3ー4 放送事故は起こさない
狼の群れを全滅させ、俺はようやく息を吐いた。
「クラウディア、大丈夫だったか?」
「うん、ノア様が護ってくれたから平気だよ」
にへらっと笑って俺の腕の中から抜け出した。
クラウディアに怪我がないことを確認して、続いてティリアに視線を向ける。返り血を浴びているようだが、幸いにして怪我はなさそうだ。
最後に、エンド王子のチームへと視線を向けた。わりとボロボロになってはいるが、聖女がその力を振るって回復をしている。
俺の視線に気付いたアイリが歩み寄ってくる。
「ノア、その……なんて言えばいいのか、ごめんなさい」
「巻き込んだことなら、ただの出会い頭だから気にする必要はないぞ」
同じような状況なら、毎年そこかしこで発生しているし、遭遇した相手に嬉々として獣を押し付けるような連中もいる。
今回の一件に限っていえば、アイリ達に非はないと言える。
「だけど、私達を見捨てることも出来たはずでしょ。私達は……」
ぎゅっと拳を握り締めて下を向く。自分は貴方達を見捨てたのに、とでも言いたげだ。
「……おまえらは、なにもしてないからな」
エンド王子がクラウディアに心ない言葉をぶつけ、追い出すのをただ見ていただけだ。助けようともしなかったが、一緒になって追い出そうとした訳でもない。
「……ごめんなさい。今更謝ったとしても許されないのは分かってる。けど、もしあなた達がピンチになることがあれば、そのときは絶対に助けるわ」
「それは……」
答えあぐねる俺にアイリは笑った。
「良いわよ。返事はしなくても。これは私の勝手な意思表示だから」
「違います、アイリさん。これは私達の意思表示です」
「そうですよ。俺もこの恩は必ず返します。あのままやられてたら、後遺症を残すような怪我を負っていたかもしれませんから」
続けて、聖女と騎士からも意思表明をされてしまった。
結局――
「……好きにしてくれ」
面倒くさくなって丸投げした。
するとアイリ達はそうするわと言って、今度はクラウディアに謝罪する。あの日、無実であるのを知っていたのに、庇えなくてごめんなさい――と。
クラウディアは一度目を見張って……それから相好を崩した。
「いいよ、気にしなくて」
そういって彼らを許してしまった。
甘いと思わなくもないが、俺も似たようなものなので口は挟まない。結局、彼らは謝罪を済ませると、これ以上は迷惑を掛けられないと別のルートに進んでいった。
そんなこんなで、俺達は進軍を再開する。
しばらく歩いているとクラウディアが「意外といい人達だったね」と口にした。
「クラウディアお義姉ちゃんはお人好しすぎ」
「……そう、かな? ノア様もそう思う?」
そこで俺に振るのは止めて欲しい。
たしかに俺もちょっとお人好しかなとは思うが、それを言ったら二人掛かりでクラウディアを責めているみたいになるし、逆を言ったらティリアが呆れるのは明らかだ。
「ノア様?」
「腐った奴らじゃないのはたしかだな。家の事情とかがあるのは明らかだし。それに……」
「……それに?」
「俺も、クラウディアがいるからエンド王子に従ってた」
だから、大切ななにかを護るために、エンド王子に従っている連中を愚かだとは言えない。
「ノア様、その……ありが、とう……」
気付けばクラウディアが真っ赤になって俯いていた。
でもって――
「油断したらすーぐ、イチャつくんだから」
ティリアに思いっ切りジト目を向けられた。
それからしばらく森の中を進む。
途中で熊なんかとも遭遇したが、狼と違って単体なのでそれほど危険はなかった。せっかくなので、熊の解体してその肉をゲットする。今夜のおかずである。
そして――
「そろそろ野営の準備をしようか」
「え、まだ空は明るいよ?」
俺の提案に、クラウディアが空を見上げて首を傾げた。
「それほど深い森じゃないとはいえ、横からの光は当たりにくい。暗くなるときは一瞬だぞ」
「そうだね。だいぶ距離を稼げたから、この調子なら明日の朝一番でチェックポイントまでたどり着けるはずだし、無理をして危険な夜に進む必要はないと思うよ」
ティリアも賛成し、この場に野営の準備を始める。
周囲から枯れ木を集めて薪にする。後は簡易のテントに寝床を作って完成である。
「テントが完成したら、いまのうちにテントの中で身体を拭いておくといい」
「……いまのうちって?」
ティリアは頷いたが、事情を知らないクラウディアは小首をかしげた。
「テントを作った直後は、先生が襲撃しないっていう暗黙のルールがあるんだ。じゃないと、なんというか……襲撃時の映像が流せないことがあるからな」
要するに、先生の襲撃時に女生徒が裸だったりしないための対策だ。
以前そういう事故があったらしく、テントを張ってすぐは襲撃をしないので、そのあいだに女性は身体を拭くように。という暗黙のルールが存在しているのである。
まぁ……他にも、トイレとか、様々な問題はあるが、それらも映像を確認する担当の女性が細心の注意を払っているらしい。色々と苦労があるのだろう。
そんなこんなで、夕食の準備をしていると、身体を拭き終わったティリアが姿を見せる。
「じゃあ次お兄ちゃん、どうぞ?」
「あぁ、分かった――って、その手には乗るか」
中では、まだクラウディアが身体を拭いている。
俺はクラウディアが出てくるのを待ってから、交代でテントの中に入る。ちなみに、水は多少なら魔術で作り出せるのでわりと余裕がある。
俺は桶に水を張り直し、濡れたタオルで身体を拭いた。
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