第2話 えっ、同居ですか!?
「いやー、昨日の朝に目が覚めたら、両親が夜逃げしちゃっててさー」
俺が一人暮らしするに当たって、ちょっとだけ奮発して買った高級ソファに寝そべりつつ、間延びした声で話す美少女。
そんな彼女とテーブルを挟んで対面、座布団に正座する俺。これどっちが家主か分からないね。
彼女の自己紹介を信じるならば、『アメゾン』こと『
雨宮のアメに尊の音読みゾンでアメゾン。出品者で記載されていたのは『アメゾンサイト公式』というわけではなく、どうやら彼女のニックネームだったらしい。これ、詐欺で訴えたら勝てますか?
「変なオジサンも家に来るし、さすがにヤバイと思って逃げたんだけど……行く当てもなくってねー」
なかなかアンビリバボーなイベントが起こったようだが、それにしてはどうも落ち着いている。16歳の娘を置いて親が夜逃げって……。
果たして肝が座っているのか、それともすべてが嘘でただの家出なのか。常識的に考えれば、後者に決まっているのだけれど。
「ハイタツくん。いま、あたしが嘘ついてるって思ったでしょ」
「ソ、ソンナコトナイデスヨ」
「あはは、ハイタツくんって分かりやすいね」
『ハイタツくん』とは、雨宮が勝手につけた俺のニックネームである……。
この自称JKである雨宮 尊は、年上である俺を全く敬うつもりがないようだ。「
美少女耐性が全くない俺は、「エ、ア、ハイ。トテモイイト、オモイマス」とロボットのように返事をしてしまい、双方同意の上で俺の呼び名が『ハイタツくん』で決定してしまったというワケ。なんとも解せない。
そしてこの時点で、俺と彼女のヒエラルキーが生まれてしまったのだ。彼女が上で、俺が下。どこからどう見てもスクールカースト上位の雨宮に対して、教室の隅っこでベーズオタクたちとこじんまり過ごしていたスクールカースト最底辺の俺……最初から抗う術など無かったのかもしれない。
「ってことで、今日からここに住むから。よろしくね、ハイタツくん」
「はいはい、ここに住むんですね……ここに住むんですか!?」
あまりにも自然に言うものだから、そのまま流してしまいそうになったが……このJKは一体何を言っているんだ!?
だ、だだ、だって、こんな8帖で1Kの部屋に、俺と雨宮が共同生活なんて、そそ、そんなの許されるはずがないじゃないか! いったい誰が許さないのか分からないけどさ! 国の法律とかでダメじゃないかな!?
男女が同じ部屋に暮らすなんて、そんなの間違いが起こってしまうかもしれない。むしろ、起こらない方がおかしい。俺なんて年齢イコール彼女いない歴の魔法使い予備軍さんですよ?
そりゃあ、もう、あんなことやこんなことを、日々妄想しているワケで……。
「ハイタツくんはあたしを買ったんだから、別に何したっていいんだよー?」
頭を抱えてウンウンと唸っている俺を見て、雨宮がそんなことを言い出した。
「買った!? 何したっていい!?」
「うん。ほら、高校生着用のベーズ記念Tシャツ! しめて15万円です!」
そう言いながら、自分が着ているTシャツの裾を摘まんでアピールしてくる雨宮。
LサイズでぶかぶかなTシャツの下にすらりと伸びた、健康的な素足に目が吸い寄せられる。あのスベスベモッチモチの太ももで、
ってこれでは変態じゃないか!
そ、そんなことより、もしかして商品ページに乗っていた『高校生着用』って『高校生着用済』ではなく、『高校生が着用している』ってことだったの!?
「さ、詐欺だ!」
「嘘は書いてないでしょー。ベーズ記念Tシャツはこうしてあるわけだし、あたしが付属で付いてきたってだけだよ。むしろこんな美少女と一緒に暮らせるんだから、超お得じゃない?」
そう言いながら身体を起こし、上目遣いで俺を見つめる雨宮。
うっ、確かにメチャクチャなほど美少女だ。500円くらい余裕で乗せられそうな長い睫毛と、その先のちょっぴりうるんだ大きな瞳。外国人のようにスッと通った鼻筋と、何かを期待するように半開きになった桃色のぷっくり唇。
自分で言うなという話だが、それも嫌味に思えないくらいに、どこを切り取っても超絶美少女と認める他はない。
「ふふん、見惚れちゃった?」
「そんなことないデス」
「あはは、ほんとハイタツくんって分かりやすー」
ゴロリとまたソファーに寝転がり、ケラケラと笑う雨宮。
パタパタと足を振る度に、Lサイズのベーズ記念Tシャツの裾がまくりあがっていき、パンツが見えてしまいそうになっている。
も、もう少し……もう少しだけ、腹を抱えて爆笑してくれ……!
「んー? ハイタツくん、そんなに見たいの?」
「ナ、ナンノコトヤラー?」
食い入るように見つめていたことに気が付かれてしまい、俺は慌てて顔を逸らす。雨宮はそんな俺の様子を見て、悪戯な笑みを浮かべながら立ち上がった。
「ねぇ、ハイタツくん? あたしぃ、ここに住んでもいいよねぇ?」
生キャラメルのように甘い声で囁きながら、雨宮は記念Tシャツの裾を両手で握り、するするとたくし上げていく。
Lサイズという大きさもあって、小柄な雨宮の膝まで隠していた記念Tシャツが、既に膝の上まで上がってしまっていた。
しかし、そろそろ太ももまで見えるというところまで来たのに、一向にズボンが姿を現さない。まさか……!?
「ズ、ズボンはいてないの!?」
思わず叫んでしまった俺の言葉を聞いて、雨宮は口角をさらに上げた。
「ふふっ、どうでしょう?」
雨宮は喋りながらも手を止めない。焦らすようにスピードを下げつつも、どんどん露出する肌の面積は増えていく。
ついに足の付け根まで到達しようというその時――。
ピタッという擬音を空耳するくらい、ギリギリのタイミングで手が止まってしまった。あと数センチでも上がってしまえば、きっとパンツが見えてしまうだろう。そんなギリギリのタイミングで。
「ハイタツくん? 住んでもいいよね?」
ニヤニヤしながら俺に問いかける雨宮。
これ、新手の脅迫ですか?
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