第14話不穏な空気

 玲奈の霊力量を測定してから穂香はパソコンの画面を見つめたまま固まっていた。


「あ、あの~? 穂香さん?」


 玲奈が声をかけてようやく画面から目を離せた穂香は笑いながら頭を掻いた。


「ごめんね~どうやら遼くんの言ったとおり測定機壊れてたみたい~」


『ええ~!!』


「測定判定がエラー出ちゃって……ごめんね、今度は壊れていない測定機で測定するから今回はここまでね」


 玲奈の霊力量がどれほどの物なのか気になっていた遼と詩織は肩を落として落ち込んだ。


「なんだよ~結構気になっていたのに、残念だな~」


「機材が壊れているなら仕方ないね」


「取り敢えず霊力は測定できなかったけど、武器のセッティングだけは今日中にやっておきましょうか」


 気を取り直して穂香は玲奈に言葉をかけた。霊力が測定できなかった玲奈は思った以上にショックを受けておらず、すんなりと「はい!」と答えた。


「……もう決まっています。私がサポートに追加する武器は……」


 玲奈の指定した武器に3人は軽く微笑み、穂香は武器の準備に取りかかった。


「武器を準備するのに時間が欲しいから1週間後にまたここにきてね。細かいカスタマイズは残りの1週間で終わらせましょう。2人も武器を追加したくなったら私がセッティングしてあげるから気が向いたら連絡頂戴」


 3人は軽く頭を下げて穂香に「お願いします」と言葉だけ残して部屋を後にした。


 1人になった穂香は椅子に座り込み、大きくため息をついた。未だに玲奈の霊力測定判定がエラーを示している画面を見つめ、自分に向けて霊力の測定を始めた。結果はすんなり出て、数値もはっきりと表示された。機材の故障ではない事が証明され、頭を抱えた。


 すると、ある人物が穂香の研究室の扉を開け、穂香に声をかけた。


「やあ、面倒ごと押しつけて悪かったな。穂香」


「優一くん……お疲れ様」


 あまり顔色が優れない穂香をみて優一は何かを察した。


「水澤ちゃんたちに何か問題でもあったか?」


 優一の紫色の瞳が穂香の心を映し出す。隠すことが出来ない相手だと分かっている穂香は、重い口を開けて優一にありのままの出来事を説明した。


「エラー……か」


「不思議ね。霊力量、千の位まではちゃんと測定できるのにエラーなんてね。生身の人間だし霊力は持っているはずだし……私も初めての経験で何が何だか分からないよ」


 研究者として目の当たりにしたこと無い結果に穂香はとても悩んでいた。


「……どうやら俺が見えた物以上に彼女は特別なのかもな」


「特別? 一体どういうこと?」


「なんで入隊もしていなくて、死にかけていた彼女を、俺が終世プログラムまで使って助けたと思う?」


 優一の問いに穂香は答えることが出来なかった。いかんせん優一の考えていることは常人の域で理解しかねることが多いのだ。


「俺の目でも見えなかった……いや、見えそうだったが今まで見たことないものが見えた。その何かが彼女が特別だと感じる物だと言うことは間違いなく言える。それに暁美も玲奈の事に関して何かを隠している」


「本部長が? 玲奈ちゃんは一体何者なの?」


 優一は穂香に玲奈に関する資料を手渡した。


「至って普通の女子高校生。ただ母子家庭で父親は水澤ちゃんが生まれる前に行方不明だそうだ」


「行方不明?」


「昔の事変が関わっているかは分からないが……恐らく母親も何かあるかもしれない」


「全てが謎……また面白うそうな子を連れ込んできたね。優一くん」


 優一は軽く微笑み煙草を取り出した。


「ここは禁煙だよ。吸いたいなら出て行って」


「お? すまない……暁美にこれ以上詮索するなって言われたが、どうしても気になる。穂香、水澤ちゃんの事で何か分かったら俺に報告してくれ。もちろん極秘で」


 優一の真剣な眼差しに穂香は少し驚く。


(いつも、のらりくらりで何考えているか分からないけど、真剣な目をしたときは、怖いくらい良い顔するんだから)


