第13話武器装備説明2
中・遠距離の武器を表示するため穂香は再びパソコンを操り、武器の立体映像を更新した。
「中・遠距離武器は基本となる銃が大きく3種類あって、近接有利の銃。中距離から射撃する銃。遠距離から狙撃する銃があるわ。それぞれ自分が使いやすくすることが出来るカスタマイズも可能だから人によって銃の性能も変わってくるよ」
映し出された3種類の銃に言葉で補足し、玲奈たちに説明を始めた。
「まず近接有利の銃はこれ」
映像がある1つの武器を映し出して拡大表示される。中距離武器に興味があるのか、玲奈より遼の方が映像の近くで説明を受けた。
「近距離向きの機銃『バスター』。この銃は銃身が短く設計されているから激しい動きの中でも、片手で引き金を引くことが出来るから近距離武器と併せて使うのならこの武器がオススメね。威力もあって連射も出来るからブレーダー役の人たちからは人気ね。ただし、無理矢理近距離対応にしてしまったから反動も大きく、弾がブレて飛んでいくこともあるわ。あまり距離が離れすぎると他の銃よりも飛距離がないから、そこにも注意ね」
「近距離ならハンドガン型の方が使いやすいけど、穂香さん的にはこっちの方がオススメなの?」
玲奈が以前自分が使っていた訓練用の武器を思い出して質問をした。穂香は「あ~」と気の抜けた言葉を漏らして返事をした。
「ハンドガン型の『キル』も近距離で戦う人にとっては使いやすいかもだけど、連射できないし、飛距離もないから空中で使う場合は、今説明した『バスター』の方がオススメだね。ハンドガン型は丸腰になったときの保険武器だからメインとして使っている人はいないね」
ハンドガン型の立体映像も映し出されるが、穂香の評価は良くなかった。学校の訓練中に愛用していた武器が、あまり評価がよくなかったことに玲奈は少し落ち込んでしまった。
落ち込んでいる玲奈を余所に、遼が新たに質問をした。
「銃の説明前に聞くべきだったかもしれないのですが、銃弾は使用者の霊力ですか?」
「そうだね。ホープの銃全ては霊力の力を使って弾に変換するように造られているから弾詰まりもないし、火薬を使っているわけでもないから部品が熱を持つこともない。ただし、銃が弾切れで撃てなくなるって事は、自分の霊力量が5分の1になったって事だからその場合は速やかに戦線から離脱してね。霊力が無い状態だと無形武器も使えないし、酷い場合は飛ぶことも出来ないから気をつけてね」
「あの~、さっきから気になったけど、霊力って何なの?」
玲奈が少し前から聞きたかった言葉を穂香に聞いた。「説明していなかったね」と穂香は頭を掻きながら苦笑いして、霊力の説明を始めた。
「霊力は人の心の中に必ずあるもの……肉眼や顕微鏡を用いてもみることは出来ず、力の詳細も明らかになっていない。分かっていることは、私たちが敵と見なしているゴーストには有効的な攻撃方法」
「ゴーストに有効的な攻撃方法?」
理解できないことが多いのか、玲奈は再び首を傾げた。
「ゴースト自体が霊力の塊。霊力を削れるのは霊力だけ。これはホープが世間に認められる前からの発見。他の軍事機関には極秘の内容」
「そんなこと私たちに話して良いんですか?」
不安そうな顔で詩織が穂香に尋ねる。穂香はニッコリと笑みを浮かべて答えを述べた。
「大丈夫。ゴーストに霊力が効くって知っていても、それを活用した技術は彼らにはないからね。武器に霊力を纏わせる、霊力を放つなんて技術は
「それで、ゴーストと同じ性質を持つ力がどうして有効手段なんですか?」
玲奈が無理矢理話を戻す。
「ごめんごめん。話がそれてしまったね。これも今の研究段階じゃ分からないんだけど、有効だって事は保証するよ。今まで霊力の力を使ってホープはこの世界を守ってきたんだから」
謎が多く、ナノマシンの研究をしている穂香ですら理解できていないことが多い霊力だが、間違いなく人類の希望ともいえる力であることには間違いなかった。
「霊力が多い人ならやっぱり隊員として向いているんですよね?」
質問が止まらない3人に少し面倒くさくなったのか、穂香の顔から笑顔が消えていて1つため息をついた。
「そうだね。後で3人の霊力量測ってあげるから、そろそろ武器の紹介に戻ってもいい? 気がついたけど結構時間経っているからテンポ上げていくよ」
『あ、すみません』
3人は声を合わせて穂香に軽く頭を下げた。穂香は紹介する武器を立体映像に映し出した。
「次の武器は中距離で戦う人の銃ね」
映し出された武器は前の近距離向きの銃よりも銃身がやや長く、スコープも付いていて、銃口が上下で1つずつ付いていた。
