウソだろ、信じられない……夢に出てきそうだ」
十代の若者達が、俺を見て黄色い歓声を上げている。そして、先程までただひたすらにゴミゴミと、しょうもない世間話に華を咲かせていた彼らは、一気に俺の通る王道をあける。
彼らが上げているのは変質者を見て叫ぶ悲鳴ではない。カリスマを見て上げる歓声だ。
えっ、盗んだバイクでなく、自分の自転車だって?
そんなの、関係ない。だって、俺は天才を超えた超天才なのだから。
この世は、儚い。この世は、狂っている!
見よ、この俺の姿を。まるで体が炎に包まれているかのように、遥かな影響力をもつ魔球となって、儚きこの世界に自らの体を以てぶつかるのだ!
俺の体は「十代のカリスマ」と一体となり……俺は自転車と共に河川敷へ飛び込んだ。
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