第3話 過去からの追跡者

アルドとマキアが秘宝の情報を整理しているところで幕は上がる。


アルド「聞き込みした内容を整理すると遺跡の入り口は西にまっすぐ砂漠を進んだ先にあるって言ってたな」

マキア「たけど..... うわぁ!!!!??!」

アルド「どうしたんだ!?マキア!?」

マキア「もどったのか...?」


目の前に倒れて絶命していたアルドがいることにまだ現実である実感が湧かないマキアだった。彼にとってはどちらも現実ではあるが、先ほどまでの凄惨な光景は日常とかけ離れすぎていて悪夢を見ていた感覚に近い。


アルド「おい!大丈夫か!マキア」

マキア「あぁ... すまない」

マキア「なぁ、アルド。この世に防御不可能な攻撃があるとすれば、何だと思う?」

アルド「何だ突然!?変なマキアだな」

マキア「いいからさ!なんかないか?」

アルド「う〜ん。でもオーガベインのアナザーフォースは防御不可能かな」

マキア「オーガベイン?」

???「呼んだか」


アルドが佩いた大剣が急に喋り出し、驚くマキア。


アルド「あ、マキアには言ってないよな。コイツはオーガベインっていう魔剣なんだ」

オーガベイン「ふん!大した用がないのに呼ぶな」


あの時、レイに殺されかけた時、倒れたアルドから聞こえた声はこのオーガベインの声だったのだとマキアは理解した。


マキア「で?そのアナザーフォースってのは何だ?」

アルド「オーガベインの力で時を止めることができるんだ。一時的だけど相手は防御不可能になると思う」

マキア「時を止める... ってのは確かに防御できないよな」

マキア「まさか...!!!」


マキア「アルド、実はな...」


マキアは自分が時を逆流したこと、この先の砂漠で何が起きるのか、レイという男の存在、刻の懐中時計のことをアルドに説明した。


アルド「なるほどな... だからさっきはあんなに慌てていたのか。話してくれてありがとうなマキア」

マキア「あぁ。嫌な悪夢だったよ。でも、アイツは俺の過去を知っていたようだった」

アルド「マキアの過去の手がかりには違いないよな。危険だけどまた会いに行くしかないのか」

マキア「その刻の懐中時計ってのもアイツの手に渡ったままってのは危険だと思うし、アイツには聞かなきゃいけないこともあるしな」

アルド「でも防御不可能な攻撃ってのはどうするんだ?このままだとまた同じことの繰り返しになっちゃうよな」

マキア「それについては考えがある。砂漠を歩きながら説明するさ」


砂漠を西に向かって歩くマキア。先の方で砂嵐が発生しており、視界は悪いが目を凝らすとフードの人物がこちらに向かって歩いてきている。


フードの人物「ん...? マキア!マキアじゃないか!」

マキア「....」


マキアは沈黙する。


フードの人物「俺だよ!レイだよレイ!...どうしたんだ?マキア」

マキア「くっく。三文芝居だな!演技はもういいぜ!記憶が残ってるんだろお前も!」


次はレイが沈黙する。沈黙を破ったのは驚くほど軽薄な言葉だった。


レイ「....三文芝居とは酷いなぁ〜」

レイ「しかし、逃げると思っていたがノコノコ戻ってくるとはどういう風の吹き回しだ?」

マキア「やはり俺の刻の砂時計で一緒に遡っていたのか。あの時、助けれなかったのがアルドだけなのが心残りだぜ!」

レイ「どのみち闇に仇なす傍に立つ者を殺した後にこの先の町も滅ぼすつもりだったがね」

マキア「なんてやつだ...」

マキア「何故こんなことをする?お前の目的は何だ?」

レイ「それを聞いたところでここでキミも死ぬのだから関係ないさ。何故か彼に協力しているみたいだからね」


レイ「... ところで、彼はどうしたんだい?まさか彼だけ逃したのかな?」

マキア「へっ!誰が言うかよ!お前は俺がここで倒す!」


マキアの槍の突きで闘いの鐘は鳴る。


レイ「無駄なことを...」 


レイがマキアの突きを避け、大剣を振りかぶる。


レイ「刻の懐中時計よ!時を止めろ!」


時が止まる。マキアの予想通り、懐中時計の能力は時を止めるものだった。この空間の中ではレイの攻撃を遮ることができない。有効範囲はマキアの砂時計よりは広そうだ。


