第2話レジェンドランク

 玲奈、遼、詩織は優一の姿を見て、ホープ隊員だと改めて確信した。


「ところで君たちは何でゴーストから離れなかったんだ? 普通の人なら驚いて血相変えて逃げていくけど……」


 優一はバトルサポートを解除し、3人を見つめた。3人は冷や汗を一つ額から流し、唾を飲んだ。


(どうするんだよ、玲奈)


(どうするもこうするも言い訳のしようがないじゃない!)


(でも無許可でバトルサポートを起動して、訓練用の武器で戦いました……何て言ったら私たちの入隊内定取消しになるよ……)


 3人は優一に聞かれないように小声で話し合った。非常にまずい状況と悟った玲奈の顔には冷や汗が異常なまでに出ていた。


「……なるほど~君たち、なかなか面白い3人だね。安心してくれ。俺が良いように報告しておくから」


 玲奈たちは目を見開いて驚いた。小声で話していたはずなのに優一は話の内容を全部聞いていたかのようにニッコリと笑っていた。


 しかし詩織はあることに気づき、口を開ける。


「大丈……さんでしたっけ?」


「優一で良いよ。月影詩織さん」


 初対面である詩織の名前を知っていたことによって、詩織は思い切って優一に尋ねる。


「では優一さん。あなたはもしかして違法ナノマシンプログラムを追加していませんか?」


 詩織は他人のプライバシー、健康、精神的に支障をもたらす違法ナノマシンを使っているのではないかと疑っていた。しかし優一は「ハハハ」と軽く笑い否定した。


「さすがに違法ナノマシンを使っていたらホープに所属できないよ。俺の目の色は何色に見える?」


 3人は優一の目を見て即答した。


「「「紫色」」」


「そう。本来人間の瞳の色は黒か茶か青なんだけど、俺のこの紫色の瞳は生まれつきで特殊な能力を持っていてね……まあ、君たちがホープに所属した時に詳しく話すことにするよ」


 優一は笑いながら曖昧な答えをしたが、やはり詩織にとっては納得しない答えだったようだ。


「そう言って誤魔化しているんじゃないですか?」


「詩織……」


 いつも大人しいはずの詩織が珍しく強気になっているのを見て遼は思わず口を軽く開けていた。


「誤魔化してなんかいないよ」


 その時、ホープの白衣を着た救助隊が到着し、たちまちその場は騒がしくなった。


「救助隊現着しました! ゴーストの反応は完全消失を確認しました」


 救助隊の1人が無線のナノマシンでホープの本部に現状報告を行なっていた。


「あれ? 優一さん! 何であなたがここに?」


 無線で連絡を取り合っていた救助隊の1人が優一を見て近づいてくる。


「よう、お疲れ様」


「お疲れ様じゃないです。何であなたがここにいるんですか?」


「いやぁ~たまたま近くにいて暇だったし」


「暇だったしではないでしょう。また軽はずみな行動で厳罰を受けたいのですか?」


 白衣を着た隊員は厳しく優一を指差しながら注意した。


「第一、あと2分待てば警戒していた隊が到着していたはずです。あなたはもう少し自分の立場を考えてください!」


 すると優一は目つきを変えて隊員の胸ぐらを掴んだ。


「ふざけんな。俺はなりたくて、こんな立場になったんじゃない。それに他の隊を待っていたら犠牲者が出ていた。お前たちこそ上の命令に従ってないで、自分の意思で動いて行動しろ!」


 ホープの隊員は優一の気迫に完全に負け、それ以上何も言葉を発しなかった。優一は視線をそらした隊員を放し、思い出したかのようにニッコリ笑い1つ頼みごとをする。


「あ、あとこの3人を本部の医務で精密検査とナノマシンの調整を頼む」


「優一さん……」


 隊員は玲奈たちを見て、優一に尋ねる。


「まさか……ゴースト出現時のあれを……」


 優一は何も言わずにコクリと頷いた。すると救助隊の到着から遅れて30秒後にホープの隊員2人が到着した。


「劫火小隊到着。どうです? 被害の方は?」


「あ! 劫火小隊! お疲れ様です。被害の方は少なく、被害者も出ていないことが分かりました」


 優一に胸ぐらを掴まれていた救助隊員が敬礼しながら到着してきた3人に報告した。


「ただ、問題が……」


 救助隊員が目を優一の方にそらした瞬間、ある1人が飛び出すように優一に敬礼した。


「お疲れ様です! 師匠!」


「よ! 仁、今日は劫火小隊が警戒していたのか?」


 優一が手を挙げて、仁という少年に対して微笑んだ。


 少年の髪の色は黒く、ピョンとアホ毛が立っており、身長は170後半ですらっとした体格。動きやすいジャージ服は青一色に統一されていて、彼の左腰に黒の鞘に桜の花びらが描かれた太刀が携えられていた。