「中距離型の武器『キャノン』。上の銃口は『バスター』と同じで連射することが出来るけど飛距離も安定性もこちらの方が上。そしてグリップに付いているボタンを押すと下の銃口で威力重視のチャージ弾が打てるよ。広範囲を攻撃する場合はチャージ弾を使うと便利だけど、連射も出来なくなって射程範囲も落ちるから注意してね。援護に徹してもよし。自分から起点になってもよし。自由度があって戦場では非常に活躍することがある武器だよ。ただし、近距離の銃と比べて銃身が長くなっているから距離を詰められると使いづらくなるし、チャージ弾をチャージしている最中は隙があるから気をつけてね」
「チャージ弾も霊力で撃つの?」
玲奈が間髪入れずに質問する。テンポよく進めたかった穂香は、説明しないわけにもいかず、答えを返す。
「さっきも説明したとおり、銃弾は霊力を変換したものであって、チャージ弾も霊力から造られるよ。普通の銃弾と比べて霊力を多く消費するから乱用はしないようにね……まあ、霊力の使い方は正規入隊してから詳しく説明してもらえるから今回は省略させてもらうわ。通常弾しか使わないから複雑な霊力の使い方はしないから、今は気にしないで」
多少早口気味に穂香は返答を済ませて次の銃の説明に入ろうとしていた。立体映像が変わり、次の銃が映し出される。
「最後に遠距離型の銃『ホーク』の説明ね」
最後の銃は前2つの銃と比べて銃身がとても長く『バスター』と比べると1メートル近く長かった。
「『ホーク』は前の2つと違って1発、1点集中型だと思ってくれた方が良いね。連射は出来ないけど威力は他2つとは比べものにならないくらいあって、射程範囲は人によって変わるけど平均で250メートル程。スコープもバトルサポートの狙撃システムと連動することによってより精度の高い射撃が出来るよ。弾速は速いけど、風や障害物によって狙いがズレることもあるから、そこは経験値を積んで感覚をつかんでね。あと当たり前だけど銃身が長いから近接は不向き。相手に見つかってしまったら不利になるから、できるだけ見つかりにくくて射線が通りやすいところで使うことをオススメするわ」
遠距離型の武器『ホーク』の説明を聞き、立体映像を細目で見ていた詩織が口を開ける。
「この遠距離型の武器は発砲音を消すサプレッサーの着脱は出来るんですか?」
「サプレッサーは付けることが出来るけど、銃弾の威力が落ちるから一撃で仕留められるところを仕留められないこともあるし、数発撃って狙撃ポイントを変えるのが遠距離の基本だからサプレッサーを使うときは奇襲するときだけだと思ってくれた方が良いね」
遠距離狙撃経験者ならではの質問に穂香は冷静に返答する。「なるほど」と納得した表情で詩織は口を閉じ、メモ帳にペンを走らせて記録した。
「質問があれば聞くけど……って思ったけどあなたたち、紹介した武器ごとに質問してきて! 質問は一気に受け付けるって言ったのに!」
穂香は頬を膨らませて3人に怒りの言葉を放った。3人は穂香の本気の怒り具合を知っているため、冗談だと分かっているが、口を合わせて『ごめんなさい』と素直に謝罪した。
「でも、どの武器も魅力があって試してみたいなぁ~って思ったのが率直な感想です。穂香さんありがとうございます」
引き続き頬を膨らませている穂香に、玲奈は感謝の言葉を送った。その素直な言葉に穂香は満足したのか、いつものニッコリ顔に戻った。
「お礼なら優一くんに言いなさい。私は仕事をしたまでだから。それと武器の紹介は終わったけどあなたたち3人の霊力測定をさせて貰うよ」
「あ、私たちもですか?」
詩織が気の抜けた言葉で返事をする。
「当たり前でしょ? 今から玲奈ちゃんの測定はしなくちゃならないし、2人とも武器をバトルサポートに登録していないって事は、公式でまだ測定してないんでしょ? ついでだから測定してあげるよ」
「つ……ついで、ですか」
遼が少しガッカリした表情を浮かべるが、2人は穂香の言葉に甘えることにした。
「じゃあ、準備と説明するから待っててね」
穂香は言葉を残してデスクの引き出しを漁り始め、埃が舞い上がりながら、ある機材をパソコンに接続した。
「長いこと私の霊力測定機を使ってなかったから埃かぶっちゃってた……」
埃まみれの機材は一見、赤外線で温度を確かめる計器のような形だった。
「うん、接続にも問題ないし、ちゃんと動くね。じゃあ、軽く説明しようか。この機材から放たれる赤外線が霊力ある物に付着した場合、パソコンに霊力量が表示されるよ」
軽快な口調で説明を始める穂香だが、玲奈たちは未だにその機材が霊力の測定機だと信じていなかった。なぜなら……。
(いやいやいや! それは温度計でしょ! それで霊力量が分かるわけがない!!)
