05話.[敢えて黙ったり]

「今日は来てくれてありがとう」

「暇だったし別にいいわ」


 どうして俺は日曜日に外にいるのか。

 生島がいないのは用があるからだが、なんだか仲間外れにしているみたいで嫌だった。

 つか最近は用事がありすぎだろ、平日だって全部来なかったぞ。


「田先、どうしてそんな顔をしているんだ?」

「なんで俺も誘ったんだ?」

「日曜日でもないと遊べないだろ、普段は部活動もあるしな」


 まあいいか、特になにも考えずに付いていけばいい。

 それでわかったことだが、どうやら今日は店を見て回りたいようだ。

 ただ、やけに女子向けの店ばかりを選ぶから気になって聞いてみたら、


「30日が結花の誕生日なのよ」


 と、この中で誰よりも生島と仲がいい成瀬が教えてくれた。

 なるほど、それなら誘ってもらえて良かったかもしれない。

 でも、異性にプレゼントか、どういう物を渡せばいいんだろうか。

 ほら、なんか俺のしていることはナチュラルに気持ち悪いことが多いということを成瀬が教えてくれたから余計に対応が難しくなったというか。


「成瀬、なにか選んでくれないか、金は払うから」

「あんた個人が選ばなければ意味ないじゃない」

「わからなくてな……」


 宮前に聞くのはなんだか微妙だったから成瀬に頼んだというのに。

 寧ろあげたことによって不快な気分にさせたらどうするという不安。


「はぁ、あんたこの前のこと引きずりすぎでしょ……」

「俺は宮前とかイケメン男子とは違うんだ」


 あげない方がいいのかもしれない。

 それか市販の菓子でも買ってプレゼントなんて大袈裟な感じにはさせないのがいいか?

 それこそ上着を貸すよりもひぇってなることではないだろうか。


「なにかあったのか?」

「いや、なにもない」


 やっぱり菓子かなんかを適当に特に言わずにやるぐらいがいいな。

 選ぶ必要がなくなったからふたりが選ぶ終えるのをソファに座って待っていた。

 

「お、なんか買ったんだな」

「おう、いいのがあったから」


 成瀬も割とすぐに出てきて。

 ただこうなると困ることがある。


「これからどうする? これで解散は寂しいけど」


 でも、宮前はそういうことを進んで口にしてくれるから助かる。

 俺は成瀬次第だと口にして結果が出るのを待った。


「宮前、ちょっとこいつ借りてもいい?」

「うん、それなら俺はここで待っているから」


 なんでわざわざ喋り方を変えたりするんだろうな。

 だって俺といるときの自然な宮前というのは成瀬も生島も知っているのに。

 というか、俺はなんのために連れて行かれているんだ?

