4ー1 学園祭の結末
学園祭の最中に瘴気溜りが発生した。
けれど、それは深夜の出来事だった。しかも、この国にとって瘴気溜りが発生するのは日常茶飯事のことなのでとくに騒ぎにはなっていない。
死者が出なかったのも理由の一つだろう。
そんな訳で、最終日の学園祭は滞りなく開催された。
影響があったのは、最終日の午前におこなわれる予定だったlive中継くらい。模擬訓練が中止されたため、初日の戦闘風景を編集したモノに変わっていた。
そうして午後になれば、学園祭の催しに対する様々な発表がおこなわれる。
模擬店の人気投票や、トーナメント戦の結果などである。
最初は模擬店の人気投票の結果で、三位に俺達のクラスのカフェが選ばれていた。
ただし、来客者の一部からは、店員が学園の風紀を疑うような恰好をしていたという苦情が入っていることも告げられた。来年はその点について留意するように、と。
賞状を受け取ったのはカフェの運営をおこなっていたクラスの女の子。話題に上がった風紀を疑うようなメイド服を着ていたので、顔が真っ赤になっていた。
物凄い羞恥プレイである。
その後、各トーナメントの優勝者から三位までが発表されていく。彼らは、来年の模擬訓練に参加する候補として名前を覚えられることになるだろう。
そして――
『最後は、いよいよ模擬訓練の成績発表に移ります』
学園の広場に作られたステージの上。モニターにも映し出されている司会がそのように告げ、観客達からざわめきが上がった。
『知っての通り、昨夜未明に模擬訓練がおこなわれていた森で瘴気溜りが発生。模擬訓練は中止という流れになりました。ですが、このまま成績を発表しないのはあまりに味気ない。審議の結果、中止時点での成績を元に順位を発表することにいたしました』
再び観客達からざわめきが上がった。
続いて、中止時点での成績を元にするのなら、初日に無理をしたチームが特になる。後日あらためて訓練をやり直すべきだという意見が上がった。
主に参加チームの生徒だろう。
その声が思った以上に大きく、広場は一時騒然となった。
戸惑う司会。そこでステージの上に先生が上がり、司会になにかを耳打ちする。
「お静かに願います。順位発表に至った経緯ですが、こちらをご覧ください」
司会の言葉を切っ掛けに、大型モニターに映されていた画像が切り替わる。そこに表示されているのは、チーム名を伏せた各チームの成績表である。
戦闘力や索敵能力、到達ポイントなどなど、様々な項目で評価された成績表。上位十チームのスコアが表示されているが、四チームの成績が抜きん出ている。
「二日目は成績を落とすことも考えられますが、それを加味しても、上位四チーム以外が三位以内に入ることはないと判断いたしました」
こう言ってしまえば、これ以上不満の声も上がらない。
いや、あげられないと言うべきだろう。
二日目がおこなわれれば自分達が入賞していたかもしれない! なんて言ったところで、貴方のチームは何点ですので入賞は不可能です。なんて言われるればおしまいだ。
瘴気溜りはこの国を悩ます問題だ。
その瘴気を払う者達には、この国の王族や貴族も注目している。
この模擬訓練の結果発表もしかりだ。
そんな発表の場で運営の決定に異議を唱え、能力不足を告げられたあげく、自己評価も未熟なんてレッテルを付けられたら未来はなくなる。
という訳で、それ以上の文句は上がらない。
模擬訓練の成績発表が開始された。
まずは三位。
クリフォード王子の率いるAチームの名前が挙げられる。チェックポイントまでの距離は四チームの中で最下位ながらも、堅実な戦い方と優れた索敵能力などが評価された。
続けて二位。
『二年――特派一組。ガゼフ率いるAチーム!』
二年の名前が挙がった瞬間、辺りからざわめきが上がった。
高等部の生徒にとって、一年という経験の差は非常に大きい。
三年生や、特別クラスが率いる選抜チームが上位を占めることがほとんどのこの模擬訓練において、下級生が上位に食い込むことは滅多にないからだ。
ちなみに評価内容としては、移動速度がダントツの一位。戦闘力も高評価を受けていたが、索敵能力が低めで二位に留まったようだ。
そして栄えある一位が発表される。
一位は――順当に、三年生のチーム名があげられる。移動速度こそそこそこだが、索敵能力と戦闘能力が圧倒的で一位の評価を受けた。
『それぞれのチームはステージに上がるように』
三チームがステージに上がり、三位から順に表彰されていく。
そして一位の表彰が終わった後。
『最後に、惜しくも四位のチームですが――国王陛下自らお言葉があります』
唐突。本当に唐突に告げられた言葉に辺りが騒然となった。
けれど、大型モニターの映像が切り替わり、そこに国王陛下が映し出された。直後、辺りは静寂に包まれ、その場にいた者達は一斉に膝をついた。
『謁見の間、ラーフェル国王陛下の中継です』
司会の言葉があり、わずかな沈黙の後、モニターに映る陛下が話し始めた。
『ラーフェルである。模擬訓練の様子は映像で見せてもらった。この国の未来を支える者達が育っているのを見て大変嬉しく思う』
特派クラスの生徒はもちろん、特別クラスの生徒ですら、陛下から声を掛けてもらうことなどほとんどない。生徒達が一斉に誇らしげな顔をした。
『さて。今回わしがこうして発表の場に顔を出したのは、今回発生した瘴気溜りの浄化に関し、あるチームが類い希なる活躍をしたと聞いたからだ』
ざわりと、広場がざわめいた。
そして事情を知っている一部の者達の視線が俺達に集まる。
『そのチームは瘴気溜りの発生後、カルロスと共に森の中を突き進み、瘴気溜り付近でピンチに陥っていたチームを救出。その上で瘴気溜りも浄化して見せた。模擬訓練では残念ながら四位に留まったが、間違いなく今回の一件を収めた立役者だ』
広場がざわめく中、モニターの中の陛下が高らかに告げる。
『この国の未来を担う我が息子、クリフォードのチーム。ノア、クラウディア、ティリアの三人だ。さぁステージに上がるがよい!』
その瞬間、俺は生唾を飲み込んだ。この国の国王陛下に名前を呼ばれた。光栄という思いよりも恐れ多いという思いが先に立つ。
だけど――
「ノア様、行こうっ!」
クラウディアが俺の左手(・・)を掴む。
俺は目を見張って、それから彼女に引かれるように立ち上がった。
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