レイの斬撃をマキアが受け、血飛沫があがる。


マキア「くっ...」

マキア「刻の砂時計よ!時を戻せ!」


マキアの槍の突きで2度目の闘いの鐘は鳴る。

レイは急な時の逆流に反応できず、今度は回避ではなく大剣でマキアの突きを受ける。レイが防御に回ったところで、マキアが叫ぶ。


マキア「今だッ!アルド!!」


レイの後方の砂嵐の中からアルドが剣を振りかぶってレイに襲いかかる。


だが、レイは軽薄なそして余裕な笑みを崩さない。

レイ「これが奥の手か...浅はかだな」

レイ「無駄だといっているのに...」

レイ「刻の懐中時計よ!時を止めろ!」


時の静止空間では剣を振りかぶるアルド、槍を突くマキア、2人ともその態勢で静止している。


レイ「やれやれ..学習しな...」

ザシュッ!!!突如、響く斬撃にレイは理解できない。間髪入れずに自身の身体に迫る激痛で理解する。

レイ「...なっ!!!」


アルド「ふぅっ... 何とか上手くいったな」

静止した時の空間でアルトが動いていた。


レイ「馬鹿なッ!!!何故動ける!」


オーガベイン「我らも時を止めたのだ!愚か者め。まぁ、こちらも一か八かだったがな。」

アルド「お互い時を止めた空間だと、時を止めたもの同士は動けるみたいだな」


レイの傷は深く致命傷だ。


時の静止空間が時間切れにより解除される。


レイ「...こんなことで..!!!」


レイの手から懐中時計が落ちる。それを拾うマキア。


マキア「なんとか上手くいったみたいだな!さぁ、話してもらうぞ!俺の過去のこと!」


レイを追い詰めたマキア。その背後からレイでもなく、アルドでもない声が聞こえてきた。


???「昔から詰めが甘いのだ。だから、大事な局面で足元をすくわれるのだよ、キサマは」


勝利を確信したアルドとマキアの背後にフードの人物が現れる。セレナ海岸、そしてリンデの町でアルドとマキアの動向を監視していた男だ。


レイ「..ジーノ...」

ジーノと呼ばれた男はフードを外す。外見は長身の痩せ型、銀髪ではあるが、レイと違い短髪。そして褐色の肌であった。


ジーノ「我らの組織に敗者は必要ないのは覚えているな?」

レイ「待ってくれ、俺は刻のアーティファクトを...うわぁ..!!」

レイの身体が突如燃え上がり、消失した。


目の前の光景を見てアルドは怒りに震えた。

アルド「アイツはアンタの仲間だったんだろ!何でこんな酷いこと!」

ジーノ「敗者は必要ないといったはずだ。闇に仇なす傍に立つ者よ。そしてマキアよ」


ジーノと呼ばれた男はマキアのことを知っているようだった。


マキア「何で俺の名前を...」

ジーノ「やはり記憶を失っておるのだな。教えてやろう。キサマが知りたがっていた生い立ちをな。」

アルド「アンタもマキアの過去を知っているのか」


ジーノ「ふん、当然であろう。コイツもこの時代より数千年先時代の人物、時の研究機関の組織の一員なのだから」

アルド「マキアが...アンタらの仲間だって...」

マキア「嘘をつくんじゃねえ!俺はアンタらみたいな非道なことはしない!」

ジーノ「嘘ではない。キサマは人体に流れる時を研究する研究者だったのだ。自分の服装に違和感はなかったか?」

アルド「ちょっと待て... 人体に流れる時だって?」

ジーノ「あぁ、そうだ。人体に流れる時、つまり老化だ。それを加速、逆流できないか、もしくは止めれないか研究をしていたのだ」

マキア「嘘をつくな... そんな... そんな...」

ジーノ「キサマは人を好きだと言っていたな?笑わせるな!あれだけ人を弄びモルモットのように扱っていたものが!」


絶望するマキアを無視して、ジーノが話を続ける。


ジーノ「だがそんなお前に問題が生じたのだ。我らに下った刻のアーティファクト回収命令の際、お前は刻の砂時計を手に入れ、時を逆流した」

ジーノ「刻の砂時計で戻れる時間は通常は自分が生きてきた時間のみだ。戻れる対象は自分の意識のみだ。だが、お前はそれ以上に戻れないか自分の身体で人体実験したのだ。そこで、致命的なバグが発生した。当然、意識を上書きする肉体がないのだからな」

