Hope~希望を信じて~
伊澄ユウイチ
第1話始まりの世界
~2XXX年~
現在の人類には「サポート」と名付けられたナノマシンが埋め込まれている。生まれた瞬間にハンコ型の注射で、生命力の保持、視力のサポート、危険予知のサポート、その他様々なサポートを行うことができる最新テクノロジーだ。
基本的には不自由なく生活できる程度のサポートだが、職業によっては車の運転サポート、サーモグラフィー機能、瞬間的に見た相手の顔を撮影するカメラ機能などを追加することも可能である。
そして軍隊とはまた違うある組織では、より優れた性能を求め、日々進化している。
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突如、世界はこの世から亡くなった魂によって苦しめられていた。それは無差別に人を襲い、群れで襲ってくるそれを人々はゴーストと名付け、恐怖を抱いた。ゴーストは通常の兵器で撃退することは出来ず、多くの人が犠牲となった。
さらに追い打ちをかけるかのようにゴーストが現世に現れたのと同時に、地球全体で環境変化が起き、地形は変化し、バラバラになっていた大陸は再び1つとなってしまった。
大きく変わった環境によって、ここでも多くの人が犠牲となり、生き残った人の一部は環境が変わったことによって、体の至る所に変化が現れた。
もう世界の終わり……誰もが時を覚悟した時、現れたのは『バトルサポート』と呼ばれているサポートを使い、人が必ず持っているある力を武器とし、透明な翼で空を飛ぶ数人の集団だった。
少数であったにもかかわらず、彼らはあっという間に大量のゴーストを撃破した。
ゴーストから世界を守り、彼らは『ホープ』と呼ばれた。
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ゴースト事変から十数年が経ち、全ての高等学校では特殊な授業を行っていた。体育という教科がゴーストから身を守るための特別基礎訓練という新たな教科に変わっていた。
内容は簡単に言うと体を動かすこと。体育と何ら変わりはないが、唯一違う点を挙げるとすれば、体をサポートをするナノマシンを有効活用する教科である。
様々なサポートを生徒たちは上手く使いながら、授業を受けていた。
50人前後の生徒の中から、かなり目立っていた生徒が1人いた。
その生徒の名は
普通の女の子なら傷つくかもしれない言葉だが、彼女にとっては褒め言葉として受け取られていた。誰よりも優れている。本人にはそう思えたのである。
なぜ彼女が他の生徒よりも目立っているのかと言うと、彼女はナノマシンサポートに空を飛べるサポート、飛行サポートを追加していたからだ。
飛行サポート自体は追加困難ではないが、高いところが苦手、上手く翼を広げられない、と気持ち、体的の問題があるため他の生徒は使用を控えている。
しかし、一番生徒が飛びたがらない理由は水澤玲奈の飛行能力がずば抜けて良いため、自信をなくして飛ばなくなった。
しかし唯一彼女に対抗している男子生徒がいる。その生徒の名は
彼も翼を持っているが空中飛行訓練の得点は玲奈とは勝負にならない点差だった。しかし、彼は負けず嫌いで、玲奈をライバル視していて、尊敬している唯一の人間である。
主に近接戦闘は避けていて中距離をメインとして攻撃している。
「玲奈! 今日こそお前に一発当ててやる!」
遼は訓練用のインクバレットが入っているハンドガンで玲奈を攻撃した。
「やれるものならやってみなさい!」
玲奈は遼の弾丸を上昇、降下、回転、全ての動きを高速で行なって回避していた。
「何で今の避けれるんだよ!」
