3ー3 live中継
俺達に気付いたアイリが一瞬、迷うような素振りを見せた。このまま逃げれば、俺達を巻き込むことになると気付いたからだろう。
だから――
「そのまま駆け抜けろ!」
彼女の迷いを断ち切るように叫ぶ。
アイリは唇を噛み、俺達の側面を駆け抜けた。
「ティリア、俺が――」
「お兄ちゃんはお義姉ちゃんを護って! 前衛は――私が行く!」
みなまでいうより早く、ティリアは前方に飛び出した。こちらに駈けてくる狼の群れに突っ込み、出会い頭に一体を斬り伏せた。
新手の登場に、狼たちは一斉に跳び下がった。
それを好機といわんばかりに、ティリアは狼に斬り掛かった。狼はとっさに回避し、群れでティリアを包囲しようとする。ティリアは巧みに動き、背後を取らせない。
「おい、ティリア。無茶をするなよ」
「分かってる。けど、私じゃお義姉ちゃんとの連携が取れないから」
「俺も、連携の訓練なんてしてないんだが……」
クラウディアは最近まで第一階位の聖女だった。しかも学園祭では参戦しない予定だったので、新たに覚えた奇跡を使う練習に重きを置いていた。
連携の訓練なんてする機会がなかった――と、側面から狼が回り込んでくる。俺はクラウディアを抱き寄せて、飛び掛かってくる狼を斬り捨てた。
だが、続けて二体の狼が同時に飛び掛かってくる。クラウディアを狙っている一体を返す刀で斬り伏せた。俺を狙っていた狼が迫り来るが――
「プロテクションっ!」
クラウディアがプロテクションを展開したのは俺の目の前。俺を狙っていた狼がその光のシールドにぶち当たって体勢を崩す。
そこにすかさず剣を振るってとどめを刺した。
「……ちょっと、イチャつきすぎじゃないかな?」
「「イチャついてない(よ)っ!」」
ティリアの突っ込みに、俺とクラウディアが同時に否定する。
続けて、狼の第二波が襲いかかってくる。今度は五体同時。少し厄介なと思ったそのとき、先頭の一体が炎の矢に打ち抜かれてのたうち回った。
アイリの使った魔術だ。
続けて、二体の進路上にもプロテクションが展開される。
慌てて迂回する狼の二体は攻撃が遅れる。
図らずも先行することになった二体を、俺とクラウディアの連携で仕留めた。
そして、残りは迂回をしていた二体。だが俺が視線を向けたときには、一体は再び飛来した炎の矢に。そしてもう一体は飛び出してきたレオンが切り伏せていた。
俺は援護してくれたアイリ達へと視線を向ける。
「おまえら……」
「せめて、これくらいはしないと格好悪すぎでしょっ」
アイリが叫んで杖を構え、聖女は祈りを捧げ、そしてレオンは剣を握りなおした。
「よし、おまえ達は回り込んできた奴らを頼む、このまま狼を殲滅するぞっ!」
おうと声が上がり、各々が狼の群れを蹴散らしていく。俺もクラウディアを抱き寄せながら、合計七体の狼を斬り伏せ、最初の襲撃を凌いだ。
なお、この様子がliveで中継されていて、観客からイチャイチャしやがってと言われていたことを、このときの俺は知るよしもない。
◆◆ 三人称:エンド王子視点 ◆◆
live映像は学園祭の会場以外にも中継されている。高価な魔導具なので、さすがに各家庭に一つと言ったことはないが、特別クラスなどには映像が流れている。
つまり、エンド王子の仲間達もlive映像を見ていた、という訳だ。
「大変です、エンド王子!」
模擬訓練が開始される少し前。
エンド王子が学園の休憩室でくつろいでいると、騎士の一人が報告に駆け込んできた。
「どうした、なにがあった?」
「クリフォード王子のチーム、両方ともメンバーが揃っています!」
「……なんだと? 妨害工作が成功したと言っていたではないか!」
「はっ。そのはず、だったのですが……代役が、その……」
「代役か。ならば問題ないだろう。弟のところの選手層は浅い。あいつが高等部に上がるより前に、俺がめぼしい人材には声を掛けて回ったからな」