ジーノ「結果、お前はこの時代の自分の先祖まで戻り、先祖の存在を上書きし、この時代に顕現した。服装や容姿まで未来のままであるのはそのバグが原因だ」


マキア「そんな...そんな...ことが..」


ジーノ「代償として全ての記憶を失っているみたいだがな」


アルド「記憶を...?」


ジーノ「お前たちも感じただろう?時を逆流する際、意識がはっきりしない感覚を」

ジーノ「刻の砂時計は記憶を代償とし、時を逆流しているのだ。そのせいでキサマは記憶を失っている」

ジーノ「マキアよ。せめてもの情けだ。今ならレイが座っていたⅫの席が空いている。帰ってくるなら

手配はしてやろう」

ジーノ「よく考えるといい。セレナ海岸にて返事は待とう。さらばだ」


ジーノは砂嵐の中に姿を消した。

ルチャナ砂漠に残されたアルドとマキア。


マキア「俺は人を助けるのが好きだなんていって、大勢の人間を犠牲にしていたんだな...」

アルド「マキア...」

マキア「その上、自分の先祖まで上書きして何がしたかったんだろうな」

アルド「でも、今のマキアは違うだろ?女の子のために砂時計を使ったり、レイの凶行を止めようと必死に頑張ってたじゃないか。」

マキア「でもそれ以上の事を俺はやっている。許されない罪だ」

マキア「アルド... ここで俺を殺してくれ...」

アルド「マキア!?何を言っているんだ!?」

マキア「俺は組織に戻りたくもないし、今の自分も許すことはできないんだ!ここで消えるのが一番なんだよ!!」

アルド「そんなことはできない!」

マキア「アルドにその気がないのなら...」


一閃。マキアの突きがアルドの頬を掠める。


マキア「力づくしかねえ」

アルド「ッ..!? やるしかないのか...?」


アルドが剣を鞘から抜かずに戦う。マキアが叫ぶ。


マキア「刻の懐中時計よ!時を止めろ!」


すかさずアルドはオーガベインを抜き、アナザーフォースにより時を静止させる。お互い動ける状態で攻防が繰り広げられているが、アルドには攻撃する気はないので防戦一方だ。今のはマキアは死にたがってる。自分が攻撃すれば、マキアは受け入れてしまうだろう。そうアルドは感じていた。


マキア「これで...終わりだ」

マキアの連撃でアルドは疲弊しきっていた。

しかし、マキアの攻撃の手は止む。


マキア「どうすればいいんだ... 答えてくれよ アルド...」


絶望しているマキアにかける言葉が見つからないアルド。


アルド「とりあえず組織に戻るのはダメだ。それは絶対マキアにとっていい未来にはならない」


マキア「アルド...」


アルド「とりあえずリンデに戻ろう。そこから、どうするか考えるしかない」


マキア「あぁ...」


ザルボーから合成鬼竜にてリンデへ向かう最中。


合成鬼竜「やはり、光に仇なす傍に立つ者だったか」

アルド「鬼竜は気づいていたのか?」

合成鬼竜「おそらくだが、マキア。お前にはファントムの思念がまとわりついている」

マキア「ファントム...?」

アルド「ファントムだって!?」

合成鬼竜「未来にいたときに聞いたことがある。ファントムと呼ばれる存在を受ける器として選ばれた12人の孤児がいたと。何の目的かは知らんがな」

アルド「そんな...」

マキア「俺は根っからの悪ってわけか...」


合成鬼竜「フン。そんなこと気にしているのか」

アルド「鬼竜..!!そんな言い方しなくても!!」

マキア「...」


合成鬼竜「マキアよ。俺は初めに言ったな。アルドの仲間であれば問題ないと。お前は独りで不幸のどん底にいるつもりかもしれないが、その男が横にいれば大丈夫だ。アルドは漢の中の漢であるこの合成鬼竜が認めた漢だからな」


マキア「鬼竜...!!」


合成鬼竜「さぁ、決着をつけてこい!もうすぐリンデに着くぞ」


リンデに着いたアルドとマキア。


マキア「...」

アルド「やっぱり不安か?」

マキア「まぁな...」

アルド「あ!マキア危ないッ!」


そこにドンッとマキアに何かがぶつかる。


???「いった〜い」

マキア「すまない、ボーッとしててってキミは...」


ぶつかったのは以前、リンデのこの場所で母親のためにケーキを運んでいた女の子だった。


女の子「あ!お兄さん達!この前はありがとう」

マキア「ありがとうって何もしてないぞ」

女の子「ううん。お兄さん達の言う通りゆっくり歩いて帰ったらちゃんとお母さんにケーキプレゼントできたよ!いそがばまわれ?だっけ?」

女の子「あのままだったら私、きっと今日みたいにぶつかっててケーキ台無しにしちゃってた!だからお礼!ありがとう!お兄さん達!」


女の子「あれ?お兄さん泣いてるの?どこか痛いの?」


しばらくして女の子は手を振って帰っていった。


アルド「落ち着いたか?」

マキア「アルド。俺がしてきたことは無駄じゃなかったんだな」

マキア「自分の中で答えは出た。だからついてきてくれアルド」

アルド「あぁ!俺でよければついていくよ!」


ジーノの待つセレナ海岸へ向かうアルドとマキア。

そして舞台は最終局面へ。


第三話 完。

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