第6話
放課後、隼人と美希以外の皆が帰った後。
「私……みんなと友達でいたいだけなのに」
美希は、瞳に涙を浮かべていた。
今日も美希はクラスメイトの皆から無視された。女子のいじめは陰湿で、クラスで美希と普通に会話をするのは隼人だけになっていたのだ。
隼人は溜息を吐いた。
「人なんて……そんなもんだよ」
「えっ?」
「僕も中一の時は、皆と仲良かった。宿題を見せてあげたりして……それで、皆と友達になったと思い込んでいたんだ。でも、僕が中一の期末テストで学年一位を取った途端にみんなが敵になった。嫌味だ、本当は皆を見下してる、だの言われて、友達がいなくなったんだ」
「そんなことが……」
美希が目を丸くすると、隼人は頷いた。
「だから。そんな友達なら、少ない方が……いない方が楽なんだよ」
「でも、私。やっぱり、友達が多い方が……」
「そんなに、友達が多くなくちゃいけないの?」
隼人が美希の言葉を遮った。
「えっ?」
不思議そうな顔をする美希の前。黒板に、隼人はグラフを描き始めた。
「狭山さん、いい? 僕は友達の数に反比例して一日が苦痛になる反比例男子。その方程式は、y=1/x。そして、狭山さんは……」
一つの曲線を描いたグラフの上に、一つの直線を描いた。
「友達の数に比例して、毎日が楽しくなる比例女子。その方程式は、y=x。反比例男子と比例女子の連立方程式は、x=1……つまり、お互い、友達が一人だけの点で交わるんだ」
「いや、何が言いたいのかさっぱり……」
「だから……」
隼人は美希を真っ直ぐに見つめた。
「狭山さんは……沢山友達をつくらなくてもいい。友達は、僕だけでいいんだ」
「えっ……」
美希は、少し頬を赤らめた。
「だって、数式からもそんな答えが出てるんだ。二人のグラフの交点……連立方程式の解は、x=1、y=1って。勿論、僕は狭山さんを守る。誰が、どんないじめをしてきても……」
「ちょっと待って、それって……告白?」
美希が尋ねると、隼人の顔が真っ赤になった。
「数式を日本語に変換すると……そうなるかな」
「じゃあ、私も。数式を日本語に変換すると……私も、気付いたらあなたのことが……」
数学好きな幼い二人は夕陽の射し込む教室で、真っ赤になって俯いたのだった。
連立方程式 いっき @frozen-sea
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