待ち合わせ
*
翌日の夕方、僕は駅前にいた。木乃からの突然の『付き合って』に、もう心臓の鼓動は破裂しそうだった。これが、実はドッキリなんてこともなくはない。というか、そんな残酷な話は、男子生徒の数だけ転がっているのだろう。例えば、罰ゲームでの告白はこの世の中から消滅して欲しいほど残酷なゲームだ。しかし哀しいかな、確率で言えば、そっちの可能性が遥かに高い。4軍である僕が1軍である彼女と待ち合わせをする可能性なんて、1億円の宝くじが当たったに等しい。
待ち合わせの17時。平日で制服のままと言うのが、すごく安心した。外へ出るのに、服なんて偽ブランド『アディオス』のジャージ一着しか持ってない。そうなってくると、制服ってやつは手軽でいい。ワックスを使おうかどうかで悩んだが、気合が入っていると思われても困るのでそのままで来た。
心がソワソワして落ち着かない。実際、IWOの世界に空輪駅というモノが存在するのか、本気で考えた。僕と木乃は敵同士の関係。それでしかないと言い聞かせてきた。それでも、彼女はこうやって、軽々と飛び越えてくる。
遅刻には慣れているはずだった。IWOの世界にいると待ち合わせってやつが、凄く大雑把なものになっている。二、三時間が当たり前。場合によっては半日来ないことも多い。それでも、別に気にならなかった。自分もそうだったし、それでいいって思ってた。
でも、心がソワソワして落ち着かない――自分はこんなにも心が狭かっただろうか。5分や10分くらいの遅れでこんなにもざわつくなんて。『女子が準備で遅れるのは当然』と、彼女経験値0であろう岳が自慢げに話していたが、なんの確証もないそんな妄言にもすがってしまいそうになる。
「あの……冬馬君」
いつもより高めの声が弱々しく響く。恐る恐るやってきた彼女は申し訳なさげな表情を浮かべていた。ピンクのジャケットと淡いグリーンのロングスカート。お洒落とはほど遠い生活をしている僕にとって、それが流行なのかどうかは判別不能だが、周囲の人が彼女をチラチラと見ていることから、とにかく彼女が可愛いという事実だけは理解できた。
「待った?」
「ぜ、全然待ってない」
不思議なもので、来てくれたってわかると、さっきまでのイライラがスーッと抜けてくる。
「今日はどうしたの?」
「えっと……敵同士とはいえあなたも、性別としたらオスでしょ?」
「男だよ!」
オスとはなんだオスとは。
「だから、プレゼントを選んで欲しいの」
「……ああ、そうか」
「ん?」
「いや、なんでもない」
一人で納得した。多分、彼女には好きな人がいて、それを選ぶために呼び出された、いわば道化と同じだ。あの時、告白されていた彼だろうか。それとも、クラスメートだろうか。
「ダメだったかな?」
「全然」
そう言いながら、どんどん心が冷めていくのを感じる。期待していないって思っていても、きっと心のどこかで期待していたのだろうか。自分のそんな部分がすごく恥ずかしい。僕と彼女は憎みあう敵同士。4軍と1軍。平民と令嬢。まさか、テレビドラマのような展開を期待していたというのだろうか。
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