第12話武器装備説明1
穂香は数多くある武器の中で1番スタンダードな武器の数種類を玲奈達に説明し始めた。
「まずはブレーダーが専門的に使う近接武器を数種類紹介するよ」
立体映像で表示されている武器の中からある一本の刀を表示させた。
「最初に紹介するのはホープ隊員の中でも1番使われている近接武器、太刀系。形的には日本刀をモチーフにしていて、人によって刃の長さや幅を変えることが出来る系統。刃も持ち手もしっかりしていて折れる心配があまりない刀。扱い勝手もよく、近接武器の中で居合い抜刀も出来るから鞘に収めていても、素早く攻撃することが可能。欠点をあげるとすれば、バトルサポートの武器収納システム適応外だから常に持ち歩かないといけないから置き忘れには注意ね」
「忘れ物が多い玲奈にはあまり向かないな」
説明を聞いていた遼が笑いながら冷やかす。しかし、遼の声は玲奈に届いていなかったのか、立体映像に表示されている太刀系のサンプルを玲奈は凝視していた。
「無視するなよ……」
無視された遼は少し凹みそうになったが、真剣に検討している玲奈の目を見てそれ以上冷やかすのを控えた。
「一通り説明していくから、質問は後回しにしてね」
穂香は再びパソコンを操作し、新たな武器を表示した。映し出された武器は針のように細い刃だが、太刀系と比べるととても長く見える武器だった。
「次はレピア系ね。レピアは突きに特化した近接武器。他の近接武器に比べて刃自体が非常に細いから折れる可能性は一番高いわ。だけどリーチがあるから他の武器よりも攻撃範囲が多少広く、重さもあまりないから連続で攻撃することが出来るよ。収納システムが付いているから置き忘れもないし、サポート起動時に手に持つことも出来るよ。ただし、レピア系は基本突き攻撃のみ。カスタマイズすることで突き以外の攻撃も出来るようになるけど、威力も攻撃スピードも落ちるから使い手を選ぶところもあるわ。1点のみを素早く攻撃するには適性があるけどそれ以外ではあまり良い評価をつけられないわ」
「急所突き特化の武器……」
詩織がポツリと言葉をこぼしたのを、穂香は見逃すまいと返答した。
「2人は講義で習った? バトルサポートを持つ人間相手で狙うべき場所は玲奈ちゃん知ってる?」
質問を振られた玲奈は焦ることはしなかったが、答えることは出来なかった。10秒ほど考えたが唯一出た答えは。
「頭?」
「正解! だけどあと2つ狙うべき場所があるんだ」
「心臓と首だな」
遼が静かに答える。穂香は「流石」と言いたげな表情で話を進めた。
「バトルサポート中に腕や足を切断されて失っても、サポートを解除することによって、体が何事もなかったかのように元に戻るの。だけど、脳、心臓が潰れると問答無用で……死ぬ」
説明を想像しただけで3人は寒気を感じ、鳥肌が立った。
「首も同様。頭と胴体がおさらばしたら復元対応外。サポートが体を復元できる条件は、脳と心臓が無事。致死量に達していない出血量であることのみ。サポート中でも怪我して流れ出る血は、自分自身の中に流れている本物の血。死んでしまっては復元のしようがないからね」
「つまり、死なない程度の怪我なら復元してくれる?」
玲奈が不安げに穂香を見つめる。そんな不安そうな視線を跳ね返すように穂香は優しく微笑んだ。
「大正解! 玲奈ちゃん! 簡単な話、生きていれば問題なし! そんなに不安がらなくても良いよ。バトルサポートには戦闘不能だと判断すれば自動的に戦場から離脱させてくれるし、実際に説明した内容で死んだ人は2人だけだよ」
しかし3人は穂香の説明で改めて、ホープの任務は命がけだと思い知らされた。バトルサポートの欠点を知った玲奈は驚いた表情が、すぐに変わった。
「ぷ……あはははは!!」
いきなり笑い出す玲奈に遼と詩織は少し戸惑う。穂香は笑っている玲奈を細目で見続ける。
「今更だね。他人を守るのに自分の保身を心配する人なんてホープには必要ないよ。ホープ隊員になれない人、なれなかった人の盾になって命張ってでも守るのが使命。私は初めから覚悟しているよ」
玲奈の真剣な眼差しが穂香に向けられる。玲奈の心の中で、何かが固まり始めていた。それを悟った穂香は1つため息をついて、遼と詩織に目を向ける。
「全く……大した入隊希望者だこと。あなたたちが惹かれる理由がなんとなく分かるよ」
玲奈を褒められて嬉しかったのか、遼と詩織は顔を合わせてニヤついた。しかし穂香からさらなる宣告を告げられる。
「だけどね、玲奈ちゃん。あなたのナノマシンには離脱機能が搭載されてないの」
遼と詩織の表情が一変する。
「どういうことだよ? バトルサポートには離脱機能が付いているんだろ? なんで玲奈のだけ付いてないんだ?」
少々怒り混じりの声で穂香に詰め寄る遼だが、玲奈が腕を横に広げて詰め寄らせなかった。
「あら? お友達は知らないんだっけ。確かに通常のナノマシンに追加されるバトルサポートには離脱機能は搭載されるけど、玲奈のナノマシンは世界で1つしかない特別なナノマシン、アルカディア……私が開発した第3世代の新型ナノマシン。戦闘に特化したナノマシンだから離脱機能を搭載するのは当たり前だったけど、最新プログラムを組み込んだ事によって、離脱機能を搭載していても作動しないの。このことについて玲奈ちゃんに説明しなかったのは悪かったと思ってる。でも……以前説明したとおり、アルカディアは人を選ぶナノマシン。選ばれたあなた以外の人間では完全な起動することは不可能だったの。いつ目が覚めるか分からなかったあなたは奇跡的に目を覚まして今に至る。奇跡、運命の出会いとしか私には表現できなかった。生き返ったあなたに、私の人生全てを賭けてみたかったの……許してとは言わない。本当にごめんなさい」
