07話.[不安になる感じ]
GWは気づいたらもう3日しか残っていない。
宮前――悠也の奴はベッドがなくて辛いからと2日目の時点で帰宅した。
やれやれ、これだから最近の若い者はと言わずにはいられない。
ベッドがないからなんだと言うのか、じゃあ1年のときから床に布団を敷いて寝ている俺がおかしな人間だと言いたいのか? ――なんて大して重要でもないことを考えてぼうっとしていたのが昨日の話。
「何故か来ないんだよなあ……」
せっかく隣同士になったのに昼すらふたりが来ない。
成瀬の方は心配していないが、生島の方は死んでいるんじゃないかと不安になる。
だって用がなくても来ていたぐらいなんだぜ? 飯だって作れって何度も言ってきていたのに。
行くかもしれないと言った成瀬もなんでだ……。
でも、女子の家に行くのはなんか違うしな、……なんでこういうときに悠也がいないのか。
「せっかくまだ昼なんだから実家にでも顔を出すか」
久しぶりに弟にも会いたいから丁度いい。
金と携帯などの必要最低限の物を持って外に出る。
「「あ」」
GWに入ってから初めて見た彼女の顔。
これからどこかに行こうとしていたのか洒落た格好をしている。
「お、おふぁよ!」
「こんにちはだけどな、どこかに行くなら気をつけろよ」
あんな格好初めて見たから男子に会いに行くのかもしれないな。
悠也と俺以外の男子と関わっているところを見たことはないから、学校にいる人間ではないのかもしれない。まあそんなのは自由だから、ふたつの意味で気をつけろよぐらいしか言えないよな、友達の身としては。
「元くんはどこに行くの?」
「ちょっと実家に顔を出そうと思ってな、弟もいるから」
「おお、じゃあ私も行くね」
「おう」
って、なんでだよ
そんなことをしても気まずいだけだろお互いに。
それとも弟のことを知っていてそういうつもりで見ているとか?
見た目もそこそこ整っているから異性からしたら放っておけないのかもしれない。
ま、先程も考えたことだが本人の自由だ、あまりに迷惑をかけているとかでなければ気にしなくてもいいだろう。
「え、誰もいねえ……」
せめて連絡してから行くべきだったか。
いきなり帰ることでより驚かせようだなんて考えるべきじゃなかった。
実家の鍵は持っているから開けて入ったのにこのオチだ。
「まあいいか、ちょっと待とうぜ」
「うん」
多分、
中学で午後までやるのはそうないからすぐに帰ってくるはずだ。
「ただいま」
「おかえり」
おお、驚いている驚いている、隣の生島を見て。
めちゃくちゃ慌て始めたからやはり怪しい。
「に、兄ちゃんに彼女さんが!?」
「え、違うぞ、友達だ」
こいつは素で俺を馬鹿にしているところがあった。
中学のとき、悠也と一緒に女子と遊びに行くと言っただけで同様の驚き方をしていたし。
確かに自分ひとりのときに女子と行動しているのは初めて見せたからしょうがないのか?
「あ、どうぞ」
「ありがとー」
それが終わってからは至って普通の立だった。
飲み物を用意してくれて、その本人はかなり端の方に腰を下ろしている。
「立くんはなんでそんなところに座っているの?」
「えっ、べ、別になにもないですよっ」
「でも、私がソファに座っているのに床に座られているのはちょっと……」
「気にしないでください! それに部活動の後で汗をかいているので!」
弟の残念なところはモテるのに恥ずかしがり屋なところ。
それがまた女子のなにかをくすぐり、立は余計に恥ずかしがるという流れ。
つまり淡々と接することができる人間が現れたら、そのときはなにかが変わるかもしれない。
「それより兄ちゃんはなんで帰ってきたの?」
「おいおい、たまには可愛い弟の顔を見たかったんだよ」
「父さんと母さんは今日夜まで帰ってこないけど」
「どうせなら見たかったけど立の顔が見れただけで満足してる、あんまり生島を長時間慣れない場所にいさせるのもあれだからな」
もっとも、ふたりが一緒にいたいなら俺だけ帰るぞと重ねたら立が思いきり首を振って否定していた、それに生島が意地になって残るとか言い出して。
「冗談だ、俺が生島を連れて帰るから安心しろ」
せっかく会えたんだ、どうせならゆっくりしたい。
彼女がひとり暮らしを始めてからふたりでゆっくりできていないからな。
「あんなに必死に否定しなくてもいいのにねっ」
「恥ずかしがり屋なんだ、許してやってくれ」
そもそもの話、いきなり異性が現れたら俺だって驚く。
例えば弟と盛り上がっていたときに弟の友達が来たら逃げたくなるからな。
「せっかくちょっと遠くまで来ているし飯でも食べていくか?」
「ご飯は元くんが作ってくれた物の方が好きだから」
「なんで来なかったんだよ、あれだったらまだ来てくれた方がマシだったぞ」
敢えて物理的な距離が近くなった分、差が寂しかった。
気を使う必要なんて微塵もないし、直接が嫌でもメッセージを送るとかでもいいだろ?