3人は思いは重なっていた。
「ん? 何か言いたいことでもある?」
3人の表情から察した穂香は問い詰める。
「いや……大丈夫です。続けてください」
詩織がとっさにフォローし、説明を促した。
「まあいいや。とにかく、この機材であなた達の霊力を測らせて貰うよ。100霊力以上の数値が出れば平均以上で、銃弾換算すると5千発近くは撃てるよ。100霊力以下だと霊力切れも起きやすくなるし、無形武器での戦闘は不利になるから、そこのところ理解してね。それじゃあ、正規隊員から行ってみようか」
穂香は遼と詩織を指さして機材を向ける。遼と詩織は目を合わせてどちらが前に測定するかを相談していた。
「じゃ、俺からお願いします」
遼が一歩前に出て測定を希望した。
「よしきた~」
機材から放たれる赤外線は心臓付近に付着し、測定を開始した。数十秒ほどで赤外線は消え、穂香はパソコンの画面を確認して玲奈達に見せた。
「霊力量150~250。コンディションが悪ければ150霊力程だけど、良い場合は250霊力近くの高出力でも、霊力切れにはならないよ。霊力多いね~遼くん。これならチャージ弾でも100発近くは撃てるよ」
遼は自分の結果を聞いて少しホッとし、表情を和らげた。
「ちなみに過去一番多い人でどれほどなんですか?」
玲奈が興味本位で穂香に聞くが、穂香は少し表情を曇らせて言葉を返した。
「聞いて後悔しないって言うのであれば言うよ?」
3人は即決で首を縦に振る。穂香は1つため息をついて過去最大の霊力量を発表した。
「現役隊員じゃないけど、最大で1,000霊力の人がいたよ」
『い、1,000!?』
玲奈たちが声を合わせて驚く。穂香は驚く玲奈達を余所に話を続ける。
「今の現役隊員の中だったら、800の人がいたかな?」
「それでも俺の4倍近くあるのか……」
「でも霊力量は精神状態によって増量することもあるから、常に最高値が変動するものだと思って」
遼は自分の霊力量が多いのか少ないのか分からなくなり、落ち込み始めた。
「だから後悔しないって聞いたのに……全く、霊力量程度で隊員評価が決まるわけじゃないんだから元気出してよ。それとも一発気合い入れようか?」
穂香は遼の尻めがけてキックを繰り出そうとしたがトラウマが蘇り、遼は全力で断った。
「まあ、気落ちしないでね。それじゃあ、しおリン行ってみよ~」
「しおリン……」
呼ばれたことのないあだ名に玲奈と遼は思わず吹き出してしまった。少し不機嫌になる詩織だが、心なしか遼よりも霊力量の測定に時間がかかっていた。
「出たよ~おめでとう! 遼くん越えの420~500だよ!」
「ご! 500! なんで詩織の方が多いんだよ! その測定機壊れてるんじゃないのか!?」
「失礼ね! この測定機は埃こそかぶってるけど壊れてないよ! そんなに不服なら他の測定機で測り直せば良いじゃない!」
穂香と遼が軽く口論を始めたが、高い霊力量を叩き出した詩織は完全に固まっていた。
「わ……私、霊力そんなに多いの?」
「おめでとう、詩織。やっぱり私の目に狂いは無かったよ」
言い争っている2人を尻目に、玲奈は詩織の肩にポンポンと手を置いた。
「500越えはAAランクの人でもいるか、いないかのレベルよ。それだけ霊力があればどんな無茶な霊力の使い方をしても無くなることはないよ。後は自信をもって経験を積めば出世間違いなしね」
穂香が言い争いの最中、詩織の霊力量を評価した。未だ結果に納得していないのか遼は騒ぎ続け、詩織は固まったままだった。玲奈は深くため息をついて、大きく息を吸い込んだ。
「しっかりしてっ!! 2人とも!!」
玲奈の言葉に2人は正気を取り戻し、遼は詩織に頭を下げた。
「す、すまない詩織。俺、自分のことだけしか考えてなくて……傷つけてしまったよな?」
「ううん。私の方こそ呆けてしまってごめんなさい。遼くんが感情的になるのも無理ないよね。私も多く霊力を持ってるから持ち腐れにならないように頑張るから遼くんもがんばろう?」
「ああ、そうだな。騒いでいても仕方ないからな……穂香さん騒いでしまってすみません」
「いいよ、そういうのは慣れてるから気にしないで。しかし、久しぶりに500の霊力量を目の当たりにしたね~。研究者冥利に尽きるよ」
「あの~、治まったところ悪いんだけど、私の測定を~」
大声を出してから半分空気になりかけていた玲奈が3人に声をかけた。
「あ、そうだったね! お待たせしたね。お待ちかねの玲奈ちゃんの霊力測定に入るね」
玲奈に測定機の赤外線が当てられる。待ちに待った霊力量の数値化の結果に、玲奈たち3人は胸を躍らせて結果を待った。しかし、今まですんなりと数値が出ていたのだったが、なかなか結果が出ず穂香も首を傾げていた。
「え?」
穂香が映し出された結果に思わず声を漏らしてしまった。
~おまけ~
玲奈(ねえ! 本当にあれで測れると思う?)
遼(俺が知るわけねーだろ!)
詩織(見た目完全に体温測る機械だけどね……)
穂香「じゃあ、遼くんから測ってみよう!」
ピピッ!
穂香「36・7℃……」
3人「……」
穂香「ごめん、体温計だった。測定機これだった」
3人「ズコーッ!!」
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