第2話 変わった少女
兎も角、お互いに黙りこんだまま、数秒間が経過していく。
確か、フランスの諺に沈黙は天使が降りてくるとかロマンチックなものもあったと思うが、この場は沈黙がただ重い。
えーっとぉ。この場にふさわしい言葉がもっとあったはずだと思考を巡らせば、老人ホームで傾聴のボランティアをしているお袋の…って、余計この場の沈黙から浮いていく気がする。
ともかく赤い顔をして肩を小刻みに震わして黙りこんでいる少女にしてやれることはないのかと俺が思案にくれているとおもむろに少女が動いた。
しかも、全身震えながら、女性らしい小さな丸みを帯びた指先で、彼女の胸の前に右手をおいて、なおかつ自分の服を掴みつつ、俺の前に立った。
おいっ。パーソナルスペースという人との丁度良い距離感があるだろうとか、自分の服を掴みながら話したら余計緊張して自分が辛くなるだろうとか、つっこみたい言葉もあるのに、頭が真っ白になったのは俺に彼女がいないせいだろうか。
さらに沈黙が続くかと思った時、少女は俺をかっと睨んで言った。
「お願い。今日のことは誰にも言わないで…」
この少女が何を言いたいのかはわからなかったが、必死に右手は自分の服を掴んで、左手は完全に震えている様と人見知りをするようなのに、自分から俺の近くにやってきた勇気に免じて、俺は深呼吸一つして、彼女の不安で揺れる大きな瞳をのぞきこんだ。
「あぁ。わかったよ。約束する」と心なしか俺の声も少々震えていた気もするが、ともかく安心できるように、落ち着いて話しかけてみたつもりだった。
「本当にだからね」と相変わらず顔が膠着したままいう。
「俺は約束は守る男なんだ。」とさすがの俺も少し苛立ちながら答えた。
俺の言葉のなかに含んだ苛立ちの色に気づいたのか「ごめんなさい。さすがにくどかったわね」とまた肩をおとして、彼女はうつむいた。
また泣かれたりしたら面倒だと思い、「いや謝ることはない。じゃあなぁ…」と俺はやや早口で答えてこの場から立ち去ろうとした。
「待つて」と少女は慌てたように、俺を呼び止める。
「なんだよ」ともはや俺はやや恐怖を感じながら、答える。
彼女は目を大きく見開いて、「ま…姉川卯月さんのご関係者の方ですか?」とうわづった声で尋ねる。
「誰だそれ」ともはや俺はあきれはて、疲れはて答えた。
「関係ないのならいいのです。不躾なことを尋ねて申し訳ありませんでした。どうか今日のことは忘れて下さい」と彼女は頭を垂れた。
俺は気にすんなと少女に手で合図しながら、良くわからない女に関わったとため息をついて、その場を去った。
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