2ー11 お化けとアンデッドは違う

 12/16 20時過ぎ。

 10部に1ー9 三人称:エンド王子の後ろ盾を割り込みで投稿しました。そのため、おそらくみなさんのブックマークが一話ズレています。混乱を招いてすみません。まだご覧でない方は、いまから読んでも楽しめると思うので、よろしければご覧ください。


   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 更に数日が経ち、ついに学園祭が始まった。


 うちのクラスは中庭でのカフェ。


 クラウディアは例のメイド服でウェイトレスをしている。

 胸元で支えるチューブトップのブラウス。コルセット風のスカートはフトモモ丈で、その下にはガーダーで吊されたニーハイソックスを穿いている。

 可愛いだけでなく、色気が凄いと絶賛されていた。


 例年、カフェは休憩がてら立ち寄る客が来る程度なのだが、今年はクラウディア目当ての客が多い。ついでにナンパも多くて、俺はウェイターから用心棒に徹することになった。


 お店の女の子をナンパしないでください。触れるのも禁止です。と言うか、魔導具による撮影も禁止です。そういうサービスはしていません――てな感じである。


 後ついでに、なぜかエンド王子までもがやってきた。問題を起こすつもりかと警戒していたが、彼はニヤニヤとクラウディアを眺めただけで、他にはなにもせずに帰って行った。

 ……なんだったんだろうか?