遼はバレット交換のため、体を地面と平行にし、高速で旋回した。玲奈はバレット交換をしている遼の後ろにつき、同じくインクバレットのハンドガンを2、3発撃った。遼は急降下し、その弾丸を回避した。
2人が空中を激しく飛び回っている中、ある女子高生は校舎の屋上でスコープ越しで二人の空中戦を見ていた。
「いいよ〜遼くん。もっと追い込んで」
彼女の名前は
彼女も空を飛ぶことはできるが、彼女は飛行能力が2人よりも高くなく、狙撃の訓練を人一倍行なっている努力家である。他の人には撃てない距離でも難なくど真ん中を撃ち抜くセンスも持ち合わせている。
詩織は玲奈の動きを見て、ゆっくりと引き金を引いた。勢いよく飛んで行ったインクの弾丸は玲奈めがけて着弾……の予定だった。
「甘い!」
玲奈は急上昇し、詩織の狙撃を回避した。
「嘘!?」
「詩織! 退避しろ!」
狙撃を外した詩織は遼の声に反応し、急いでナノマシンで生成された透明な翼で空を飛んだ。
しかし。
「詩織これで終わり!」
飛んだ先に玲奈が目の前にいて、玲奈の右手に持っていた形が固定していない青い剣が、詩織の運動服に青いインクが肩から脇腹にかけて付着した。
「月影さん終了です」
地上で見ていた先生が戦闘不能を詩織に宣告した。
「玲奈!」
遼は玲奈の背後から攻撃したが、玲奈は再び上昇し太陽の光の中に隠れた。遼は太陽の光を直で見てしまったため、玲奈を見失った。一瞬ひるんだ隙に玲奈は急降下し、降下の勢いを利用して青い剣を遼に当てた。
「しまった!」
「西原くん終了〜」
遼も詩織同様、戦闘不能の宣告が告げられた。その直後、授業終了のチャイムが鳴った。
「みんな! 今日はここで終了。着替えて次の授業に遅れないようにしなさい」
先生が授業終了を告げると生徒は一斉にナノマシンサポートを終了した。
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その日の放課後、帰り道で玲奈、遼、詩織が話しながら帰っていた。
「あーあ、今日も玲奈に一発も当てられなかったな〜」
遼があくびをしながら今日の訓練の内容を省みた。
「遼、あんたは中距離ばかりにこだわっているから近距離相手に不利になるのよ。詩織は撃った後、当てても外れてもすぐ飛ばないと」
「うるせー。俺は中距離のみで精一杯なんだよ!」
遼は玲奈を見て熱弁した。玲奈は遼の言葉を遮るかのように耳を指で塞いだ。その行為に頭にきたのか遼の言葉のマシンガンは止まらなかった。
「何でそんな態度なんだよ! だからお前みたいな女子は男子に男女とか、馬鹿力とか、性格悪女とか言われてもおかしくないんだよ! だからお前は彼氏が出来ないんだよ!」
「ちょっと! 何で性格が悪かったり、力が強いだけで彼氏が出来ないわけ? 勝手に決めつけないでよ!」
玲奈は遼の言葉に対して熱くなってしまった。
「まあまあ、二人とも落ち着いて。遼くんは少し言い過ぎだよ。玲奈ちゃんも今までそんなこと気にしていなかったじゃない。……でも相変わらず玲奈ちゃんは綺麗な飛び方だった」
「そうだな……それは俺も思った」
詩織の言葉に西原は頷いた。玲奈は褒められて少し頰を赤くして鼻を高くした。
「まあ、ホープの入隊試験を受ける資格があるからね。2人も入隊試験受けるんだから学校の訓練で手を抜かないでよね」
「誰が手を抜くか。全力だよ」
その時、3人に冷たい風が吹いた。3人の表情から笑いは消えて、背後を素早く見た。後ろには3階建ての建物と高さが変わらない大型のトラの霊が3体現れた。
トラが大きく咆哮した瞬間、街には避難勧告の映像、サイレンが響きわたり、周りにいた一般人は叫んだり、動揺しながらトラから背を向けて逃げ始めた。
「何だこいつ……デケェ」