 しかもトイレに繋がる通路の中途半端なところで。


「成――な、なんだよいきなり」


 みぞおち辺りを全く痛くない感じではあったが突かれた。

 責められて喜ぶそういう趣味ではないので勘弁していただきたい。


「余計なこと気にすんな」

「指摘してきたのは成瀬だぞ」

「極端すぎ、なんで0か100でしか考えられないわけ?」

「いやでも実際、気持ち悪いだろうからな」


 下手すりゃ学校中に自分のした痛い行為が広まっているかもしれない。

 実際、現実でもそういうのはあるみたいだからな、程度の差はあるだろうが。

 もしそうなったら教室でゆっくりすることもできなくなる、それだけは避けたい。


「私が言ったことなら忘れなさい」

「無理だ、それに成瀬の言っていたことは間違っていなかった」


 それよりこんなところで話をしている方が問題だ。

 宮前を待たせているのもあるから勝手に戻ることに。


「おかえり」

「おう、悪いな待たせて」

「気にしなくていい、それよりいまからどうする?」


 結局は成瀬次第なのは変わらない。


「私はここで解散でもいいし、どこかに行くのでも構わないわ。ただ、できればお金をあまり使わなくて済むところならいいわね」

「わかった」


 なかなかに難しいオーダーではないだろうか。

 もうこの歳になると金を使わない遊びというのをあまりしなくなるから。


「それならここだな!」

「おい、なんで俺の家なんだよ……」

「え、だって昼ご飯も食べられるいい場所だろ?」


 まあいい、宮前もいるならなにも問題はない。

 賞味期限が切れそうな乾麺があるから炒めて食べさせようと思う。

 素だけだと虚しいから肉とキャベツを投入。


「ほい、焼きそば」

「さんきゅー」

「ありがとう」


 俺も自分の分を食べつつふたりを観察していた。

 今日、別にいい雰囲気になったとかそういうことではない。

 キャラを作っていることをわかっているからなのか、彼女の対応は至ってフラットな感じ。

 宮前が気になっているだとかそういうことはないのか?


「宮前、いい加減好きな人を教えろよ」

「中学のときの担任の先生」

「まじ?」

「まじ、叶わないことだけどな」


 相手が教師というのはどうしようもないわな。

 20歳を越えれば法的には問題ないが、教師の方が踏み込ませようとしないだろう。

 告白すらできないのであれば簡単に片付けることもできないわけだし、辛い恋だな。


「でも、この気持ちは捨てない」

「え、そんなの辛いだけだろ?」

「だからって無理して他の女の子に~なんて考えたら相手が可哀相だろ」

「そうか……」


 じゃあ、宮前を好きになった女子は同じような想いを味わうということか。

 これを成瀬の前で吐かせることができたのは大きい。

 もっとも、これもまた余計なことをしているだけなのかもしれないが。


「成瀬さんは好きな人とかいないの?」

「いないわね」

「そうなんだ、まあいいことばかりではないからね」


 説得力がありすぎる。

 でも、好きになるってつまりそういうことなんだろうな。

 異性を特別に意識したことがないから想像でしか言えないのが残念だ。


「というか、話し方を変えるのやめなさいよ」

「はははっ、確かに不自然だな」


 本人から指摘されれば流石に宮前もやめるしかない。

 やはりこういう指摘してくれる存在って大切だ、これからも一緒にいられればいいな。


「あんた達はどういう繋がりなの?」

「元野球部仲間だ、田先はピッチャーだったんだぜ?」

「へえ、なんか速い球を投げそうね」

「実際、そこそこ速かったんだよ、結構三振とかにもできていてな」


 けど、高校に入ってもやろうとは考えられなかった。

 中学の活動もそこそこ厳しかったが、それ以上になることはわかっていたから。

 あとはそう、自分が失敗すると問題もないみんなに影響するからだ。

 いや違うか、集団でなにかをするということが自分には合わなかったかもしれない。

 たまに誰かと話す程度でいい、それ以外はひとりでのんびりいたいみたいな。


「成瀬さんは?」

「結花も同じでテニス部ね、県大会まで行ったことがあるわ」

「え、すごいなそれっ、俺らは上にいけなかったからな」

「ふっ、私の方が上ね」

「くっ……テストでも結局勝ててないからなあ……」


 逆に成績優秀過ぎても嫌だから成瀬には勝てないままでいてもらいたい。


「あ、もしもし? え、せっかく休みなのにキャッチボールしてんのか? おう、わかった、それならいまから行くから、じゃあな――というわけだから行ってくるわ」

「おう、気をつけろよ」

「焼きそば、美味かったぜ」

「それは良かった」


 あれ、いや良くないぞ!

 無表情のまま違うところを見ている成瀬はどうするんだ!

