第3話運命の宣告

 優一は玲奈たちと出会った現場から離れ、ホープの本部に向かって翼を羽ばたかせていた。


『優一! いつまで待たせる気だ! さっさと来い!』


 優一の無線に怒鳴り声が入ってくる。耳を抑えても聞こえる無線であるにも関わらず、ユウイチは耳を抑えた。


「うるせーな。現場から飛んでいるんだ。もう少し待てよ」


 怒りの無線を送ってきた相手に返事を返すと同時に、優一は翼を強く羽ばたかせ、翼が雲を引くほど加速した。



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「あー、面倒くせーなー」


 優一は思わず本部長室前で心の底から思っていることを口に出してしまった。


 本部長室前の扉に立ち、指紋認証のタッチパネルに指をかざして部屋のロックを解除し、要件を述べるために取り付けられたマイクに自分の名前を述べた。すると小型スピーカーから『入りなさい』と女性の声が聞こえて、自動的に扉が開く。

 

 扉を抜けると、部屋の中は薄暗く、本部長のデスクとお客様用のソファーしか置かれていない寂しい部屋。その本部長のデスクに向かって、優一が招集した7人が横一列に並んでいた。


「遅くなってすみません」


「遅い! 優一! 俺たちを呼んでおいて30分くらい待たされたぞ!」


 部屋に入って間髪入れずに怒鳴ったのは真っ赤な服に身を包み、真っ赤な髪色の男だった。


 彼の名前は室井宏大むろいこうだい。身長は170㎝ほどで、今は怒鳴っているが、性格上裏表ない真っ直ぐで純粋な心を持っている24歳の男性。


 彼に対して優一は冷たい口調で話すが、絶対的信頼を置いている相棒として認めており、優一小隊に所属している隊員でもある。


「うるさい、宏大。お前はもう少し我慢ってものを覚えた方がいいぞ」


 優一は頭をガリガリと掻きながら、7人の横に並ぶように足を運んだ。そして、優一たちに背を向けて、窓の外を見ている女性に声をかけた。


「お待たせしました。霧峰本部長。レジェンドランク全員揃いました」


 すると女性は溜息を一つついて優一たちの顔を見るため振り返った。

 

 無表情で冷徹さを感じる顔つき。何が気に入らないのか、常に腕を組んでいる彼女こそがホープのトップに立つ人物、霧峰暁美きりみねあけみだ。


「ご苦労様、みんな。今日ここに来てもらったのは分かるかしら?」


 暁美は優一の顔をチラッと見て他の7人に聞いた。宏大は腕を組んでそんなのは分かりきっている表情を浮かべた。


「本部長、今回の優一の行動は間違ってはいないと思うのですが…」


 一人の男が暁美の問いに答える。


 男の名前は白夜霊斗びゃくやれいと。清楚な印象を与える黒い髪に高身長。イケている顔だが感情を表には出さないポーカーフェイス。


 彼もまた優一や宏大と同い年で、優一小隊の隊員。


「劫火小隊からの報告を見た。優一のお陰で被害者もなく、迅速に事が済んだ」


「では、なぜ自分たちを呼んだのですか?」


 霊斗は暁美に疑問をぶつける。


「優一がバトルサポートを起動。そして派手に一般人の目の前で戦闘を始めた」


「それのどこに問題が?」


 霊斗はあっさりとした口調で言葉を返す。暁美は鋭い目つきで優一を見つめ、口を開けた。


「一連の行動が全て問題だ。優一は自分の立場が分かっているのかな?」


 優一は暁美に指差しされる。


「君たち8人はレジェンドランクと言う特殊なランクの持ち主だ。Cランクは訓練生。Bランクは正隊員。Aランクは上級隊員。AA《ダブルエー》ランクは超上級隊員。最高ランクのAAA《トリプルエー》ランクは超エース隊員。君たち8人はその上に君臨する隊員。規則で本来、表に出ることは厳禁。バトルサポートもよっぽど危険な状況で無い限り、起動も禁止。軽はずみな行動は慎んでほしいと過去何度も言ったはずだ。なのに何故人の言うことを理解できない? 優一」


 優一は暁美の説教を聞いて明後日の方向を見て無視した。暁美は軽く咳をついて鋭い目つきで優一を見つめた。


「分かった。もうお前を匿えない。明日の午後6時を持って、レジェンドランク大丈優一のランクをAAAに降格する。文句ないな?」


 暁美は机を思いっきり叩いて優一にランクの降格を告げた。優一のランクが降格するということは、優一の隊を解体する意味も込められていた。


「優一小隊、文句ないな?」


 宏大も霊斗も顔では納得した顔をしていないが言葉を吐くことはできなかった。しかし、暁美の言葉に異議ありと言う人物が2人いた。


「本部長、自分は納得できません。本部長の言っていることは少し理解し難いです」


 反抗したのは優一小隊に所属する男、鷹森紅志たかもりあかしだった。天然癖っ毛の茶色の髪が印象的で目が細く、やる気のなさそうな顔をしている男だ。身長は長身で180㎝越え。彼もまた優一たちと同い年。


