04話.[それかもしくは]
たまにはと自分から相手のクラスに行ってみることにした。
そこでわかったのは生島と成瀬は別々のクラスだったということだ。
「で、なんでまだいんの?」
「別にいいだろ、成瀬がどういう感じに過ごしているのか気になるんだ。ちゃんと真面目にやっているのか? 授業中に考え事をして時間をつぶしていないか?」
「あのねえ、あんたより私の方が成績優秀だから、学年順位だって9位だし」
俺は13位だった。
でも、そこだけで判断できることではない気がする。
テストの結果より重いのが普段の授業態度だったりするから。
「結花のところに行きなさいよ……」
「どんだけ見られたくないんだよ、やましいことでもしているのか?」
「はぁ……」
別の教室というだけで非日常感がある。
ざわついたりするような人間ではないからこっちを見ている人間なんていないが、やはりというかあまりほいほいと来るような場所ではない気がした。会うにしても廊下だな、そもそもじっとしていることが好きな自分の行動としてはおかしいし。
「そういえば家に連れ込んだって聞いたけど」
「事実だ」
「気をつけなさいよ、あまり気軽にするべきではないわ」
彼女の言う通りだ、もうああいうことはもっと仲良くならない限りはしない。
というかそういう風に意識をし始めて、そして生島のやつも俺のことをそういう目で見ているということがわからない以上はしないと決めていた。
「なあ、生島って普段からああいうやつなのか? その、積極的に行動するというかさ」
ただ出かけられるというだけであそこまで嬉しそうにされると困惑してしまう。
とにかく不自然だ、残念ながらこれまで接点というやつがなかったからな。
しかも宮前の家とかには行かないが俺の家には行きたいって適当に発言しただけなのか?
「あの子はあんたに興味があるのよ、だから積極的に行動しているんでしょうね」
「俺にって……最近話し始めたばかりなのにか?」
「中学生時代になにかしたんじゃないの?」
いや、中学時代なんて特に異性との関わりなんかなかった。
関わるのは野郎達、部活動の仲間と普段から一緒にいたり遊んでいたりしたから。
それはそれで凄く楽しかった、一緒になって盛り上がれるいい奴らだったからな。
「俺は二中だけど成瀬達は?」
「私達は三中ね」
「それならなにもしようがないだろ」
遠くまで出かけたりすることもなかったから不可能だ。
高校に入ってからは部に入ることもしなかったし、1年生のときも同じ感じだったし。
去年実は同じクラスだったのになんてボケをかますこともない。
クラスには確かに生島はいなかった、それだけは確かだった。
「まあいいじゃない、興味を持たれているのは悪い気はしないでしょ?」
「そうだな、色々と困惑することも多いけど」
「それならほら、戻りなさい」
「どんだけ俺といたくないんだよ……」
それでも予鈴が鳴ったから仕方がなく戻ることに。
「どこ行ってたんだ?」
「成瀬のところ」
宮前が行ったら態度が変わったりするんだろうか。
人気者が行くと露骨に態度を変えたりするっておかしいよな。
俺達が行くときにはドライというか淡々としているのにさ。
まだ無視されていないだけありがたいと感謝しておくべきなのか?
とりあえず授業だ、人にあんなことを言ったんだから集中しないといけない。
……話し始めたばかりだからしょうがないかもしれないが、成瀬って俺のこと嫌なのかもな。
それとも、生島の距離感がおかしいだけなのか?
誰にでも気さくに対応できる人間ばかりではないことを知っている。
何故なら自分がそうだからだ、だから責められるような立場にはない、ないが。
「田先ー」
「へいっ!?」
「ど、どうした? あ、49ページの最初から読んでくれ」
「は、はい」
ある程度は俺のことを知っている的な言い方をしていた。
けど、危ない人間ではないことを知っていると言いながらも一緒にいることを選んだ。
つまり、内のどこかには生島を襲うかもしれない人間としてカウントされていると。
……なんかそれってむかつくよな。
そりゃ、女子なら気をつけた方がいいかもしれないけど、一緒に遊びに行ったときの雰囲気なんかも装っているものだと思われているってことだろ?
はぁ、でもしょうがないな、異性とはそういうものだと考えておかないと。
生島基準で考えるから悪いんだ、普通は成瀬みたいな反応をされる。
大体、俺は宮前みたいな人気者ではないからな、しょうがないことだ。
「さっきの返事、馬鹿みたいだったな」
「余計なお世話だ」
そもそもどうして宮前は来てくれているんだ?
