第4話 全ての始まり

ジーノ「来たか...」


海岸で佇むジーノにマキアは話しかける。


マキア「待ち合わせには殺風景な場所じゃあないかい?」


ジーノ「軽口が叩けるくらいには回復したか、それは過去の自分を受け入れて組織に戻る気になったと解釈してもいいのか」


マキア「組織に戻る気はない」


ジーノ「ほう、ならばここで死ぬ覚悟ができたということか」


マキア「死ぬ覚悟もないね。俺は臆病だし、それであって今ものうのうと生きようとしてる卑怯者さ。でも、こんな俺でもありがとうって言ってくれる人がいる、友と呼べる仲間もいる。そんな人達を裏切ることなんて俺にはできない。だから俺は生きていく。その日常脅かすお前を俺は倒す」


ジーノ「フン、自分勝手ここに極まれりだな。お望み通りここで消えろ!」


ジーノを中心に魔法陣が広がる。

ジーノ「死の選択をしろ!『ブラックホール』」


ジーノはやはり魔法遠距離タイプだとマキアは確信した。魔力にあてられ近づいてきた魔物達がジーノが作り出したであろう黒い闇の渦に全て吸い込まれてしまった。マキアはあと一歩のところでギリギリ踏みとどまれた。


瞬間マキアの背後にいたアルドがジーノに斬りかかる。まったくダメージを受けないジーノ。と言うよりアルドの剣は後一歩のところでジーノには届いていないようだった。


ジーノ「こざかしい!!」


マキア「一筋縄にはいかないな」

アルド「あぁ、何か見えない壁に守られているみたいだ」

マキア「やはり時を止めて一撃を与えるしかないみたいだな」

アルド「いくぞ!マキア!」

マキア「ああ!アルド」


刻の懐中時計とオーガベインを同時に発動する。

アルド・マキア『時よ、止まれ』


時の静止空間にてアルドは斬りかかり、マキアは槍で突進する。しかし、ジーノにダメージを与えることはできない。そして、静止した時の中でジーノは呟く。


ジーノ「詰めが甘い、だから足元をすくわれるのだ。『ブラックホール』」


マキア「やばい!アルド!距離を取れ!」

距離をとったアルドとマキア。危機一髪、ジーノの放ったブラックホールの効果範囲外に逃げることができた。


どうする?何故そもそもヤツは静止した時の中で動けるんだ。アイツらの組織は刻のアーティファクトを探していた。ならジーノも何か持っているんじゃないか?


色々思考するマキアだが全ての憶測の域をでず、解決策には至らない。レイの防御不可能な斬撃ですら、トリックはあった。何かあるはずだ。


ジーノの魔法はブラックホール一択。いいかえるなら一撃必殺の遠距離魔法だ。対象範囲の生物に死の選択をさせ、強制的に死に至らせる魔法。そんな魔法はアルドですら聞いたことはなかった。


ジーノの手首を見る。明らかに似つかわしくない腕時計をしていた。

マキア「あれか..!! 腕時計」


ジーノ「ご名答、Ⅻの刻のアーティファクト、刻の腕時計。装着者周囲の時を歪めることができる。お前たちの攻撃は減速し、永遠に私に届くことはない」


マキア「なるほどだから遠距離魔法一択なのか。自分が武器を振るえばその攻撃も遅くなるもんな。対象範囲はかなり狭いみたいだけど」

アルド「でも、あれじゃあ攻撃が届かないぞ!どうするマキア」

マキア「どうするも何も打つ手がないなぁ...ってアルドお前どうしたんだ!?」


見るとアルドが消えかかっていた。アルドの周りを光の粒が囲っている。どんどんアルドが薄くなっていっている。


アルド「うわっ!?何だこれ!!」


ジーノ「クック、アーハッハッハ」

その光景を見たジーノが高らかに嗤う。


マキア「何がおかしい!?」

ジーノ「アルド、とかいったか?闇に仇なす傍に立つ者よ。お前はここで終わりだ」

アルド「どういうことだ!?」


不敵な笑みでジーノは微笑む。

ジーノ「刻のアーティファクトの一つに過去に物を送ることができるものがある。そのなかに私の魔法であるブラックホールと過去の私へ手紙を仕込んでおいたのだ」


ジーノ「リンデに向かっているお前を消すためのブラックホールをな」


マキア「過去のアルドを消して今のアルドの存在を消そうとしているってことか?」


ジーノ「ご名答、いわゆる過去改変だよ。気づいたところでどうしようもない。消えるがいい!闇に仇なす傍に立つ者よ!!」


どんどん薄くなっていくアルドの存在。

そんなアルドが最期にマキアに言葉を託す。


アルド「マキア... もうダメみたいだ...」

マキア「ダメだ!アルド!消えてはダメだ!」

アルド「..マ..キア..生きのびてくれ...」


瞬間、光の粒子が散乱し、アルドの存在がマキアの目の前で完全に消える。その凄惨な光景を見たマキアは声ならない叫びを上げた。


マキア「おおおおおおおおぉぉ!!!!」

 