正確には、めぼしい人材を勧誘した末に、仲間にならなかった有力な人材には、クリフォード王子の仲間にならないように圧力を掛けたのだが。
とにかく、クリフォード王子のところはいつも人材不足なのだ。
「いえ、それが……その」
「なんだ、ハッキリしないな。もう良い、誰か、ライブ中継を付けろ」
使用人に指示を出し、休憩室のモニターにlive中継を映し出す。
そこには――
「あれは、クラウディアとノアではないか!」
「は、その……はい」
ついにバレた。
才能がない者だと切り捨てた二人が、王太子の座を取り合う弟の仲間として模擬訓練に出場しているのだ。荒れないはずがないと、エンド王子の取り巻き達は息を呑んだ。
だが――
「ふっ……そうか、二重スパイか」
エンド王子はニヤリと笑った。
「……エンド王子?」
「あいつらは、俺のためにクリフォード王子についたフリをしているのだ。あちらで失態を犯せば、俺が追い出したことが正しいと証明されるのだからな!」
なにを根拠にそのようなことが言えるのかと、取り巻き達は困惑する。だがあり得ない根拠であれ、この場でエンド王子が爆発する事態だけは避けられた。
あえて否定して、自分が怒りを買いたいとは誰も思わない。
しかし――
試合が始まってみれば、早々にエンド王子のチームの一つは脱落。もう一つのチーム、アイリが率いるチームも、狼の群れに襲われて敗走を開始した。
しかも、その途中でノア達に救われると言うおまけ付きである。
エンド王子は、顔を真っ赤にして怒り始めた。
「なにを……なにをやっているんだあいつらはっ! あれでは、クリフォード王子のチームの方が優秀だと喧伝しているようなモノではないか!」
声を荒らげて怒鳴り散らす。
「お、落ち着いてください、エンド王子。あのままでは味方が全滅していました! ここは、ご自身のチームが全滅しなかったことを喜ぶべきかと存じます!」
「――むっ。それは……たしかに、な。そう考えれば、やはりクラウディア達は、俺の味方だと考えて間違いない、か……?」
そう口にしながらも、エンド王子はどこか釈然としない思いを抱え始めていた。
クラウディアとノアは本当に、自分のために動いているのだろうか。そんな疑惑が浮かび上がり、それが徐々にエンド王子の根拠のない自信を蝕んでいく。
いや、大丈夫だと頭を振ってlive中継に視線を向けると、ノアがクラウディアを抱き寄せ、二人で力を合わせて狼を蹴散らしているところだった。
一体どれだけの余裕があるのか、二人は合間合間に視線を交わして微笑み合っている。連携を取っていると言うより、イチャついているようにしか見えない。
「……本当に、あの二人は俺のために動いているのか?」
エンド王子の呟きには誰も答えない。呟きが小さすぎて聞こえなかったのだろう。
聞こえていたのなら、肯定しないはずがないとエンド王子は考える。
ほどなく、中継の映像は他のチームへと移ってしまった。
(大丈夫だ。クラウディアは俺に惚れているはずだ。婚約を破棄されてすぐイメチェンをして可愛くなり、力不足を指摘すれば第四階位まで目覚めたのだからな。それに、ノアも……)
エンド王子はノアが仲間になった日のことを思い出す。
本来なら圧力を掛けて仲間に引き入れるつもりだったのだが、意外なことにノアはあっさりと仲間になった。その後も、嫌な顔一つせずに命令に従ってきた。
クラウディアの件では逆らったが、普段はとにかく従順だった。その忠誠心は、いまも二重スパイを務めるクラウディアを護るという形で示している。
だから、あの二人は自分のために動いているはずだ。
そうに決まっている。そうでなければならない。じゃないと、自分はこのまま破滅の一途をたどることになる――と、エンド王子は自分を言い聞かせるように繰り返した。
自分の足下がとっくに崩れ始めていることを、エンド王子はいまだ認められないでいた。
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