関わり始めたのは中学で野球部に入ってからだが、そこからもなにかとな。
ある程度はこちらのことを理解してくれているから無理に誘ってきたりもしなかったし、ひとり寂しくどうしようもないときは察知して来てくれたりもした。
俺が人気者の宮前といるならともかくとして、なんにもない俺と宮前がいる意味ってなんにもないんだよなあとやはり現実が見えてきてしまう。
「宮前はなんで俺といてくれているんだ?」
「は? もう約5年の付き合いだぞ、今更そんなこと聞くなよ」
「いや、俺にはメリットがあるけど宮前にとっては違うだろ?」
「余計なことは気にするな」
確かにそうだ、なにを不安になっているのかという話だろう。
「成瀬ってどういう感じだ?」
「成瀬さんか? んー、別に普通だと思うけど」
「そうか」
そのまま鵜呑みにして信じるのは違うが納得しておく。
いきなり呼び捨てにしたりしないところが人によっては安心するんだろう。
だからって真似したりはしないけどな、真似したところでぎこちなくなって逆に疑われたり警戒されたりされるだけだから。
意味がないとわかっていても少し話をしてみた。
それこそ約5年の付き合いなんだから遠慮する必要もないだろうし。
「なにか勘違いしているようだが、俺のときだってそういうものだぞ」
「そうなのか?」
「そうだ、生島さんが特殊なだけだな」
「やっぱりそうか……」
重く捉えすぎていただけのようだ。
勝手に冷たい対応をされて苛立つなんて自分勝手すぎた。
気をつけなければならない、そういう意味でも宮前がいてくれるのは大きい。
これもまた参考にしすぎるのは問題だが、一例を見られるのはいいことばかりだから。
「あー、部活がなければ残るんだけどなあ」
「いいから早く行きなさいよ、遅刻するわよ?」
「行ってくる、帰るときは気をつけて」
いや、対異性の場合は誰だかわからなくなるからやっぱり駄目かもしれない。
凄く残念そうな表情を浮かべたまま宮前は教室を出ていった。
対するこちらは席に張り付いたままで自由にゆっくりとしている。
「ふぅ、明らかにキャラを作っているわよね」
「だな」
「あ、今日結花は来ないわよ、用事があるからってすぐに帰ったから」
「それなら成瀬も帰ればよかったんじゃないか?」
生島がいなければ律儀に守る必要なんてない。
「急いで帰っても仕方がないから」
「そうか、まあそこは成瀬の自由だからな」
彼女となら気まずい気持ちになんてならないから大丈夫だ。
やはりというか俺の前の席に座って頬杖をつく彼女。
「あんた、結花とだけじゃなくて私とも仲良くしたいの?」
「そりゃまあな、こうして話せる相手というだけでも貴重だから」
女子同士で群れている集団に突撃することはできないし、かと言ってもひとりでいる女子に一方的に話しかけるというのも違うだろう。だから自然と来てくれる彼女達は本当に貴重なんだ、大切にしなければならない。
「別にいいわよ、仲良くなれば安心して結花を任せられるし」
「まだそういうつもりはないけどな」
一緒に過ごしていくことでいくらでも考えは変わるかもしれないが、いまはそうじゃないとはっきり言える、まだやっと友達になれたぐらいだから遠すぎるというのもあった。
「あんた誕生日は? 私は7月8日だけど」
「俺は10月2日だな」
「へえ、結構遠いのね」
何気に関わり始めてからは毎年宮前がプレゼントをくれる。
中学時代はバッティング手袋とかだったな、地味に高いから助かっていた。
高校に入ってからは何故かいま欲しい物を察知してそれを買ってくれたりとかな。
だというのにこっちには大して求めてくれないから困っている、というのが正直なところ。
去年なんて俺が作った飯を食べて満足したとか言われてしまった。
美味しいと言ってくれるのは嬉しいが対価としては微妙なところだよなあと。
「ということは私もあんたも16歳ということね」
「そうだな」
早いものだ、あっという間に高校2年生になっているんだから。
もう社会人として行動し始める日々もそう遠くはない。
大学に行くわけではないから他の人間よりももっと近い。
「このタイミングで近づいて来るのってなんでだろうな」
「1年生のときは動けなかったからじゃない?」
「って、毎日一緒にいたんだろ? なんか情報くれよ、勘違いしないようにな」
あのままの態度でこられたら意識し始めてしまうのは割とすぐだと思う。
そういうときにこのフラットに対応できる彼女がいてくれると助かるのだ。
「特にないわ、結花がああして積極的に行動するときは興味があるときだから」
「だからなんで俺に興味を持つんだよ?」
「そんなの知らないわよ、24時間一緒にいるというわけではないんだから」
「頼むよ成瀬……」
「無理よ、なんでもかんでも話してくれるというわけではないし」
彼女はそのタイミングでこちらを見た。
別に普段と変わらない、あくまでいつも通りの彼女って感じ。
「私には貸してくれないの?」
「冷えるのか?」
「そうね」
なんでまだ冷えるんだろうな。
もう4月もあとちょっとで終わりそうなところなのに。
「別に俺ので良ければいくらでも貸す――ど、どうした?」
「失格ね、誰にでも貸そうとするなんて」
が、彼女はそのまま受け取って肘置きにしていた。
確かに机の表面は冷たかったりもするからしょうがない。