「ちょっとは自分で頑張ろうと思って」
「……頼むから来てくれよ」
やっぱりハンカチなんかプレゼントしたから?
というか、これじゃあまるで生島に依存しているみたいだな。
頼まれたから放課後に一緒に残るという約束がどうしてかこうなっている。
家は隣になって、夜中でも会える距離で、でも全く来てくれなくて、寂しいぐらいで。
GWというのも影響を与えている、そうでもなければこんなことは口にしない。
「悪い、忘れてくれ」
「うん」
もう意味のないことなんだよな。
不仲らしい両親とは別のところで暮らしているんだから。
よく考えたら最近は金を使いすぎていたから寄り道せずに帰ることにした。
生島もなにも言わなかったから問題もないだろう。
もしかしたらゲームをやりすぎていたのかもしれない。
ただ、そう考えると外にいた理由がわからなくなるという……。
「成瀬とは会っているのか?」
「うん、毎日必ず会って話してるよ」
「そうか」
これならまだ別のところに住んでくれていた方が良かったな。
逆に変に近い方がもどかしいということもある。
いつの間にか友達としての普通ラインから越えようとしてしまっているんだなあと。
単純だから気をつけなければならないとか考えていた自分。
けど、気づいたらいつでもこうなって、勝手に自滅して終わるだけというね。
「とにかく、ちゃんと飯とか食べろよ」
「うんっ、ご飯を食べるのは好きだから!」
「とか言って、どうせゲームをやっていたんだろ?」
そういうところだけは容易に想像できる。
しっかり器用にこなしている生島というのはレアすぎるから。
逆に上手くやりすぎていたら風邪なんじゃないかと不安になるからやめてほしい。
「うぇっ? してないしてないっ」
「嘘つくな、クマができてるぞ」
これまで持っていなかった物を手に入れられたら俺だってやる。
寝ることすらせずに朝までだってずっと、若いときしかできないことだから。
それでも女子があまり気軽に徹夜なんかするべきではないな。
この洒落た格好はそういうのを隠すためのもの、そう考えたがどうだろうか。
「じゃあな」
「うん、じゃあね」
残ってくれれば誰でも良かったのか。
正直に言って成瀬がいるようになってからは俺がいる意味なんてなかった。
あくまで上着貸し係みたいな、結局それも初夏になったいま終わるわけで。
「はぁ……」
男だから異性といられるようにと求めてしまう。
じっとしていることが好きだった自分らしからぬ気持ち。
だからこの静かな家でひとりでいると寂しくなる。
防音性の高さが逆効果になっている感じだった。
「はい、熱いから気をつけて飲めよ」
「うん」
GW最終日、珍しく昼から成瀬が来た。
静かすぎて住んでいるのかすらわからなかったから助かったかもしれない。
「これまでなにしてたんだ?」
「色々と整理していたわ、あまり荷物も持ってこなかったから大変ではなかったけど」
「なにか言ってくれれば手伝ったぞ」
「手伝ってもらう程ではなかったから」
の割には最終日まで引きこもりか?
まあいいか、もうどうしようもないことだし。
「で、なにしに来たんだ?」
「行くかもしれないって言ったでしょ?」
「ああ」
いざ実際に相手が来ると逆に困ることを知った。
特になにもしてやれることはないからというのが大きい。
「それよりあんたこそ引きこもっていたんでしょ」
「いや、生島と一緒に実家に行ったな」
「なんで実家になんか連れて行ったの?」
「出たらたまたまいて、行くって言ったら行くって言ってって感じだ」
成瀬はカップを置いてこちらを見てくる。
そんなに見られてもおかわりを作る気はないぞと内で抵抗しておいた。
「というか、遠慮しないで来なさいよ」
「なんか異性の家に行こうとするのもちょっとな」
「それなら私達はもっと気にしなければならないじゃない」
じゃあこうなってしまった時点で詰みじゃないか。
「だから成瀬――」
「名前でいいわよ」
「郁美ほど引きこもってはいないぞ」
寧ろふたりが来てからは引きこもり傾向もなくなっている気がする。
だってふたりに来てほしいと考えるぐらいだからな、なかなかないからな。
「気にせずに来いよ、俺を孤独死させるつもりか」
「そんなに来てほしいの? 来てほしいなら『来てください』と言いなさい」
「来てください」
「少しは躊躇いなさいよ……」
無駄なプライドなんて捨ててしまった方が楽だ。
来てほしいのは本当のことだから素直に従う方が正しい。
「郁美、どうせならあの引きこもりも連れてこい」
「結花のこと? あの子はいまゲームに熱中しているから」
「それでもここでやれと言ってくれ」
全く相手にされていなくても一緒の空間にいてくれれば寂しくないからな。
……ちょっとぐらいは相手をしてくれると助かるかもしれない。
他人がやっているゲームを見ているだけというのもつまらないし。
「自分で言いなさいよ、それに私がいてあげているんだからいいじゃない」
「まあ、誰かがいてくれればそれでいいんだけどな」
今度ちゃんとふたりが仲良くできているか確認したいと思う。
なんか表面上だけの仲というか、俺がただ知らないだけなのかもしれないけど。