「優一さん、まーた命令も出てないのにサポート使ったんですか? 上層部に釘付けされてるんですよね?」


 優一に声をかけながら近づいてきたのは隊長であることを示すエンブレムを付けている男性だった。


 男の髪は染めているのか、環境変化によっての変色なのか、青色の髪で、男でありながら身長は160あるかないかという低身長。少年のように見えるが、声色からしてそこそこの年齢と感じ取られた。


 そして男は玲奈たちの存在に気づき、優一と玲奈たちを交互に見た。


「ああ、そいつらは今から搬送だ」


「被害者ですか?」


 優一はニッコリと笑って少年に答えた。


「俺がくる前からゴーストと戦っていた。しかも訓練用のバトルサポートで」


 優一の一言によって隊長のエンブレムを付けている男が目を丸くして驚いていた。


「へぇ……訓練用の。君たち入隊内定が決まっている……」


「はい、水澤玲奈です」


「西原遼」


「月影詩織です」


 3人は堅苦しく緊張気味で小隊長に自己紹介を軽くした。


「ご丁寧にありがとう。俺は劫火小隊隊長、火宮劫火ひみやごうかだ。よろしく。見たところ高校生のようだね。仁と同級生かな? 仁、3人を見たことあるか?」


 劫火は優一のことを師匠と呼んでいた仁に声をかけた。すると仁は優一と話す時とは全く違う声色で話し始める。


「……見たことない。それと隊長、師匠の報告を聞いて彼女たちに対する措置は?」


「ん? ……搬送? それも急ぎで?」


「そうですけど、違います。入隊内定の取り消しです」


 仁の一言で玲奈たちは「え?」と言って目を見開いていた。


「……お前たち自分で何をしたのか自覚しているのか? 入隊内定の隊員が無許可で、しかも訓練用のバトルサポートを起動し、そして戦闘を行なった。無事だったから良かったもののホープの規定に反している。規定違反でお前たちの入隊の内定は取り消し。サポートも強制的に取り上げだ」


「おい、仁! ……すまないね。こいつはどうも初対面の人間には少し態度が悪くてね。こいつは俺の隊ブレーダーの桜井仁さくらいじん。こいつの言っていることは確かだが、君たちがゴーストを足止めしてくれたお陰で被害がでなくて済んだ。むしろ入隊時、即ランクアップ認定する方がホープとしてメリットの方が大きい」


「……ふん」


 仁は劫火の言葉に納得してないかのようにそっぽを向いた。様子を見ていた優一が、仁の頭を軽く撫でてなだめる。


「まあ、安心しろ。3人とも。ホープが何を言おうとも俺の権限で君たちの入隊を確定させる」


「優一さん!」

「師匠!」


 仁と劫火はまずいと思う顔で優一を見つめた。しかし、当の優一は他人事のようにニコリと笑っていた。


「まあ、とにかく君たちの精密検査が優先だ。救助隊、搬送を」


 優一は待機していた救助隊を集合させ、玲奈たちの搬送を指示した。救助隊はタンカを3人分用意していたが遼と詩織はタンカーは不要と説明し、自分の足で搬送用の車に向かった。


 そして隊員は座り込んでいる玲奈に手を貸そうとしたその時。


「……ひゃ!」


 玲奈は隊員の手を払いのけ、左側の背中を庇うようにしてうずくまった。


「……あ……ごめんなさい」


 しばらくしてから玲奈もゆっくりと立ち上がり搬送用の車に乗った。乗り込みが完了したことを確認し、搬送車はゆっくりと走り出した。


 そして劫火小隊の2人と優一だけがその場に残った。


「優一さん……彼女」


 劫火が優一に話しかけたが、あえて言葉を飲み込んだ。優一は紫色に染まっている瞳を細めて考え始めた。


「……こりゃあ、参ったね~」


 優一はボサボサになっている髪をガリガリと掻いてため息をついた。その時、劫火に無線が入る。


「はい、劫火小隊………はい、……確かに優一さんと一緒にいます…………分かりました。すぐに本部に戻ります。はい、失礼します」


 優一は無線会話を終えた劫火に目を向けた。そして劫火は優一に目を向け、真面目な口調で語りかける。


「……大丈小隊隊長、並びにレジェンドランク総責任者大丈優一さん。ホープ本部長がお話ししたいことがあると……」


「……はあ、本部長が俺をお呼びとはね。大体予想はつくけど……」


 すると優一は無線サポートを起動して、7つの周波数に連絡を入れた。


「俺だ。レジェンドランク総員、本部長室に集まってくれ」


 連絡を入れ終えると劫火に目で合図し、異色の翼を広げて飛び立って行った。




~おまけ~


詩織「もしかして違法ナノマシンプログラムを追加していませんか?」


優一「してないよ。そんなものに頼らなくたって、君たちの考えていることなんて分かるんだよ」


詩織「……」


玲奈「優一さん、台詞間違えてますよ」


優一「あ……」

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