それに間になにかがあれば痛くならなくて済むかもしれない。
けど、なんだかそこそこ複雑なのは何故だろうか。
「そういうのは結花が不安になるからやめてあげなさい」
「いまはそういうつもりでいるわけではないからな、それにこれぐらいで成瀬が勘違いすることもないだろ? 俺は宮前や他の人気な男子じゃないんだからな」
生島のことを意識していながら他の女子にも気に入られようとしていたら確かに駄目だ。
だって保険をかけるようなことだからな、ただ一緒にいて話したりするのとは訳が違う。
でも、先程も口にしたようにそういうつもりで生島といるわけではないのだ。
「気に入られようとしてしているわけじゃない」
「相手が同性でもするの?」
同じ質問をされたなと思い出しつつ寒そうにしていたらなと同じように答えておいた。
「普通は貸さないと思うわ、痛い人間なんじゃないかと考えて」
「いらないなら返せばいいってちゃんと言ってる」
「つまり保険をかけつつも格好つけようとしているということじゃない」
「ああもうわかったよ、格好つけでもなんでもいいからこれ以上はやめてくれ」
昔からしてきたことだから今更言われてもな。
別に寒そうにしていたら相手が同性だろうと貸そうかぐらいは言うだろ。
自分は寒い思いをしても別に構わないが、一緒にいる相手にそうされていると気になるもの。
やっぱりおかしくないよな、だって嫌なら断ればいいんだから。
別に無理やり上着を貸そうとなんてしない、言うとしても1度ぐらいなものだ。
いや、時間が経ってまだ寒そうにしていたら2度目ぐらいまではあるかなと内で呟く。
「成瀬の中で俺のイメージが悪いことがわかった」
「悪いんじゃなくて下心があるんじゃないかと考えてしまうのよ」
「同じだろそれ……別にな――仲良くしたいと考えるのは下心か?」
「気に入られようとしてしているのなら下心じゃない?」
まじか……俺はただ普段世話になっている分とか考えてしていたつもりだったんだが。
流石に俺だって全く話したことのない人間にいきなりはできない。
……ということはやはり醜い自分がいるということなのか。
「悪かった、全部俺が悪い」
「極端な人間ねえ」
「いや、そもそも俺に貸されても気持ち悪いよなって」
もっと見た目とか雰囲気とかを鑑みるべきだった。
身近に宮前がいて毎日現実を突きつけられているんじゃないのか。
「もう求められない限りは言わない、しない、これでいいだろ?」
「それはあんたが決めることだから」
俺が決めたことを否定してくれたのは成瀬だけどな。
まあでも気にせずに指摘してくれる存在というのは貴重じゃないだろうか。
なかなか他人が決めていることを変えた方がいいんじゃない、とは言えないから。
「ありがとな、しっかりと教えてくれて」
「なによ急に、あんたって私にお礼を言いすぎじゃない?」
「いや、成瀬みたいな存在は必要だからな」
なんでもかんでも擁護してくれればいいというわけではないのだ。
間違っていることは間違っていると真っ直ぐに言ってほしい。
……むかつくなんて考えた自分が馬鹿だった。
こっちのことを考えてくれているからこそできることだから。
「って、こういうこと言われるのも女子としては嫌か?」
「別に悪い気はしないでしょ」
「そうか、あんまり異性と関わったことがないから難しいんだよな」
全て逆効果になる可能性もある。
仲良くなれるようにとしたことで嫌われる可能性もある。
人によって言葉の捉え方が違うから難しいところだった。
「宮前といたんだから機会はいくらでもあったでしょ?」
「確かに宮前は中学のときから異性といたけど、異性が宮前のところに来ているときは遠慮していたからな、だって明らかに空気を読めない存在になってしまうし」
そういうときに無理して参加させようとしない人間だから良かった。
そんな誰も得しないことをしてもしょうがないからな、宮前は立派だ。
で、こっちのこともしっかり忘れずにいてくれるのがいい。
たまにでも話しかけてくれればそれで十分だと言えた。
「なるほどね、大体はわかったわ」
「そうか?」
「関わる側としては不安になるタイプの存在だということが」
「そう……なのか?」
そうなのか……じゃあ変わらずいてくれてる宮前って最高かよ。
やっぱりなんでいてくれているのかわからなくなってくるな。
だからって不安がっていると人は簡単に離れていく。
それならいままで通り来てくれるのなら拒まないを続けるしかなさそうだ。
「悪い、不安にさせて」
「はぁ、なんでも謝罪と感謝を繰り返せばいいわけじゃないのよ?」
「悪い、なにが正しいのかがわからないんだ」
恐らく宮前レベルでも毎回正解を選べているわけではないと思う。
じゃあ俺レベルなら何度も失敗を繰り返していくのは当然だよなと。
「間違っているところばかりなんだろうな」
「別に全てが悪いわけじゃないわ」
「いやいいって、気を使わなくていい」
自分じゃどうしようもないから間違っていると指摘するか、それかもしくはなにもかもを諦めて離れてくれれば良かった。無理して一緒にいようとしてくれなくていい、流石にそこまでは俺も求めてはいないから。
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