「元、なにか作りなさい」
「なにがいい? 後でスーパーに行くつもりだったからオーダーによっては買いに行くけど」
「それなら私も行くわ、ある程度まとめ買いしておかないと距離があるもの」
荷物持ちをやらされる可能性は大、だけど気にせずにふたりで外に出る。
「あ、あれっ、奇遇だね!」
「生島も来い、買い物に行くぞ」
ある程度自力で頑張るということなら食材を買わせておかないと。
最初は失敗もするだろうからある程度はあった方がいい。
最悪、米と卵とかがあれば生きていけるんだけどな。
「元、期限を見なさいよ」
「あ、そうだな」
ちなみに俺ルールで3日ぐらいなら期限が切れてもいいと考えている。
そんなに急激に劣化するわけではないから。
気にする人は余裕がある物を選ぶか、さっさと使ってしまう方がいいが。
「で、郁美はなにが食べたいんだ?」
「私の方で選んで買うからいいわ、それを調理して」
「わかった、じゃあ俺は俺で選ん――いや、生島を監視しておくわ」
なんかふらふらしていて全く捗っていないのがわかる。
強制的に連れてきたからだろうか、それともろく寝てなくて単純に調子が良くない可能性も。
「生島、食材を選べよ、荷物なら持ってやるから」
「うぅ……」
「調子が悪いのか?」
謝罪をしてから額を触らせてもらった。
が、特に熱いということもなく、これでは触りたがりみたいだろと複雑な気持ちに。
「お腹空いたっ」
「帰ったら作ってやるから」
「もう黒焦げの目玉焼きを食べるのはいやあ!」
どうやったら目玉焼きが黒焦げになるのか1時間ぐらい聞いてみたいところではあるが、いまはさっさと食材を選ばせて帰ることの方が優先されることだ。
そこからは生島も普通の感じで選んでいた、会計を済ましたらそれを全部こちらに渡してきたので約束通り持って帰ることに。
「え、俺の方に入れておけって?」
「うんっ、もう全部元くんに作ってもらう!」
「少しは練習しようとか……」
「自分の家でやらないで元くんの家でやる! 片付けるの大変だもんっ」
まあその方が食材を無駄にすることがなくていいか。
そんな勿体ないことをさせたくないし、多少であれば教えることはできるから。
「貸せよ」
「別にあんまり重くないからいいわ」
「いいから貸せ、付き合ってもらっているようなものだからこれぐらいはやらせてくれ」
帰ったら早速作って食べさせて、その後は生島にちょっと練習させるのもいいかもしれない。
明日からはもう学校だからいつまでもゲームをやらせておくのは違うからな。
別に彼女の両親と会ったわけじゃないが、ちゃんと見ておいてくれと言われているような気がした。もちろん、勝手な妄想で片付けられてしまうこと。
「で、郁美はなにを買ってきたんだ?」
許可を貰ってから中を見せてもらうことに。
白菜、豚肉、うずらの卵、筍、人参、椎茸にエビか。
なるほど、よし早速作ることにしよう。
わざわざ聞かなくても大体わかる、作り方もわかる。
けれど確実性を求めてタレの方はネットを見ることにした。
ひとり暮らしを初めてすぐに作ったことのあるものだ。
「できたぞー」
「わぁ、いい匂い!」
セットして予約しておくだけで勝手に炊いてくれるのは便利でいいな。
だからこそほかほかの白米を食べられる、しかも出来たてのおかずと一緒に。
中には不快に感じる人間もいるかもしれないが、豪快に乗っけてかっこむのが1番だ。
タレのついた白米というのがまた美味しいんだよなあと、食べているふたりを見て考えてた。
「郁美、もしかして違ったか?」
「合っているわ、仮にこの食材で他のなにかを作っても文句は言わなかったけどね」
「そうか、それなら良かった」
二度手間になるとあれだから俺も先に食べてから洗うことにする。
やっぱりネットに載ってるのを参考にさせてもらうのが1番だな。
なにも恥ずかしいことじゃない、変にオリジナリティを出そうとする方が愚かなことだ。
「もう、なんで上手く作れちゃうの?」
「一応実家にいたときから家事の手伝いとかはしていたからな」
偉ぶれることではなかった。
まだまだ不効率なところもあるから、時間のことを考えれば出来合いのものを買うのがいいかもしれない。ある程度は美味しいし、ゴミ箱に捨ててしまえばそれで終わりだから。
けれど、仮に時間がかかっても自分好みの味にできることが俺にとっては重要だった。
しかもある程度の量を食べようとするとどうしたって自炊より費用も嵩んでくるからだ。
「ある程度なら教えられるから生島も頑張ろうぜ」
「ネットを見ながらやっても失敗するのにできるかな?」
「できる、俺でもできているんだからな」
「というかさ」
「なんだ?」
そんな箸を置いて改めるようなことなのか?
それとも、味に不満があったということなのだろうか。
なんか不安になる感じ、最近の俺はおかしいとしか言いようがない。
「なんで郁美ちゃんのことは名前で呼んでいるの?」
何故か求められたからだと即答はできなかった。
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