少し声を震わせながら穂香は玲奈に謝罪も込めて説明した。玲奈は穂香の話を遮ることなく沈黙を守り、スッと瞼を閉じ、ようやく口を開ける。
「何で謝るんですか? 私は穂香さんに頭が上がらないなぁって思っていますよ」
玲奈の言葉に穂香は「え?」と言葉を漏らし、小さな瞳を見開いた。
「穂香さんの人生を賭けたナノマシンを貰っておいて、試験不合格で入隊できませんでしたってなったら完全に私の実力不足。期待は裏切りません……穂香さんの創ったナノマシンが……魂が最強で最高であることを私が立証させてみせます。あまり暗い話は好きじゃないんでここまでにしましょう。遼も詩織も私が戦場から離脱する前提で心配していたのなら私……怒るよ。心配することは良いことだけど、私に勝てないような奴に心配されたくないね」
玲奈の一言は遼と詩織の首筋に刃物を当てるかのような緊張感があり、2人は玲奈の本気度を身に染みて実感させられた。
「……ごめん、少しキツすぎた。悪く思わないで」
「いや……野暮なことをしてしまったな、詩織」
「そうだね。私たちもそろそろ心配性を治さないとね。玲奈ちゃんごめん。でもそういうことは隠さないでちゃんと言ってほしいな」
「分かった。今度からは隠し事はなし。だから改めて私を信じて付いてきてくれる?」
「おう!」
「うん!」
遼は嬉しそうに微笑み、詩織は目にうっすらと浮かべていた涙を人差し指で拭った。玲奈もニッコリと笑って呆気にとらわれている穂香に視線を戻した。
「バトルサポートの弱点は分かりました。穂香さん、武器の紹介を続けてもらえますか?」
「……私の思いを真正面から受け止めてくれたのは久しぶりだよ。不合格になったら覚悟してね。私の実験体になって貰うからね」
玲奈は穂香の目を真っ直ぐ見つめニッコリと笑った。その笑顔は余裕の現れなのかは分からないが、少なくとも玲奈に心配は野暮なことだと、穂香たちは肝に銘じさせた。
気を取り直して穂香は再び武器の紹介に話を戻した。
「じゃあ、近接武器の最後の紹介」
立体映像に武器が映し出される。玲奈たちの目に映り込んだのは両刃の剣。
「これは両刃系の剣。太刀系と違って、
最後の近接武器、両刃系の剣の紹介が終わって玲奈たちに質問タイムを設けた。そして待っていましたといわんばかりに玲奈はすぐに質問を投げた。
「3種類の系統の武器を紹介して貰いましたけど、私は訓練用のサポートの時、違うのを使っていたんですけど……」
「ん? 違うの?」
「なんて説明すれば良いか分からないですけど、自分の腕ならどこからでも剣を出せる……」
やや説明が足りない玲奈の言葉にピンときた穂香は答えを教えた。
「ああ! 無形武器のことか」
納得した表情で穂香は玲奈の求めていた剣の画像を映し出した。映し出された剣は形が安定しておらず、玲奈の言う通り、腕のありとあらゆる場所から刃を出していた。
「無形武器シリーズ。自分の体にある霊力を剣や弾に変換させる機能なの。近接での利点は他の武器と違って振りかぶることなく攻撃が出来て、物を持っていないって思うほどの軽量感だから斬るスピードも他と比べものにならない。ただし、霊力で生成されているわけだから霊力の質、量によって脆さが出てしまうから、相手の攻撃を受け止めるのには向かない攻撃的な武器。中・遠距離では銃を構えることなく、サポートの照準機能とロックオン機能だけで発砲することが出来るよ。ただし銃を介していない分、弾速と威力、攻撃範囲の精度は落ちてしまうけどね。霊力を直接武器に変える戦い方は相手の意表を突くことでよく使われているよ。もちろん、剣や銃を使わずに無形武器だけで戦っている人もいるけどね。熟練された腕じゃないと、実質戦場で丸裸でいるわけだけどね」
「無形武器シリーズ……私、訓練サポートの時から剣だけは無形武器が一番使いやすかったです」
「そうなの? でも訓練のインクを使う無形武器とは違って、自分の霊力に比例して武器の力が変わってくるから霊力量が少ないと、ちゃんとした刃を生成することも出来ないかもしれないよ」
穂香が無形武器を使う上での注意を話した。玲奈は自分の顎に手を当てて考え事を始めた。
「まあ、最終的に決めるのは玲奈ちゃんだし、まだ中・遠距離の武器を紹介していないから何を使うかは最後に決めましょう。どうしても無形武器を使ってみたいと思うなら、後で霊力量を計る検査してみる?」
玲奈は軽く頷き、武器が映し出される画面に再び目を向けた。
「じゃあ、次は中・遠距離武器の紹介に移るね」
~おまけ~
遼「忘れ物が多い玲奈には向かないな」
玲奈「何よ? 私は忘れ物したことないんだけど?」
遼「何言ってんだよ」
遼は呆れ顔を浮かべて、玲奈の恥ずかしい過去を赤裸々に話す。
遼「時間割間違えて、受けなきゃいけない授業の教科書全て忘れる」
玲奈「ギクッ!」
遼「弁当忘れて、俺と詩織の弁当からおかずを持ってったり」
玲奈「ギクッ! ギクッ!」
遼「下着着けたまま水着着てプールの授業受けたり」
玲奈「もうやめて!! 穴があったら入りたい……」
詩織(玲奈ちゃん可愛い~)
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