4ー2 エンド王子の結末

 国王陛下に呼ばれてステージの上に上がった俺達は観客達と向き合っていた。モニターの中にいる陛下に背を向けることになるのだが、これで問題ないらしい。


『あらためて紹介しよう。我が息子、クリフォードが見いだした、ノア、クラウディア、ティリアの三人だ。彼らの活躍のおかげで、未来ある若者達の多くの命が救われた』


 国王陛下の言葉に歓声が上がった。

 だけど――


「ちょっと待ったっ!」


 突然、そんな声が広場に響いた。

 続けて、ステージ上にエンド王子が上がってくる。

 他の者が同じことをすれば即座に取り押さえられていただろう。だがこの国の第一王子である彼は、誰にも咎められることなくモニターの陛下を見上げた。


「父上、さきほどの言葉には異論があります!」

『……ほう? 良いだろう、申してみるがよい』


 国王陛下がどこか面白そうに促す。


「弟のチームも多少は活躍したかもしれません。ですが、今回もっとも評価されるのは俺の率いたチームのはずです!」

『ふむ。それはアイリという娘が率いるチームのことか?』

「はい。彼らは瘴気溜りの現場に駆けつけ、弟のチームを助けました」

『そうか。ならば、本人達に確認してみよう』

「……はい? 本人達に、ですか?」


 エンド王子が首を傾げるが、国王陛下はそれには答えず手を上げた。直後、国王陛下が映し出されているモニターのすみに、別の映像が流れ始める。


 そこに映し出されているのはアイリ達。


『単刀直入に訊こう。我が息子、エンドの言っていることは事実か?』

『いいえ、陛下。私達は少し手伝いをしただけでございます。それどころか、ノア達のチームに助けられなければ、とっくに全滅していたでしょう』

『うむ。よく正直に答えてくれた』


 モニターに映る者達のやりとりが終わる。


『――という訳だ。まだなにか言いたいことはあるか?』

「くっ。それは……その……」

『なければ話はこれまでだ』


 国王陛下がエンド王子を下がらせようとする。

 だが――


「いいえ、父上、まだ話は終わっていません」


 エンド王子はそう言ってニヤリと笑った。

 一体なにを言い出すのかと、周囲がざわめいた。


『いいだろう。この際だ、納得がいくまで話すがよい』

「はい。たしかに、彼らが活躍したのは事実のようです。ですが、クリフォードのチームというのは訂正していただきましょう」

『ふむ、なぜだ?』

「それは、クラウディア達が、今も俺の仲間だからです!」

『……おまえはクラウディアとの婚約を一方的に破棄したと聞いているが?』


 国王陛下が怪訝な顔をした。

 俺もエンド王子がなにを言い出すのかと警戒する。


「はい。ですがそれは、伸び悩む彼女を叱咤するための愛の鞭だったのです! 彼女はすぐにそれを理解し、第四階位まで至りました。これは俺への愛ゆえなのです!」


 エンド王子は高らかに宣言する。

 広場にいる者達の一部が感心するような顔をした。

 そして――


「さあ、クラウディア! 今こそ俺のもとに戻ってこい!」


 エンド王子がクラウディアに手を伸ばす。

 そのシーンがモニターに大写しにされて――


「え、嫌ですけど?」


 拒絶するクラウディアの言葉がlive中継された。

 エンド王子の呆然とした表情も映し出される。


「は? な、なぜだ?」

「なぜもなにも、エンド王子の元に戻りたいなんてこれっぽっちも思っていませんから」

「う、嘘だ! はっ、そうか、照れているんだな!」

「いいえ、そもそも政略結婚自体、私は望んでいませんでしたから」

「ばかなばかなばかなっ! そんなはず、そんなはずはない!」


 エンド王子が顔を真っ赤にして捲し立てる。

 直後、モニターに別の映像が映し出された。

 それは、俺には覚えのない状況だ。

 腕を失って血まみれの俺の側で、クラウディアが必死に祈りを捧げている。


『――どうしてよっ! どうして力を授けてくれないのよ! 神様、いるんでしょ! いるなら私に力を寄越しなさいよ! ここで第六階位に至れないなら意味ないでしょ!』


 聖女が神々に暴言を吐いている。

 だけど、見ているだけで胸が苦しくなるような悲痛な声。クラウディアがどれだけ俺を想っているのかが、痛いほどに伝わってくる。


『ノア様のために聖女になったんだから――っ!』


 その言葉を切っ掛けに、クラウディアに神々しい光が降り注ぐ。

 そうして、彼女は第六階位の奇跡、エクストラヒールで俺の腕を修復した。


 その映像を切っ掛けに――


「愛だなっ!」

「ラブラブね、爆ぜなさいっ!」


 囃し立てる声が上がった。

 エンド王子がブルブルと震え始めた。


「ばかな、ばかなばかな! あり得ん! クラウディアは俺のために可愛くなった。俺のために第四階位に至ったんだ。クラウディアは俺に惚れている!」

『おまえはあの映像を見ても、まだそのようなことを口にするのか?』


 国王陛下の呆れた声が響いた。


「……だとしても、クラウディア、おまえは俺の婚約者だ!」

「その婚約は、貴方が一方的に破棄しました」


 クラウディアが反論する。


「ならばもう一度婚約すればいい! いや、俺と婚約してもらう!」


 エンド王子が見苦しく捲し立てた。

 直後、モニターに大写しになる映像が再び変わる。

 それは模擬訓練が開始される直前の映像――と言うか、ガゼフと話す俺達だった。


 モニターの俺は、ガゼフと賭けをしている。

 って、おい。

 この映像ってまさか――


『あ、あのあの、ノア様、話すって、どこまで……?』


 映像の中のクラウディアが動揺している。

 おいばかやめろと叫びたい衝動に駆られるが、映像は無情にも流れ続けた。

 そして――


『だ、だって全部って、その……空き教室でしたこととか、メイド服でしたこととか……だ、ダメだからねっ!? 毎晩私からノア様に迫ってるとか、絶対話しちゃダメだからね!?』


 モニターの中のクラウディアが物凄いことを叫ぶ。それが王侯貴族や騎士達、そして学園の生徒達が集まる学園の広場に響き渡った。

 広場に、なんとも言えない沈黙が流れた。


「ま、待て、いまのは……クラウディア?」


 エンド王子が恐る恐る尋ねる。

 クラウディアは視線を泳がせたが、やがてエンド王子へと向き直り――


「私は身も心もぜぇんぶノア様のモノなので、貴方と婚約は出来ません」


 にっこりと言い放った。


「そ、そんな、ばか、な……っ」


 哀れなエンド王子は泡を吹いて倒れた。

 

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