 そこはイケメン度を発揮させて連れていけよ……。


「ここに結花を連れ込んだのよね?」

「言い方に悪意がある……行きたいって言ったから連れて行っただけだ」

「でも、中に入れてご飯を食べさせたのよね? 気に入られようとしているわよね」


 彼女の中の俺は女子を狙う人間になっているな。

 近づいてほしくないなら直接言えばいいと思う。

 

「嫌なら嫌と言ってくれ、そういう障害を乗り越えてまでいたいとは思わないからな」

「違う、あんたはそういうことをしているんだと事実を言っているだけ」

「でもさ、なんでも男=で考えるのは良くないと思うけど」


 そんなこと言ったら対異性用のキャラを作っている宮前はどうなるんだ。

 それとも見た目が整っているのであれば別に気にならないのか?

 

「本当にそういうつもりはないの?」

「ない、いまはないと言える」

「そう」


 計算してやる宮前みたいな人間と一緒にしないでほしい。

 じゃあ優しくしたらみんな相手にそういう気があるのか? そんなことないだろ? 

 なんでもかんでもね、優しくする=で考えるのは違うんだ。


「やっぱり俺のこと嫌いなんだろ、そうじゃなければちくちく口撃したりしない」

「別にそういうつもりはないわ、ただ中途半端なことをしてほしくないだけ」

「弄ぶようなことはしない、俺も流石にそこまで屑じゃないからな」

「なら一緒にいるときに毅然とした態度を貫きなさい」

「わかった」


 そこまで言うなら禁止にすればいいと思うけどな。

 そうすれば自分の意思で近づくようなことはしない。

 そもそもの話、俺は自分から生島に会いに行ったことがないからなと全部言っておいた。

 彼女はあくまでいつも通りのまま「極端すぎるのは悪いところね」と呟いた。




 なんか怖いので極力成瀬とはいないようにしようとしていたのだが。


「今日もあの子は用事で来られなそうよ」


 生島が来なくても何故か律儀に来るというオチ。


「生島もいないのにいいのか?」


 そう聞いても急いで帰る必要がないからとしか言わない。

 個人的にはそれで痛いところばかりを指摘してくるようになるのは勘弁してほしかった。

 間違っている部分を指摘できるなら嫌なところだってなんでも言えばいい。

 残念ながら平静ではいられないだろうが、こうしてふたりきりよりはマシだから。


「そんなに結花がいないと嫌なの?」

「そうじゃなくて、成瀬が生島もいないのにいる必要ってないだろ?」

「聞き方を変えるわ、私があんたといようとしたら駄目なの?」

「いやだからさ――あ、いや、確かにちくちくと痛いところを指摘してくるのは嫌だけど、別にそれがなければ成瀬とだっていたいって思っているからな?」


 ふたりを除けば安定して話せる異性はいないから。

 本当に情けないが俺の人生はそんなものだからな、来てくれるのなら感謝しかない。


「それならいいじゃない、一緒にいさせなさい」

「まあ、成瀬がいたいなら」


 見極めようとしているのなら無駄なこととしか言えない。

 俺という人間がどう過ごしてどう選択するのかはこの短期間でわかっているはずだ。

 彼女も同じく家族と不仲だということなら時間つぶしぐらいは付き合ってやるけどな。


「あんたっていつもひとりなの? 休日に両親が来たりとかしないの?」

「そうだな、最後に会ったのは春休みだ」


 別に遠いところに住んでいるというわけではないからいつでも会うことはできる。

 実家に帰れば可愛い弟にも会えるから楽しいことは楽しいだろうが……。


「俺はそれぐらいの頻度でいいと考えているぞ、あんまりに会うと寂しくなるからな」


 それにたまに帰ると家に誰かがいてくれるありがたみというのに気づけるから。

 あとはあれだな、休んでいても誰かが家事をやってくれる幸せとかにも同じだ。

 この前の経験を活かして聞いたりはしなかった。

 〇〇と仲が悪いのか、なんて質問は十分に踏み込んでしまっているからな。


「じゃあ私達が誘わなければひとり寂しくいることになるわね」

「基本的に布団の上だな、それだけでめちゃくちゃ幸せだけどな」