 よっぽど納得いかないのか、自己主張をあまりしない紅志が我を通そうとしている光景は珍しかった。


「私も納得しません。解体よりも、レジェンドランクの規則にも納得していません」


 暁美に反抗したのは小柄な女性だった。


 優一小隊ともう一つ、レジェンドランクに認定された小隊が存在し、その小隊の隊長を務めているのが彼女、伊澄真里いずみまりだ。容姿はナイスバディとは言えないが、顔立ちは優しい顔をしており、艶がありクセのないショートカットの黒髪が印象的な24歳の女性だ。身長は24の女の子にしては小さめの150㎝程。


 優しそうな印象である彼女が、目を細めて暁美を睨みつけていた。


「ホープは人々の安全を保障し、守り抜くことを誓った組織のはずです。なぜ私たちは戦場に出てはいけないのですか?」


「鷹森隊員。伊澄隊長。あなたたち2人はレジェンドランクの意味を知っていて反論しているのかしら?」


 暁美は2人の反論を冷静に返す。


「あなたたち全員は世界を壊すかもしれないと判断された重要危険人物。いつ殺されてもおかしくない存在。その存在を世間から隠すためにホープの伝説として守っているのよ?」


 危険人物とは世界の環境、または他人に危害を加える可能性がある人物がホープ本部長、又はホープの幹部クラスに断定され、監視下に置かれる人物のことである。


 第1種から第4種まであるらしいが、その基準は優一たちも知らない曖昧な基準となっている。暁美の言う通り、優一たちレジェンドランク全員は第1種以上の危険人物と断定されていた。紅志と真里は歯ぎしりをして、何も言えなかった。


「……分かりました。これからはレジェンドランクを名乗ることはしません。他の人にも迷惑をかけないことを約束しましょう」


 優一はポケットに手を突っ込んでランクの降格を了承した。他の7人は横目で優一を見て、小さな声で優一の名前を呼んでいた。


「その代わり、降格を受け入れる代わりに、俺を別の部隊に所属させていただきたい」


『は?』


 暁美を含め、その場にいた全員が口を開けて驚いていた。そんな中、優一は軽く微笑んで暁美を見つめた。


「優一! お前何を言っているんだよ!」


 宏大は額に血管を浮き出させてブチキレていた。紅志や霊斗も言っている意味がわからないと言わんばかりの表情を浮かべていた。


「わかった……」


 暁美が静かに優一の要求に応じる。


「本部長……」


 キレていた宏大は暁美に対して何も言えず、情けない声を出していた。


「ありがとうございます。入隊する部隊はこちらで決めさせてもらいます」


「いや、こちらが決める。お前は降格しても実力者だ。AAAランクに……」


「そんな部隊には全く入る気はないので」


 その場の雰囲気は一気にどよめき出した。優一はその場の空気をメチャクチャにして部屋から退室した。



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 本部長室を後にして優一は煙草を吸うため喫煙所に向かっていた。


(ふぅ。なんか肩の荷が下りた気がするな〜)


 煙草を吸う前に自販機に立ち寄ろうとすると、進路を塞ぐかのようにある人物たちが待ち構えていた。


「あれ? 追っかけてきたの? 伊澄さん」


 そこにいたのは伊澄小隊の4人だった。


「優一くん。話があるのだけど……」


 優一は真里たちの背後にある自販機を指差して微笑んだ。


「まあ、話の前に何が飲みたい?」


 真里たち全員が飲み物を要求してこなかったが優一は問答無用でお金を入れて、人数分のコーヒーを買ってそれぞれに投げた。


「密室の方がいいでしょ? 煙草吸いたいし喫煙室に来てくれるかな?」


 優一は真里たちの返事を聞かずに喫煙室に足を運んでいった。真里たちは仕方なく同じ喫煙室に入る。


「……で、話って何?」


 優一は煙草を吸いながら真里たちを横目で見つめた。


「優一くん……なんであんなことを?」


 真里は困った顔をして優一を見つめた。優一は横目で真里を見て、再び煙草を吸った。


「仕方ないんじゃない? 今回ばかりは暁美も俺を切り捨てるつもりだったよ。確かに軽はずみだったとは思う。だけど後悔は全くないよ」


 すると真里は泣き出しそうな顔をして視線を下に逸らした。


「大丈! あんたもう少し考えて話せ!」


 優一に暴言に近い言葉を放つ女性は西原抄にしはらしょう。彼女は真里よりも頭1つ分、身長が高く、胸の膨らみもあって、女の子を代表しても良いナイスな容姿だ。髪色は黒に染まっており、ボーイッシュな髪型。年齢は真里と同じ24歳。


