*







 本物の悪は愛から始まると思う。そう言ったときの君の気持を今でも考えている。願わくば、それが絶望だったと思いたくない。それは、ちっぽけな、僕のほんのちっぽけな願望なのかもしれない。

 でも、あのときの君は、僕にはあまりにもまぶしくて。


「おい……返事をしろ……真紀……真紀……」

「竜……ちゃん……」

「しっかりしろ……こんな傷なんてすぐに……すぐに治る」

「……佳子を……佳子をお願い」

「ふざけるな……ふざけるなよ……」


 ねえ……あのときの君は、どんな気持ちだったんだい?


「……」

「……」


 世界にはこれでもかと言うほど正義にあふれている。そんな中で、悪というものは、ほんのちっぽけな存在なのかもしれない。他人を傷つけることをなんとも思わないことが正義だと定義した君は、自身を傷つけることを悪と定義づけた君を、決して許すことはないだろう。


「……真紀?」

「……竜ちゃ……ん……?」

「お前……なんで……」

「えっ……竜ちゃん……手が」

「光って……る?」


 だから、僕が君にできることは、そんな君のまっすぐな悪に対して、僕のちっぽけだけどありったけの正義で君を否定することだけだ。


 神から見れば、人の一生なんて、ほんの一瞬のものだけなんだろう。僕が君を想う気持ちなんて、他の人たちから見ればきっと取るに足らないものなんだろう。教会で愛を誓うカップルや、歳をとった老夫婦、人間に愛情を注ぐ神。大親友の千紗。木乃の父親である陽一さん。彼らの想いはきっと本物で、深く、長い。そんな彼らから見れば、僕の想いなんて、一時的なものだと笑うのだろう。でも……一瞬だけでいい。偽物だっていい。浅くたっていい。ほんの閃光のような瞬間だっていい。神が人に注ぐ愛情よりも……千紗が木乃を大事にする気持ちを……陽一さんが木乃を想う哀しみを……一瞬でいい一瞬でいいから……それを超える力を……


 力が……欲しい……


「おい、今泉……なんで、動きが……化物の動きがわかるんだ?」「手から水が出た……」「おい、ジェニファー……力が湧き出てくるよ……すぐにこのガレキをどかしてやるからな」「ママー! 物が……浮いている」「……と、飛んでる!? よし、待ってろよ柚葉!」「凄いじゃないかジル! 化物を一刀両断するなんて!」「この力があれば……」「この力があれば……」「この力があれば……」


「この力があれば……」


「この力があれば……」


「「「「「この力があれば……」」」」」
















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