2ー14 卑劣な罠

 クリフォード王子に呼ばれた俺達は屋敷へと戻った。

 俺とティリアとクラウディア。その四人で部屋に入ると、そこにはクリフォード王子と、その仲間である特派の生徒達が集まっていた。


「お待たせいたしました」

「いや、急に呼び立てて悪かったね。デート中だったんじゃないか?」


 クリフォード王子の言葉に、なに、そうなのか? とでも言いたげに、周囲の者達が殺気だった。それとほぼ同時――


「いいえ、問題ありません」


 クラウディアがきっぱりと口にした。いまの言葉だけ聞けば、俺とデートだなんてあり得ないと言っているようにも聞こえる。


 だからだろう。殺気だっていた者達が同情するような顔をした。

 嫉妬に狂う男共よりも、彼らを手玉に取るクラウディアの方が手強そうだ。


「それで、クリフォード王子。俺達をお呼びと聞きましたが?」

「あぁ、実は……明日から始まる模擬訓練の代表チームを作って欲しいんだ」

「……それは、既に決まっていたのでは?」

「それなんだが――」


 クリフォード王子の仲間の一人、俺にとっては特派クラスの先輩が説明してくれた。模擬訓練の二つある代表チームのうち片方のメンバー三人と、今朝から連絡が取れないらしい。


「おそらくは妨害工作だと考えられる」

「ちっ、エンド王子、卑怯なことをしやがる」

「まぁ待て、エンド王子だと決まった訳ではない。それに謀略自体は禁止されている訳ではない。犯罪行為が確認されない限り、追及は出来ないぞ」


 仲間のうちからそのような意見が上がった。


「その、三人は無事なのですか?」

「いや、まだ行方は確認できていない」

「なら……」


 最悪は殺されている可能性だってある。

 そこまではさすがにないと思うが、犯罪行為がないとは言い切れないはずだ。そんな風に考えていると、クリフォード王子がなにやら気まずそうな顔をした。


「あ~実はね。そのチームのメンバーは聖女が一人、騎士が一人、魔術師が一人だったんだけど……彼らは彼女がいない歴が生まれてからだったんだ」


 それがどうしたのかと首を捻る。

 そんな俺の横でティリアが「生まれてから、だった。ですか?」と問い返した。


「うん。ティリアの言うとおりだ。生まれてから、だった。つい最近までね。二人に彼女が出来てみんな歓迎していたんだけど……こんな書き置きがあってね」


 王子から手紙を渡された。

 そこには次のように書かれていた。



 彼女が泊まりがけで旅行をしたいと言ってくれました。ただ、予定の都合でいましか無理だそうです。だからどうかお許しください、クリフォード王子。

 俺はこの旅行で男になって帰ってきます。


 それを読み終えた俺はなんとも言えない顔をした。


「あ~えっと、これが事実だとして……許されるんですか?」


 エンド王子の元で同じことをすれば間違いなくか首になる。そう問い掛ければ、クリフォード王子は苦笑いを浮かべた。


「まぁ……そうだね。普通なら処罰の対象だけど……うん、まぁ……ね?」


 察してくれるよねと言いたげに視線を向けられるがよく分からない。


「要するに、ノアお兄ちゃんとクラウディアお義姉さんがイチャイチャしているのを見せつけられて、羨ましくて暴走した……ってことですか?」


 ティリアがいきなりそんなことを言った。


「おまえ、なにを言って――」

「うん、おおむねその通りだね」


 肯定されて、思わずクリフォード王子を見返す。無言で視線を逸らされてしまった……マジか。まさか、俺とクラウディアの関係がバレているとは。


「さ、参考までに、なぜバレたか聞いても良いでしょうか?」

「ノア、キミはフォルの主が僕だってこと、忘れてないか?」


 もっとも過ぎてぐうの音もでない。

 いや、それより問題は、俺達エンド王子に付け込まれる原因を作ったことだ。

 俺はその場に膝をついてかしこまった。


「申し訳ありません、クリフォード王子。これは俺の失態です」

「いや、キミのせいじゃないから謝罪は必要ない」

「ですが――」

「と言うか、フォルからの報告を彼らに話したのは僕だからね。彼らがクラウディアに惹かれているようだったから、こじれないようにと教えたんだが……逆効果だったね」

「そう、でしたか……」


 クリフォード王子の判断だと言われればこれ以上の謝罪は出来ない。

 立ち上がり、再びクリフォード王子と向き合う。


「ひとまず、二人が帰ってこない事情は分かりました。おそらく無事であろうことも」


 ハニートラップなら、旅行に連れ出された時点で目的は達成している。無駄に危害を加えて、罪を犯すような真似はしないだろう。

 同時に、目的を達成しているので、彼らが男になることはなさそうだが……


「事情は分かりました。それで、俺達でチームを作ればよろしいのですね?」

「ああ。知らない者達を混ぜるよりも、知っている者の方がいいだろう? エイブラ隊長との戦いでみせた連携も素晴らしかった」


 クリフォード王子は俺達を仲間として雇い、その庇護下に置いてくれた。

 そんな彼に恩を返すチャンス。なにより――クラウディアを無能扱いしたエンド王子に、その実力を見せつけるチャンスでもある。

 この機会を逃す選択はあり得ない。


 そんな思いを込めて視線を向ければ、クラウディアもティリアも頷いてくれた。


「引き受けてくれるかな」

「はい。必ず、クリフォード王子のご期待に応えてみせます」


 こうして、俺達はクリフォード王子のチームとして、模擬訓練に参加することになった。



 ちなみに、さっきは理由が出なかった聖女だが――彼女の場合は、彼氏いない歴が生まれてからで、男に騙された感じのようだ。

 なんというか……身内ではダメだったのだろうか?

 

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