ジーノ「さて、マキアよ。お前も時間の問題だな。私に攻撃が届かなければ、味方もいない。刻のアーティファクトも効果がないとすれば打つ手もないだろう」

ジーノ「チェックメイトだ。消えろ『ブラックホール』」


ブラックホールの吸引力に負けないようにマキアは足掻く。死んでしまったアルドの意志を無駄にしないためにマキアができることはこの場で死なないことだった。


何度も、何度も放たれるブラックホール。その度にマキアは足掻いた。打つ手はないが、自分がここで死ぬわけにはいかない。


ジーノ「いいかげん見苦しいな。マキアよ」

マキア「友から生きろと言われてるんでね」

ジーノ「その友ももういないではないか。いい加減この余興も飽きた。そろそろ消えるがいい。」


そう言い終えるとジーノは詠唱を始めた。さきほどから連発しているブラックホールとは違う詠唱であり、大気が震えるのをマキアは感じた。


おそらく次の魔法には耐えられない。マキアは直感でそう思った。


マキア「もう耐え忍ぶこともできないのか、アルド...すまん...」


マキアが唯一できることは、アルドの意志を継いで生き残ることだけだった。でもそれも叶わない。詠唱はかなり長い。おそらく逃げ場はないだろう。詠唱を止めることは叶わない。なぜなら、向こうには無敵のバリアがあるから。


生き残りたい...どうやってでも...


生き残る...?


ふとしたアイデアがマキアに浮かぶ。


マキア「生き残るだけなら...」

マキアが呟く。


そしてマキアはジーノに見えないように手をひっくり返す。そして彼は叫ぶ。


『これから起こる未来を、犠牲を、そして友を守るために俺はココにいる!!』


その言葉がどういう意味を持つのかは分からない。これから起こる未来に意味を持つのか、それとも過去に意味を持つのかはわからない。でも、マキアは叫ばずにはいられなかった。


叫んだところでジーノの詠唱は止まらない。

マキアが叫んだ後から数えてもかなりの時間詠唱しているだろう。かれこれ数分は詠唱は続けている。


その詠唱時間とこれから起きる事象が一致していたのは奇跡と呼ぶ以外ないと言えるだろう。そしてそのことはジーノはもちろんマキア自身も知る由もない。


ジーノの詠唱が終わる

ジーノ「トドメだ!暗黒の渦に飲まれて消えるがいい『ダークマター』」

ダークマターと呼ばれる魔法が周囲を包み辺りが宇宙空間のようになる。究極の暗黒魔法がマキアに襲い掛かろうとしていた!


その瞬間マキアはジーノに駆け寄り、長い詠唱時間の間手に握りしめていた砂時計をひっくり返す。


マキア「刻の砂時計よ!時間を戻せ!」


砂時計より光の波が広がり、マキアとジーノの意識を過去に送り込む。2人の存在はこの時系列から切り離された。いや、この時間以降彼らを見た者はだれもいないといったほうが正しいだろうか。


誰もいなくなった後のセレナ海岸でぼんやりと光が集まってくる。光は集合し形を成した。それは消えたはずのアルドだった。


アルド「ん...あれ?!」

アルド「どうなったんだ!?アレ、俺確かに消えて...?」


辺りを見渡すアルド。ブラックホールやダークマターの衝撃により辺りの地形は荒れていた。そこにマキアとジーノの姿はない。


アルド「マキア...どこにいっちゃったんだ..??」


場面は過去に戻り、港町リンデに向かうためセレナ海岸を歩くアルドで幕は上がる。


アルド「たまには合成鬼竜に乗らずにこうやって歩くのもいいよな」


聞き覚えのある声に巻戻ったマキアは反応する。

しかし、記憶を失った反動からか満足に身体を動かすことはできない。

(この声は... 体が動かない...)

