ネットショッピングでTシャツを注文したら美少女高校生が置き配されていて、キャンセルも不可らしいので結婚することになりそうです。

詠み狐知らず

Tシャツ頼んだら美少女が届いた

第1話 Tシャツ頼んだら美少女が届いた


 俺はいま、とてもワクワクしている。



 家に帰ったら届いているはずだからだ。



「『ベーズ』の記念ライブTシャツ~!」



 外だというのに、思わず大きな声で叫んでガッツポーズしてしまった。

 近くにいたお姉さんがビクッ! ってしてる。ごめんなさい!


 『ベーズ』とは、国民的に大人気なロックバンドだ。ライブのチケットを売り出せば即完売、ライブ限定グッズも大量に用意されているのに即完売、曲を出せば即日ミリオン突破という化け物としても有名である。


 そんなベーズの記念ライブTシャツなんて、それこそ元値である5000円の数十……いや、数百倍以上になることだってある、超レアアイテムなんてレベルじゃない代物だ。


 最近では世の中の富豪たちが、株の代わりにベーズのTシャツで資産運用を始めたなんて話もあったりなかったり……。


「しかも! 20周年記念ライブかつ俺の誕生日と同一日なんて! 運命としか思えないよな!」


 俺はライブを観に行ったり、ファンクラブの会員になるほどの熱狂的なファンではない。

 それでも発売されるたびにCDは買っているし、テレビの音楽番組に出ればリアルタイムで必ず視聴する……きっとライトなファンと言っても怒られないはずだ。


 そんなベーズファンの俺にとって、記念ライブTシャツを入手できたことは、まさしく運命と言っても過言ではないだろう。誕生日と重なったタイミングはこの20周年ライブしか存在しておらず、人生をかけて手に入れようと思っていた一品でもある。


「そんな至極の一品が、たった15万で買えるなんてラッキーすぎる!」


 もしかしたら、Tシャツに15万も出すなんておかしいと思われるかもしれない。

 しかし、ベーズ界隈では15万なんてはした金と一緒である。オークションに出せば、それが開始金額になることだってあるのだから。


「着用済みってのが残念だけど、俺は別にコレクターじゃないしな~」

 

 俺が手に入れた手段は、『アメゾン』という大手のネットショッピングサイト。ネットショッピングが趣味の俺は、昨夜も日課としている掘り出し物チェックをしていたわけだが……。


 その中で、たった数分前に投稿されたこんな商品を発見してしまったのだ。


【ベーズ20周年記念ライブTシャツ/ブラック/Lサイズ/高校生着用】


 最後の文言に多少は引っかかったが、着用している首から下の写真(女の子っぽい)が商品画像で使用されていたため、着用済みということを強調したかったのかもしれない。ネットショッピングにクレームは付き物だからね。


 もともと手に入れれば普段使いをしようと思っていた。着用済みで15万は少しだけ相場より高いが、今後このTシャツを買う機会があるとも思えない。そもそも世に出てくること自体が珍しいのだ。


「この分は来月の俺が頑張ってくれる!」


 俺は即決でクレジットカードのニコニコ一括払い。社会人2年目の俺にとっては大きい出費だが、後悔はしていない。きっと買わない方が後悔していたはずだ。


 今朝に「発送しました」というメールが届いており、出品者は『アメゾン』となっていたから、おそらく近くのアメゾンの倉庫に商品があったのだろう。俺がちょうど定時で帰る頃には配達が完了しているようだ。


 そんなわけで俺は定時ピッタリに退勤処理をして、上司からの「ちょっと話があるんだけど」という言葉を最初の「ちょ」くらいで華麗に聞き流し、帰路に着いているわけだ。


 ビジネスバッグを振り回しながらスキップしていると、だんだんと俺の住んでいるアパートが見えてきた。


『あぶな荘』。


 駅から徒歩5分以内という好立地にも関わらず、この究極的なネーミングセンスの無さと、建物のボロさによって不人気なアパート。

 俺の親が管理人さんの親と友人らしく、かなり家賃も安くしてもらっているため、細かいことを気にしない俺にとっては最高のマイホームである。


「あの階段を上がれば、『記念ライブTシャツ』が置き配されている!」


 世界的な感染症を背景として爆発的に広まった置き配は、俺のようなネットショッピング中毒者にとって最高のサービスだ。急な用事で家にいなかったり、トイレに入っている間にピンポンされて出れなかったなど、再配達を何度経験したことか……。

 そんな苦い経験も、すべてこの置き配によって解決されたのだ。我々ネットショッピング中毒者は、ついに救われたのである。


 もちろん、宅配ボックスも設置して盗難対策もバッチリ!


「ネッ、ト、ショッ、ピ、ン、グ、は、さ、い、こ、う」


 トントンとリズムを刻みながら、ギシギシと軋む木製の階段を上っていく。

 いつもであれば、踏み抜いてしまいそうでビクビクしながら上がる階段だが、今は天国に通じるレインボーロードのよう。


 最初は普通に上がっていたが、途中からはもう逸る気持ちを抑えきれずに2段飛ばしで駆け抜けていく。

 下の階に住んでいるオジサンから「うるせえぞ!」なんてヤジが飛んできたが、俺の耳にはそれすらも黄色い歓声に聞こえた。応援ありがとう!


 ついにレインボーロードも終わりが見えてきた。俺は右足に思い切り力を込めて、残りの3段をジャンプで上がり切る。

 そしてゆっくりと顔をあげて、俺が住む『202号室』の前に設置されている宅配ボックスへと視線を向けると……。


「え……?」


 そこには確かに『記念ライブTシャツ』が存在した。


 宅配ボックスの中にあるはずなのに、なぜか外に出ている。それは、今は些細な問題だ。そんなことはどうでもいい。


 問題なのは……。


「やっほー、お兄さん」


 宅配ボックスの上に座って足をプラプラさせている美少女だ。


 俺の握り拳くらいしかないんじゃないかと錯覚するほど小さな顔に、大人気アイドルも顔負けな整った顔立ち。栗色の髪の毛を肩で揺らしながら、愛嬌のある笑顔で俺に向かって手を振っている。


 少し華奢な彼女の身体を包んでいるのは、穴が開くほどに見ていた商品ページの写真と瓜二つで……。


「な、なぜ……『記念ライブTシャツ』を着ているんだ!?」


 俺が注文した『記念ライブTシャツ』を身に纏う彼女は、目を細めて悪戯っぽい笑顔を浮かべる。

 そして「よっこらしょ」とオッサンみたいなかけ声で宅配ボックスから降りると、ズカズカとコチラへと近寄ってきて、こんなことを言い放った。


羽泉はいずみ 達哉たつや様! 高校生着用の『ベーズ20周年記念ライブTシャツ』、たしかに『アメゾン』こと雨宮あめみや みことが配達いたしました!」


 そんな意味不明なセリフと、目の前にある美少女の顔にドギマギしていると、雨宮とやらは俺の手をガッシリと両手で握って、続けざまにまた意味不明なことを言いやがった。


「この通り、お手付きしたのでキャンセルは不可です! 責任とってね?」


 これ、どういうことですか?

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