「すまない。心配しているのに冷たいことを言ってしまって……」


 優一は自分が言った言葉を撤回しようとする。下を向いている真里は顔を上げずに首を横に振った。


 すると、抄の後ろにいた2人の女の子たちも前に出てきて口を開けた。


「優一さん。もう少し考えられないのですか? 今まで私たちを……自分の隊を引っ張ってくれたじゃないですか。なんで急に?」


「そうだよ。優一くんには今まで返しきれなほどの恩があるっていうのに……なんでこのタイミングで?」


 先に話してきたのは星空静佳ほしぞらしずか。身長、容姿は真里とほぼ変わらないが、髪の色と瞳の色は綺麗な茶色に染まっている。顔立ちは若干童顔に見え、歳は伊澄小隊の中で唯一の早生まれ23歳。


 そして、後から話してきたのは大空悠香おおぞらはるか。おしとやかな顔立ちだが、少しやる気のなさが感じられる。胸は若干膨らみがあり、腹部には全く無駄肉がないほど好体型だった。身長は長身で180㎝近い高身長。髪の色は金髪で、瞳は環境変化によって変色してしまい、鮮やかな赤色に染まっていた。


 女子4人で構成されている伊澄隊が、必死に優一を引きとめようとしていた。


「……引き止めは嬉しく思う。でも俺はもう戻らない。伊澄小隊は……レジェンドランクのみんなはこれからもホープ隊員の憧れの的であってくれ」


 優一がにっこりと笑うと抄と静佳と悠香は優一の名前を一斉に呼ぶ。


「みんなもういい! ……ごめんね優一くん。せっかく決心したのに引き止めたりして……」


『真里!』


「少しみんな黙って」


 真里の一言でその場は一瞬静まる。さっきまで涙目だった真里の目つきは、人を殺すような鋭い目つきに変わっていた。その目を見た3人は冷や汗を少し流し、口を開けることを控えた。


「でも、みんなが驚いてしまう行動を取るときは、優一くんには何か考えがあるんでしょ?」


 真里は明らかに強がっている笑みで優一を見た。優一は思わずフッと笑って答えた。


「俺のこの目でも何が正解で何が不正解かわからない。でも、確かに伊澄さんの言う通り、俺には考えがある。それが現実になって成功の道なのかは分からないけどね。……でも、俺は止まらない。誰が前に立っても止まらない」


「そう……なら優一くん。これだけは私たちレジェンドランクのみんなと約束してくれるかな?」


 真里は微笑んで優一の左手に握手した。


「いつか戻ってきてね」


 微笑んだ真里の顔を見て優一は右手に持っていた煙草を灰皿に捨て、真里の手を握った。


「ああ、約束する。いつの日か戻ってくる」


 固く握手をしている時に、突如喫煙所の扉が強く開いた。扉を開けたのは白衣を着た救助隊員だった。


「いた!! 優一さん! 大変です!」


「どうした? 息切らして?」


 優一は真里の手を放し、救助隊員の前に立った。


「搬送した3人のうち1人が……」


「何!? ……わかった今行く。伊澄小隊のみんな……ありがとう」


 優一は伊澄小隊に別れを告げて救助隊員の後を追った。



======



 優一を見送った伊澄小隊は、自分たちの小隊部屋に戻り、言葉をしばらく交わさなかった。長らく沈黙が続いたが、抄が沈黙を破り、真里に話しかけた。


「……いいの? 優一くんと一緒に戦えなくなるんだよ? 好きな人と長く一緒にいられないんだよ? 真里」


 真里は静かに顔を上げ、ニッコリと抄に向かって笑った。


「別に今生の別れなわけでもないし、会おうと思えばいつでも会えるし大丈夫だよ」


 次の瞬間、抄は真里の額を指で弾いた。


「痛ッ!! 何するの! 抄ちゃん!」


 額を抑えて真里は抄を片目で睨みつけた。


「我慢しすぎ。あんたはもう少しわがままになってもいいんだよ? ……伝えたいことは早めに伝えた方がいいよ。でないといずれ損するのは真里自身なんだから」


「……そんな勇気があればとっくに伝えているよ」


「はぁ……真里らしいね」


 抄は呆れながら真里の肩をポンポンと叩いた。すると真里は溜まっていたものが一気に出たのか、その場で大粒の涙を流した。



~おまけ~


優一待ち……


宏大「ったく、人を呼んでおいて一番遅いなんてどうかしてるぞ、あいつ」


真里「まあまあ、現場から飛んでいるんだし、もう少し待とうよ。あ、悠香ちゃんゲームしたらダメだよ」


悠香は携帯ゲームから目を離すことなく、真里に言葉を返す。


悠香「えー、今ボス戦なんだけど」


その時、プレイしていたゲームのボスが何者かによって倒される。


悠香「え? は? 意味が分からない」


紅志「……あんなボス、瞬殺だよ」


悠香と同じような携帯ゲームを持っている紅志が、挑発的な笑みを浮かべる。


悠香「良い度胸じゃない。もっと難しいクエストにしてやる」


しかし、一瞬の出来事だった。

二人の手から携帯ゲームが消え、二人はゲームを探し始める。


真里「1回言ったらやめないと壊しちゃうよ」


真里が満面の笑みで、二人のゲーム機を握りつぶそうとしていた。

2人の顔は青くなり、その場で土下座する。


『言うこと聞くんで、壊さないでください!!』

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