1ー2 蕾が花開くように
学園主催のパーティーの翌日である今日の授業は昼から。
という訳で、ホームルームが始まる前の昼過ぎの教室。ガゼフに眠そうな理由を訊かれた俺はかくかくしかじかと答えていた。
「――という訳で、寝不足なんだ」
「死ねっ、というか、死ねっ! この裏切り者めっ!」
酷い言われようである。
「俺の話、聞いてたか? 行き場を失ったクラウディアを部屋に住まわせただけで、別に手を出したとかじゃないんだぞ?」
「女の子と寝食を一緒にすること自体が羨ましけしからんっ!」
「おい、あんまり大きい声を出すな、まわりに聞かれるだろ」
聞かれてないかと周囲を見回すが、他の連中も騒いでいるので気にしてるヤツはいなさそうだ。それにひとまず安堵して、ガゼフへと視線を戻した。
「くっそ羨ましい。どうせ、ラッキースケベとか体験してるんだろ?」
「ちゃんとしてるから、そう言うのはないぞ。あぁでも、朝食は超美味しかった」
「ぐぬぅああああぁぁぁぁっ!」
血涙でも流しそうな勢いである。
「いやおまえ、クラウディアには魅力を感じないとか言ってたんじゃないのかよ?」
「それとこれとは話が別だっ!」
処置なしである。
ガゼフは負のオーラを撒き散らしながら続ける。
「は、はは……だがまぁ考えてみればノアだしな。どうせ、ヘタレのおまえは彼女に手なんて出せないだろ。そう考えれば、先を越されたと焦る必要はねぇな」
「誰がヘタレだ」
「おまえだよ、おまえ。俺だったら、据え膳は絶対に手を出すねっ!」
「……おまえ、そんな風にがっついてるから、女の子に相手にされないんだぞ?」
「う、うるせぇ、童貞ちゃうわっ!」
「いや、そんなことは言ってないが……言ってて虚しくないか?」
虚しくなる言と書いて虚言である。
「こ~ら、ホームルームを始めるから静かにしなさい! そこの童貞丸出しの二人もよ!」
いつの間にか教室に入ってきていたクラスの担任であるエリス先生。
二十代の現役聖女でもある彼女は、生徒から人気の先生だ。そんな彼女の酷い発言に、クラス中から笑い声が上がる。どう考えてもガゼフの巻き添えである。
「さて、恒例の社交パーティーも終わって、今日から通常授業が始まるわ。一ヶ月後には能力測定があるので気を引き締めなさいよっ!」
「「「――はいっ!」」」
クラスメイトの元気な声が揃う。
説明が遅くなったが、ここは王都にある王立学園だ。
王侯貴族などが在籍する特別クラスに、発生した瘴気を払うための人材を育成する特派クラス。それに使用人を育成する使用人クラスと、一般の生徒が通う一般クラスが存在する。
俺達はその特派クラス。
他の職に就くこともあるが、基本的にはこの国にあふれる魔物を討伐し、大地を浸食する瘴気を払うための部隊に配属されるのが一般的である。
先生のいう能力測定とは、それに必要な能力を測るテストのことだ。
「さて、それじゃ授業を始める前に、あらたな仲間を紹介するわね。入ってきなさい」
「――はい」
凜とした声と共に、可愛くも綺麗な女の子が教室に入ってきた。一瞬、その女の子がクラウディアだと理解できなかった。家を出たときとは容姿が大きく変わっているからだ。
まず、薄いメイクをしている。それに後ろで無造作に束ねていた夜色の髪はサラツヤのストレートヘヤーに変わっていて、ワンポイントの髪留めが添えられている。
身に纏うのは変わらず学園指定の制服だが、がっつり改造が施されていて女の子らしさが増している。特にスカートはわりと短い部類に入るだろう。
いまのクラウディアを見て、堅物なんていう男はいないはずだ。
「それじゃ、挨拶をしなさい」
先生に促され、クラウディアは教壇の横に立った。
「――こんにちはっ。色々あって、今日から私もこのクラスで学ばせてもらうことになりました。みんな、よろしくね!」
天真爛漫な挨拶に男共から歓声が上がる。
女性陣はそんな男共の反応に呆れているが、クラウディアへの反応は悪くなさそうだ。元特別クラスの生徒ではあるが、合同練習などで一緒になって気心が知れているからだろう。
「うひょーっ、今日は最良の日だ。あんな可愛い転校生とか、最高かよっ!」
ガゼフが歓声を上げた――というかこいつ、あれがクラウディアだって気付いてない。アホかと思ったが、周囲の声を聞く感じ、気付いていないのはガゼフだけではないようだ。
それに気付いた先生が苦笑いを浮かべながら「あ~、自己紹介もなさい」と促した。
「……自己紹介、ですか? みんな知ってると思いますけど」
「たしかに貴女のことは知ってると思いますが、いまの貴女を見て一目で同一人物だと分かってる人は少数です。というか、変わりすぎですよ?」
それにクラウディアは小首をかしげる。
「えっと……みんな、知ってるよね? 第一階位の聖女、クラウディアだよ?」
「「「――えっ!?」」」
驚きの声がそこかしこから上がった。
意外にも気付いていない連中が多かったらしい。
教室が騒然となる。
「え、ホントにクラウディアさん?」
「王子に婚約破棄されて落ち込んでたんじゃないのか?」
「なんか、むちゃくちゃ可愛くなってるわよ?」
「失恋美少女キタ――っ!」
なんて声が次々に上がる。
俺に気付いたクラウディアは、胸の辺りで可愛らしく手を振った。
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