「ノアくん、そろそろ上がって良いわよ」


 クラスメイトで、カフェのシフトを管理しているミーナが話しかけてきた。


「ありがたいが――」

「もちろん、クラウディアも一緒にね」


 ……バレバレである。まぁミーナはクラウディアの友人だし、紅茶を淹れる練習のときもいたので、色々とクラウディアから聞いているのだろう。


「まぁ……お言葉に甘えさせてもらおう」


 いいかげん、ナンパ男を撃退する作業は飽きた。俺は再び来客の男性に声を掛けられているクラウディアをカフェのフロアから連れ出した。


「ノア様、お店を抜け出してきて良かったの?」

「ミーナが今日は上がりで良いってさ」

「そっか、ミーナが言ったのなら安心だね」


 クラウディア小さく微笑んだ。俺を見上げるアメシストの瞳がなにかを訴えている。


「……クラウディア、良かったら俺と一緒に店を回ってみるか?」

「うん、よろこんでっ!」



 メイド服のクラウディアと並んで歩く。すれ違う人々がクラウディアを目で追っているのは、メイド服だからだけではないだろう。

 もし俺がいなければ、あっという間にナンパされていたかもしれない。


「悪い、クラウディア。着替えを勧めるべきだったな」

「あはは……まぁでも、ノア様がいるから平気だよ」

「まぁ……ナンパくらいは撃退できるけどな」


 視線まではさすがに……と眉をひそめた。

 すると、隣を歩いていたクラウディアが、ニヤニヤと俺を見上げてきた。


「もしかしてノア様……」

「……なんだ?」

「私のメイド服姿を他の男の子にみせたくない、とか思ってるでしょ~?」

「まぁな」


 クラウディアが注目を浴びるくらいなら平気だ。メイド服姿で給仕をする彼女に、客の男性が見蕩れるのも当然だとは思う。

 ただ、胸元やフトモモを、明らかに性的な目で見られるのはあまり気分が良くない。


 なんてことを考えていると、隣を歩いていたはずのクラウディアがいなくなった。

 あれっと振り返ると、クラウディアはなにやら立ち止まっている。

 というか、その顔が真っ赤に染まっている。


「……クラウディア。まさか、照れてるのか?」

「そっ、そそっそんなことないよ!?」


 動揺しまくりである。


「自分から振っておいて、俺が同意したら照れるってどういうことだ?」

「だ、だってだって、ノア様がそんな風に認めるとは思わなかったんだよっ」


 どうやら、カウンターを喰らって自滅したらしい。


「からかって良いのは、からかわれる覚悟のあるヤツだけなんだぞ?」

「うぅ……」


 クラウディアはますます真っ赤になっていく。肌の露出が多いせいで、クラウディアが顔だけじゃなく、首筋や肩まで赤くなっているのが分かる。

 さすがに、このままでは注目を浴びそうだ。


「あ~クラウディア、あそこに入ってみようぜ」


 使用人クラス出店の、お化け屋敷にクラウディアを連れ込んだ。暗がりならば、クラウディアの服装も、ましてや赤くなっていることも関係ないと思ったからだ。


 まぁそれが、思いっきり失敗だった訳だが。


「きゃあっ! ノ、ノア様っ、ななっ、なにか、なにかいるよっ!」

「落ち着け、生徒による脅かし要素のなにかだ」

「で、でも、背中がぞわぞわってっ! や、やだやだやっ! 私、お化けダメなの! ノ、ノア様、助けてっ! お化けやだぁっ!」


 クラウディアがさっきから可愛らしい悲鳴を上げている。たしかに、周囲からも驚くような声が聞こえてくるが、クラウディアの声が絶対に断トツだ。


「って言うか、クラウディアは聖女なんだし、アンデッドとか自分で浄化できるだろ?」

「アンデッドとお化けは違うよ! と言うか? 一緒なの? お化けも浄化できる!? そうか、浄化しちゃえばいんだっ! 悪しき存在よ、退け! ホーリーライ――んんっ!」


 聖女の力を使おうとしたので、とっさに手で口を覆った。

 だが、クラウディアは暴れて俺の拘束を振りほどく。


「クラウディア、だから落ち着けって――あぁもう、クラウディア!」


 正面から抱きしめて、怯える姫君の唇をキスでふさぐ。

 クラウディアが目を見張って抗議の視線を向けてくる。だけど俺はより強くクラウディアを抱きしめ続ける。腕の中で藻掻いていたクラウディアの抵抗が次第に弱くなっていく。


 それからしばらくして、クラウディアが俺に身を任せた。

 そこから更に数十秒。

 俺はようやくクラウディアを解放した。


「……んっ、ノア様、大胆」

「どっかの物凄く怖がりな聖女が、お化け屋敷でホーリーライトをぶちかまそうとしたからだろ。……少しは落ち着いたか?」

「えっと、その……もう、怖くはなくなったんだけど、その……」


 クラウディアが上目遣いで俺を見上げる。

 不意に、クラウディアが俺の手首をぎゅっと握った。


「クラウディア?」

「こっち……っ」


 クラウディアは俺の腕を引いてつかつかと歩き始めた。お化け屋敷を脱出して、そのまま人混みを縫って廊下を歩き――とある教室の中に俺を引き入れた。


「クラウディア、いったいどうしたんだ?」

「……ここは空き教室だから、誰も入って、来ないよ」


 クラウディアは手を握ったままぽつりと呟く。

 それから、耐えきれなくなったとばかりに視線を逸らした。


 直後、廊下から男子の騒がしい声が聞こえてくる。


「なぁなぁ、見たか、あのメイド姿のクラウディアちゃん!」

「あぁ、見た見た! 胸元が開いてて、谷間がすんごいの! しかもガーダーベルトだぜ、ガーダーベルト! 色気ありすぎだろっ!」

「良いよなぁ。あんな子が彼女なら、絶対色々してもらうのに! 空き教室とかに連れ込んで、あんなこととか、そんなこととか、アレなことまでっ!」

「ばーか、おまえじゃ相手なんてされねぇよ」

「なんだと、わからねぇじゃねぇか!」


 そんな会話がだんだんと近くなり――そして遠ざかっていった。

 なんか……凄く気まずい。

 クラウディアが少し俯いたまま、上目遣いで俺を見た。


「……ねぇ、男の子ってみんな、女の子に色々してもらいたいって、思ってるの?」

「まぁ……多かれ少なかれ、思ってはいるんじゃ、ないか?」

「そう、なんだ。……じゃあ、ノア様は私になにをしてもらいたいって……思ってるの?」


 ゆっくりと近付いてきたクラウディアが、俺にピタリと寄り添う。そうして俺を見上げるアメシストの瞳が濡れている。

 俺はその瞳に引き寄せられるように顔を寄せた。

 

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