「分かったよ」


 穂香の返答に優一の表情は和らいだ。


「それじゃあ、よろしく」


 優一はニッコリと笑って部屋を後にした。



 ======



 武器を決めた玲奈は気分が上々で鼻歌を歌いながら病室に足を運んでいた。体が動くとはいえ、一度は生死をさまよった身。病室から出るのは、まだ先だった。


「武器を決めて機嫌が良いね玲奈ちゃん」


「まあね。自分専用の武器だから早く使ってみたくて1週間が待ち遠しいよ」


「その前に体の調子を万全に戻すことが先決だろ? 本調子じゃなくて落ちました……bってなったら目も当てられないぞ?」


 遼が嫌み混じりに玲奈に話す。その言葉に我慢を効かせ、玲奈も嫌み混じりに言葉を返す。


「あんたこそ、腕を上げないと私に一生勝てないよ。まあ、遼が強くなっても、私も強くなるからやっぱり勝てないね」


「なっ!?」


 言い争う2人を必死に止めに入る詩織。玲奈はいつもの光景を取り戻したと実感し、軽く微笑む。その微笑みを見て、自然と2人もつられて微笑む。


「やっぱり遼と詩織がいないと私はダメだね。2人とも、これからもよろしくね」


「おう!」

「うん!」


 明るい空気が漂う中、病室前に到着するが、ある人物が玲奈たちを待っていた。


「もう入隊した気か? 水澤玲奈」


 玲奈の病室の前に待ち構えていた人物は、玲奈にとって嫌な思いしか抱かない人物だった。


「あんたは……確か仁?」


「久しぶりだな規定違反者。俺の名前は桜井仁。今回、お前に最初で最後の挨拶に来たんだ」


 玲奈は仁を睨みつけ、仁も玲奈を睨み返す。明るい空気から一変、重い空気が漂い、2人の会話に遼と詩織は口を挟むことは出来なかった。


「私に挨拶? しかも最初で最後?」


「そうだ。お前はホープに入隊することはない」


 仁の一言に玲奈の怒りゲージが上がった。


「なんであんたにそんなこと言われなきゃならないの? 私は本部長からも特別入隊試験を合格することによって入隊することが出来る……今ここで、私が入隊できないって決めつけるのはおかしくない?」


 仁は残念そうな顔でため息をつき、哀れみの目で玲奈を見つめた。


「お前はまだ分かっていない。試験内容は本当に理解しているのか?」


 挑発的な言葉に玲奈は今すぐにでも飛びかかろうとしていたが、遼と詩織に肩を押さえられ今一度思いとどまった。


「知ってるよ。正規隊員との1対1。ハンデ戦で私が勝てば正式入隊……」


「そう、正規隊員と1対1。俺とお前の真剣勝負だ」


 仁の一言に玲奈たちは固まった。真実を知った玲奈の表情を見て、仁は不敵な笑みを浮かべた。


「師匠の頼みでなければ断固拒否だったが、俺自ら、規定違反のお前に引導を渡すことになるとはな。本部長も何を考えているのか分からないが、規則すら守れないお前が他人を守ることなんて出来やしない。今からでも遅くはない。入隊試験の辞退を勧める」


 遼とは違って完全に嫌みしか込められていない言葉に玲奈は少し眉をハの字にする。静かに聞いていた2人も玲奈の表情を見て不安がる……しかし。


「……ふ、あはははは!!」


 玲奈が突如笑い出す。あまりの出来事に見ていた3人は完全に壊れたと思っていた。存分に笑い終えた玲奈が笑い涙を拭き取って仁を見つめた。


「上等じゃない! 逆に私があんたの高いプライドをへし折ってあげる! あんたが何者かは分からないけど、私はあんたを倒す!」


 玲奈は仁を指さし、仁は無表情で玲奈を見つめた。


「……本当に可哀想だな。容赦はしない。あとで負け惜しみするなよ」


「そっちこそ!!」


 仁は言いたいことを言い、玲奈達に背を向けて歩を進め始めた。


「……なんなのあいつ!!」


 玲奈は未だに怒りが収まらないのか、歯ぎしりして仁の背中を睨みつけていた。怒り狂っている玲奈に遼と詩織が声をかける。


「マジかよ玲奈」


「何が!?」


「あの人……AAAランクの最強ブレーダー桜井仁だよ」


「AAA? 最強ブレーダー? あいつが?」


 詩織はスカートのポケットに入れていた情報端末を操作して玲奈に見せた。画面に映しだされたのは、ホープ内の活躍ニュースだった。


 記事の内容は……最強ブレーダー1位を防衛! 止まらない! 桜井仁!!


「最強ブレーダー……ねぇ」


「玲奈、お前は確かに強いが……」


「今回は相手が……」


 玲奈を心配するかのように声をかける遼と詩織だったが、玲奈は2人を睨みつけドスのきいた声を2人に投げつけた。


「だから……言ったでしょ? 余計な心配はするなって……」


 玲奈の言葉に完全に怖じ気づいた2人はそれ以上玲奈に声をかけなかった。玲奈は病室には入らず、別の場所に向かい始めた。


「あ、おい! 玲奈」


 気がついた遼が玲奈に声をかける。玲奈は2人に背を向けたまま頼み事をする。


「武器がサポートに追加されたら、あんたたちの自由時間を私に使わせて?」


「玲奈……」

「玲奈ちゃん……」


「それまでに調子を戻しておくから」


 リハビリ施設に向かう玲奈を遼と詩織は止めることは出来なかった。



~おまけ~


仁「もう入隊した気か? 水澤玲奈」


玲奈「あんたは…………誰だっけ?」


遼・詩織「ズコーッ!!」


仁は軽くため息をつく。


仁「すみません、カットで」


作者「うい」


仁はツカツカと玲奈に歩み寄る。


玲奈(やばい……怒られる)


仁「今はここのシーンだ。もう少しで終わるから頑張れ」


玲奈「あ、はい」(役に似合わず優しい人……)


仁(やった! ……自然と話せた)


作者(なんだ? この2人)

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