報酬

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『ゼルダンアーク討伐クエスト。報酬70万ダリ』


 宣伝費5万ダリ。あらゆるギルドの掲示板に貼って、すでに一週間が経過した。報酬としては相当奮発したつもりで、数年間引きこもってモンスター討伐に向かったとしても一般プレーヤーでは稼ぎきれないほどの額だ。加えて、岳のプレイヤー名は信頼評価SSクラスなので冷やかしでもない。


 結果として集まってきたのは、弱小プレーヤーが15名(20レベル〜40レベル)。中堅プレイヤーが2名(76レベル、89レベル)。すべて丁重にお断りさせてもらった。一般的なレベルで弱くはないが、僕らにとっては足手まといだ。それに、中途半端なプレイヤーであれば僕のアビリティでカバー可能なので必要がない。


 一つ以上の秀でたアビリティを持った200レベル越えのプレイヤー。その文言を追加した時点で、とうとう来てくれる者はいなくなった。それも仕方ないことだとは思う。すでに、300レベル越えの自警団パーティーを完膚なきまでに消滅させた情報が出回っている。そんな化け物に立ち向かおうなんて熟練プレイヤーは、まさしく正気の沙汰ではない。


 無情にも戦力を補充できぬまま時間は流れ、次の犯行予告場所に向かうことになった。今回のエリアは現代。ただ、普通の街じゃなく、スラム街である。瓦礫が至る所においてあり、独特の臭いがほのかに香る。ときおり、銃弾のようなものが鳴り響くこの場所には、多くの貧民のCPUが生息しており、スリや物乞いなんかも存在する徹底ぶりだ。


 こんなところに需要があるのかと思うが、マフィアや殺し屋に憧れたプレイヤーが多く属している。自分自身、こんな場所には好んで来ない。実際、この地区が市場に解放された時、多くのクレームが殺到した。マニアには好まれるが、一般ユーザー向けでないことは確かだ。


 街を歩くと、「お金頂戴!」とねだる子どもや、「いいクスリあるよ」と悪い道に誘ってくる売人など、かなり忙(せわ)しない。売っているアイテムも法外な価格のものだったり、意外なジャンクアイテムが超破格な安さで売ってたり、歩いてみると結構楽しい。


 そんな中、目的地である一軒のバーに到着する。ここは、2、3回訪れたことがある。予告場所からは徒歩で5分程度の近場だ。中に入ると、安酒の瓶がズラッと並べられている中、ワイワイとプレイヤーたちが集まっていた。小汚い椅子に座ると、ドンっと水がでてくるが、ちょっと色が変色している。


「待たせたな」


 そんな中、岳が登場した。そのエリアに合わせた装備、服装をするプレーヤーも多いが、こいつはいつも通り軽鎧。まあ、そんなプレイヤーも多いのでそこまで浮いてもいないが。


「しかし、なんでここにしようって言ったんだよ。場所はここじゃないだろう?」


 一応文句は言わせてもらう。本当なら、直接犯行予告場所に向かいたかった。いつ現れるかは彼女の気まぐれで、これから10分後に起こるのか、6時間経過しても起きないのかはわからない。それでも、最善を尽くすことがヒーローとしての義務のようにも思える。


「ゼルダンアークを倒すための仲間を集めるんだよ」


 岳が当然のように答えた。


「……それが、ここに?」


 強い仲間であれば抵抗はあるが、異論はない。それだけの戦力差がゼルダンアークとの間にあると言っていい。ただ、中途半端な実力の持ち主であれば、むしろいない方がいいとも思う。事実、ゼルダンアークに手を出すプレイヤーの大半は、危機意識のない弱小プレイヤーの場合が多い。それゆえに、強者のプレイヤーは勧誘しにくい。


「ああ、たまたま水曜日に見つけたんだ。凄腕だぞ」

「……」


 岳がそう言うなら間違いなさそうだ。ひたすら、ボッチのプレイヤーである僕とは違い、こいつは結構、仲間が多い。ギルドなども結構こなしていて、IWO内ではそこそこの有名人だ。


 それから、20分ほどが経過した後、3人組の男たちが座ってきた。


「おお。マッシュ、オルテガ」


 岳が2人にハイタッチをする中、僕は軽く会釈をするにとどめる。こんな感じのノリは苦手で、残りのタツというハンドルネームのプレイヤーも同様会釈で終わらせる。


「招集待ってたぜ。この前、九死に一生のところを助けてもらったから、恩返しをしないとな」


 レベル259。現代格闘家職のマッシュさん。溢れんばかりの筋肉がすごい。身長は2メートルを超えており、いかにも脳筋なノリが得意なタイプだ。


「そうそう、がっはっはっはっは!」


 こっちも近接系の戦士職のオルテガさん。レベル275。かなりの巨体で敏捷な動きは苦手そうだが、その分耐久力と攻撃性能には期待できそうだ。自分の身体よりも大きな斧は流石に店の外に置いてあると豪語しながら酒をかっ喰らう。


「……報酬はもらうぞ」


 静かにボソッとつぶやくのは、スナイパー職のタツという男。根暗な初老のプレーヤーだ。レベル325。彼だけは他の2人とは毛色が異なる。おそらく、仲間というよりは利害の一致でタッグを組んだパートナー的な関係だろう。しかし、狙撃の腕が確かならばぜひに欲しかった人材とも言える。


「じゃあ、行こうか?」

「待ちなさいよ」


 僕らが立ち上がろうとした時、女子プレーヤーの声が背中に響く。振り返って彼女の顔を見た瞬間、思わず二度見してしまうほどの衝撃が起きた。


「あんたたちがゼルダンアーク討伐クエストのプレイヤーたち?」


 新井千紗。ハンドルネームは千紗。1軍女子の筆頭格であり、神町木乃香の親友でもある。風貌は、今どきの女子高生という感じ。綺麗だがキツめ。4軍の僕らからしたら、相当近寄りがたい容貌だ。実際、性格は勝気なもので男子と言い争いをしてる姿を結構見かける。


「えっと……そうだけど」


 戸惑いがちに、細心の注意を払いながら答える。自分たちのハンドルネームは本名だが、そんなプレイヤーは山ほどいる。僕らが同じクラスメートだとバレることもないはずだと、何度も言い聞かせる。


「……じゃあ、私も加えてよ」

「ええっ!」

「なによ、駄目なの?」


 その強気なグイグイ感は、まさしくクラスでの振る舞いどおり。非常に苦手なタイプだ。


「いいじゃねぇか、冬馬」


 そう答えたのは岳。いつもより胸を張っているのは気のせいだろうか、立ち上がって握手を求めた。


「強いプレイヤーは大歓迎だ。一緒に正義のために戦おう、よろしく」

「……じゃ、さっさと行こうよ。ここじゃないんでしょう?」


 差し出された手が重なり合うことはなく、むしろかけた言葉もガン無視され、結果、独り言を言ったみたいになった岳は非常に可愛そうだった。

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