第4話 紗南の戸惑い

 それから、紗南は黙り込んでしまって、身体が少し冷えてしまったかも知れないくらいの沈黙の時間が流れた。


 言いにくいことを言わせてしまった罪悪感から楽になろうと俺はずるい言葉を吐いた。


「悪かったっ」


 その言葉とほとんど被さるように「ごめんなさいっ」と紗南もほぼ同時に叫んでいた。


 そして、お互いにあたふたとお先にどうぞと言おうとしては言葉にどもる。


 二人して、同時に深呼吸をし、緊張の糸の途切れた紗南が、いきなり笑い始めた。


 「ふっふっふ…」とお腹を抱えて笑っている。


 しばらく、笑い転げて、目から少し溢れた涙をハンカチでぬぐいながら紗南は言った。


「なんか思いっきり泣いたらすっきりしちゃった。これから、話が長くなるけど、私の話を聞いて貰えるかなぁ?」


 勿論、俺に断る理由などなく、大きくこくりと頷いた。


 俺の顔をしばらくじっと見つめてから、紗南は「申し訳ないけど、まずは北願寺くんがあの場にいた理由から伺ってもいいかしら」と口を開いた。


 あぁっと俺は遠い記憶を思い出すように言った。


「姉貴の忘れ物を届けにいったんだが、行きに桜の木に惹きつけられてミイラ取りになって、帰ろうと気づいたら、今度は俺が定期券を落としていたんで、とりにいったら沢垂さんがいたんだ」


「お姉さん?」と意外そうな顔して紗南は言った。


「あぁ葬儀会社に勤めている。それであそこにいたんだ」


「そっか」とすっきりしたような顔をしてから、「北願寺君って優しいねっ」と言った。


「はぁ?」


「お姉さんの忘れ物を届けてくれたし、私とのことを誰にも言わなかった」

「それが優しいことか」と俺は照れを隠すために彼女から視線を背けた。


「うん」といつもよりも思いをこめた頷きをしたあとにやや躊躇して、「私の話を聞いて貰えるかなぁ」と震えた声で言った。


「いいけどっ」とどきっとしながら答えた。





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