(気づいてくれ... 俺に気づいてくれ.. ア..ル?ド)


戻った時間の長さからかマキアは記憶の大部分、名前以外の全てを忘れかかっていた。彼はアルドと初めて出逢った場所、セレナ海岸の岩陰に倒れていた。


ここで、アルドに気づいてもらえなければ未来は守れない。アルドはリンデに向かい、ブラックホールで消失してしまい、未来は変えられない。マキアは必死に手を伸ばす。


記憶が消える。ケーキを運ぶ女の子の記憶。

記憶が消える。リンデの町の宴の記憶。

記憶が消える。レイやジーノとの戦闘の記憶。


手を伸ばした先にあった小石を掴み、彼は最後の力でそれを投げる。その行方を彼は知らない。その小石を投げた記憶でさえ彼はもう憶えてないからだ。


アルド「いたっ!何だよ危ないなぁ」


その声を聞いた時、彼は安堵したのを憶えている。

何度も聞いた友の声だったからだ。

これでもう大丈夫...


記憶が消える。友であるアルドとの記憶。


急に飛んできた小石にアルドが首を傾げていると、岩陰より呻き声が聞こえてきた。


???「...ぅう..」

アルド「...ん? 何かそこの岩陰から声がしたような」


岩陰の後ろへ歩くアルド。そこには地べたに倒れた男性がいた。そして、その傍らにはエイヒ(魔物)がおり、男性は今にも襲われそうだ。


アルド「え!大変だ!おい、アンタ大丈夫か?」


ふたたび場面は現代に戻る。

死闘により荒れ果てたセレナ海岸でアルドはマキアを探していた。もう時間がかなり経ってしまったが、マキアは見つからなかった。


アルド「結局、マキアは見つからなかったな。ジーノも消えたままだったし」

アルド「マキアどこいったんだろ... 」

アルド「一度リンデに戻ろうか」


セレナ海岸よりリンデに戻るアルド。

リンデの酒場に立ち寄ったアルドは自身の妹であるフィーネの声でハッと我に帰る。


フィーネ「おっそーい!どこ行ってたの?お兄ちゃん!」

エイミ「遅いのは朝起きる時間だけにしときなさいよね」

サイラス「まったくでござるよ。大遅刻でござるよ」

リィカ「待人来ズ!デスノデ!」

エイミ「ちゃんときたわよリィカ... 大遅刻だけど」


そういえばリンデの酒場で仲間達と待ち合わせをしていたことをすっかり忘れていた。アルド自身それどころではないほどの事件に巻き込まれていたのもあったのだけれど。驚いた様子のアルドを見てエイミが尋ねる。


エイミ「なにかあったの?アルド」

アルド「あぁ...実は..」


アルドはこれまでの経緯とマキアのことを仲間に話した。刻のアーティファクトのこと、レイやジーノとの死闘、消えてしまったマキアのこと。


サイラス「それは災難でござったなぁ」

リィカ「アルドさんは、きっとその方に救われたよではナイデショウカ?」

エイミ「どういうこと?リィカ?」

リィカ「マキアさんはきっと砂時計をアルドさん

のタメに使い、ここから先の時間から姿を消したのデショウ」


リィカの推測はマキアが時間のループに囚われてしまったのではないかということだった。


エイミ「そんな...」

アルド「マキアを助ける方法はないのか?」

リィカ「残念ながら時間のループに囚われてしまっている以上どうしようないかと思われマス。」

フィーネ「お兄ちゃん...」


沈黙と絶望がアルドと仲間たちを包む。一番落ち込んでるはずのアルドが一番に口を開く。


アルド「でもいつか俺...」


アルド「マキアも救いたい。エデンだけじゃなく、時間に囚われている全ての人達を」

フィーネ「お兄ちゃん!」

エイミ「アルド!」

サイラス「そうでござるな!」


アルドの言葉で場に活気が戻る。


アルド「(今は無理かもしれない。だけどマキア、お前にもらった命無駄にはしないからな。いつか絶対助けてやるからな)」


エイミ「さぁ!アルド今はいっぱい食べて力をつけましょ!みんな待ってたんだから!」

アルド「あぁ!そうだな!」


その年のリンデの港町の宴は夜遅くまで続き、ミグランス王朝が始まって以来最大の賑わいを見せたとかなんとか。


アルドは忘れはしない。ケーキを届ける女の子を助けた心優しい青年のことを。


彼が何度忘れても、アルドが憶えている限り彼の存在が消えることもないのだから。そしてアルドが存在している限り、彼もまた存在しているのだから...


第四話 完

アルドと刻のアーティファクト 完結。

作者 あとがき

ここまで読んでくださった皆様ありがとうございました!拙い文章でしたが楽しんでいただけたなら光栄です。

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時空を超える刻のアーティファクト にこら @nicora1017

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