仲間


        *


 昼休憩。いつものように4軍指定席である端の席で、僕らはクラスメートたちの視線に注意しながら、高速でメールの応酬をしていた。


『あークソ! なんなんだよ、アイツは……強すぎだろ』

『サジ投げるなよ』

『んなこと言ったってアレはねーだろ』

『まあ……ヤバイよね』


 教室では、深夜ラジオの話しかしなかったが、そんなことも言ってられない。今では毎日ゼルダンアーク打倒のための作戦会議に勤しんでいる。


『ところで、今度の予測ポイントの割出し終わったか?』

『まあ……終わったよ』

『なんだよ、歯切れが悪いな』

『……【X】15826.236【Y】2387.357』


 若干の躊躇がありつつも、位置情報を送信した。これが、プリント配布で入手した犯行予告であることは内緒にしている。岳には本当に申し訳ないが約束をした。たとえそれが悪人とのものだろうと、弱みにつけ込むようなことはしたくなかった。


『なんでもない』

『まあ、いいや……転送っと』


 そのメッセージを見てギョッとして、思わず食パンを吹き出しそうになる。


『どういうこと?』

『ああ。俺のおじさんに自警団の知り合いがいて、次の予測ポイントを話したんだよ。そしたら、今度来てくれるってなって』

「……」


 思わずメールを打つ手が止まる。


『冬馬、気持ちはわかるよ。でも、自分たちだけじゃどうしようもない。それが現実だろう? それなのにいつまでも意地を張って自警団を呼ばないって、ヒーローでも何でもないよ。それは、俺たちのエゴだろ』

『……うん』


 それは、理解している。岳を責め立てるつもりもない。自分たちだけじゃ敵わないと思ったから、他の人たちに頼る。その選択は僕も岳も今までしてこなかった。


 それは、今まで『自分たちの力だけでなんとかしてきた』という自尊心があるからだ。どんな強敵だって、どれだけ多くの軍勢を相手にしたって、結局は2人で打ち勝ってきた。それは、紛れもなく自分たちの誇りだし、たとえ負ける勝負だとしても、他人に頼ってまで勝ちを得て嬉しいわけがない。


 ただ、今回はなんの罪もないプレーヤーに被害が出ている。僕らが勝てないせいで、他のプレイヤーがますます犠牲になっていくとしたら、それは『自分たちの問題』では片付けられない。岳自身、苦渋の決断だったのかもしれないが、それを一向に見せる様子もない。それだけ、こいつがIWOに愛着を持っている証拠だし、僕だってそうだ。


 休憩終了のチャイムが鳴り、席に戻る。いつも行われる数学の小テスト。そして、いつものように木乃は、いたずらっぽい無邪気な笑顔でプリント配布してくる。


『作戦会議は終わった?』

「……」


 どうやらバレバレのようである。


『ああ、とっておきの作戦を思いついたよ。今からなら、降参したら許してあげてもいいけど?』

『そんなことするわけないでしょう? いいわよ、いくらでも仲間を連れてくればいいわ。どれだけでも卑怯な罠を張って下さいな。そのために情報を渡してるんだから』

『大した自信だな』

『まあね。集団戦にも狡猾な罠にも慣れてるのよ。でも、わかったでしょう? だいたいヒーローは集団で卑怯な方法で襲ってくるってこと』

「……」


 それは、心の中で引っかかっている認めたくない事実だった。あくまで怪人やモンスターの召喚は彼女のアビリティである。実質、一人で戦っている者に対し、僕らは正義という名の下に多人数戦をよしとしたのだから。


『私は卑怯な正義なんかには負けない。多勢に無勢のラスボスがどれだけ強いか、あなたたちに見せてあげるわ』

「……」

『悪々堂々と受けて立ちます!』

『な、なんだよその造語』


 そんな風にツッコミながら――今、僕の中には2人の木乃がいる。不器用で変なクラスメートである彼女と絶対悪としての彼女。どちらが本物の彼女なんだろうか。


        *

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