 夏は暑いし冬は寒いが家があるというだけで十分だった。

 エアコンなどの機械を利用したりもしなくても生きていける。

 利用しなければある程度の料金で抑えられるからいい。

 両親からは遠慮なく使えと言われているが高いからなあ……。


「確かにわかるわ、眠くなくてもベッドの上で過ごすことも多いから」

「だろ? 楽しい過ごし方は金をかけなくてもあるんだ」


 しかも疲れたら転んで寝て、適当な時間になったら飯を作って食べればいい。

 行動範囲を無理に広める必要はない、休日なら存分に休むべきだろう。

 なんて、結局は一緒に遊べる人間がいないから広まらないだけなんだけども。


「それなら毎週、宮前に来てもらえばいいじゃない」

「この前来たので2回目だからな、それに休みが1日しかないから無理はさせられない」

「まあ休日だからゆっくりするべきよね」

「ああ」


 今日は天気が微妙だからか灰色に染まっていた。

 それでも変わらずに野球部員達は頑張っている、あ、宮前見つけた。

 部活動に励む高校3年間というのも良かっただろうけどな、俺にはゆっくり過ごすのが合っているからやっていなくて良かったと言える。


「それ貸して」

「また肘置きにするのか? はい」

「ありがと、この教室ってやたらと冷えるのよね……」


 今日は普通に利用するようだった。

 改めて考えるとそれをその後に着るってめちゃくちゃ恥ずかしいことじゃ?

 やっぱり痛いことだわ、異性に自分の上着を貸すとか。


「なんか落ち着くのよね」

「それ、前に生島が利用しているからな」

「ならそれね」


 あの1回しか貸してないからそれはない。

 つまりこれまで着ていたことによって暖かいから落ち着けるのだろうか。

 ……やっぱり気軽にすることじゃない、イケメンでもないんだから次からはやめよう。


「あ、それだとあんたは私の匂いを嗅ぎそうよね」

「そんな遠回りなことをしなくても一緒にいれば嗅げるだろ」

「うわやだ変態がいるわ」


 質が悪い、なにをどうしようと俺が悪役なのは変わらない最凶のあれじゃないか。

 なにかを言おうとした時点で負けることは確定している、こういうときに必要なのはスルーすること、それぐらいはできる精神をしてくれているはずだ。


「それならもっとつけておこうかしら、直接匂いを嗅がれたら困るしね」

「やめろ……」


 気恥ずかしくてどうしようもなくなって洗濯するハメになる。

 その際は色々と気を使わなければなくなるから回避したかった。

 

「勘違いされるから気をつけろ」

「田先は私になんて興味がないでしょ?」

「友達として仲良くしたいと思っているけどな」

「いつものやつ? まだわからないって」

「ああ、どうなるのかなんてなにもわからないからな」


 生島のやつはなにをそんなに忙しい毎日を送っているんだろう。

 少しぐらいは話してくれてもいいと思うが。

 ただ用事があるだけでどこかに行かれているこの状況は少し不安だった。

 両親と不仲の人間が何故早くに帰る必要があるのか。


「なあ、なんで最近は早くに帰っているのか知らないか?」

「知らないわ、なにかあるんでしょ」

「そうだろうけどさ、なんか不安になるんだよな」


 休み時間だって来やしない。

 単純に俺といるのが嫌だということならいいんだが……。


「来たければ結花の意思で来るわよ」

「まあ、そりゃあな」

「気にしたって時間の無駄になるだけよ、それになにかをできてるわけでもないわ」


 確かにな……事情を知ってもそうかとしか言えないだろうし。

 あくまで友達として来てくれるのを待っていればいい――というかそれしかできない。

 なにかあれば流石に成瀬には情報を吐くだろう。

 それを教えてもらえるなんてことまでは考えていないが、ひとりで自滅するようなことにはならなければいいなと思った。

 ……ああいうタイプは怖いんだよなあ、そういうときに敢えて黙ったりするからな。

 迷惑をかけられないとかで変な遠慮をしていなければいいな。

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