遼は目を丸くしてトラの霊を見つめた。
「何? 遼ビビっているの? ホープに入隊したらこんなのを相手にしないとダメなんだよ」
「何言っているの!? 玲奈ちゃん!! 私たち入隊試験を受けられるだけで、お試しの訓練用のナノマシンサポートしか追加されてないのよ!どうやっても無理だよ!」
詩織の言葉は玲奈に届いていなかった。玲奈の頭の中は目の前にいるトラの霊を倒すことしか頭になかった。
「怖いなら二人とも逃げて。私だけでもこのトラ3匹を倒す!」
「玲奈! 待て! 無理だ!」
遼は声が出る限り叫んだ。
「……ナノマシンスタンバイ。バトルサポート起動」
玲奈が静かに呟くと訓練の時同様、ナノマシンで生成された透明な翼が生え、玲奈は空めがけて思いっきり羽ばたいた。
「玲奈ちゃん!」
「詩織! ダメだ! 下がるぞ!」
遼と詩織はトラの攻撃範囲外であろう場所まで下がり、玲奈を探した。
「あいつ、インク付着の武器でどうするつもりだ?」
水澤は1匹のトラの周りを高速で旋回し、注意を自分に集中させた。トラは玲奈を一生懸命捕まえようと前足で攻撃するが、玲奈は動きを読んで回避した。他のトラも水澤を捕まえようとしていたが、冷静に玲奈は周りを見て回転しながら回避していた。
そしてインクの弾丸が装填されているハンドガンで1匹のトラの眼球を攻撃した。仮にもホープの訓練用のナノマシンサポート武器であるため、インクの弾丸はトラの眼球に付着した。視界がインクによって遮られたトラは暴れまわり、周りのトラをわけもわからず攻撃したりした。1匹のトラによって混乱したトラたちは完全に玲奈の事を忘れかけていた。
「よし!」
軽くガッツポーズをする玲奈。
「あいつ訓練用の武器でトラを混乱させた!」
遼は食い気味に玲奈を見つめていた。隣にいた詩織も玲奈の戦闘に目を奪われていた。
しかし、トラは混乱しただけで、倒す決定的な一撃は玲奈の持っている武器では繰り出せなかった。
「さて、どうやって倒すかな……」
その時混乱していた1匹のトラの前足がたまたま玲奈の翼を叩きつけ、玲奈はコントロールを失って弾き飛ばされた。
「きゃっ!!」
「玲奈!」
遼が急いでバトルサポートを起動し、玲奈を受け止めようと飛んだ。しかし、玲奈が落ちるスピードはさらに早くなり、遼の飛行スピードでは間に合いそうにはなかった。
その時、玲奈が地面に激突する瞬間、一人の翼を持った男性が玲奈を抱えて、助けた。玲奈は落ちると思っていて目を固く閉じていたが、痛みが襲ってこないことが不思議に思いそっと目を開けた。
風を切っている感覚……まるでもう一度飛んでいた感覚だった。
「大丈夫かい? 高校生」
玲奈は男性の人に抱えられていることに気づいた。風でなびいているのかその男性の黒髪はボサボサになっており、瞳は世にも珍しい紫色の瞳だった。
青年は黒いコートを着ていて、黒地に一筋の白い線が入ったスラックスを履いていて、コートの肩には『Hope LR』のエンブレムが付けられていた。
そして玲奈たちとは違い、翼に色があり、左の翼は青色、右の翼は赤色に染まっていた。
「あなたは……」
「話は後で。とりあえず、友達が迎えに着たみたいだから、君は友達と一緒に逃げて」
「玲奈!」
玲奈は横から聞こえてくる声に反応して振り向くと、遼と詩織が迎えに来ていた。
「大丈夫か? 玲奈」
遼が玲奈の安全を確認すると、ホッと肩を撫で下ろし、安心した。
「バカ! まだ訓練用の武器しか持っていないからこんな目に遭うんだろ! もう少し冷静に行動しろよ!」
「ごめん……何だかいてもたっても……」
いつも強気の表情を浮かべている玲奈だが、今回に限っては今にも泣き出しそうな顔だった。
「とにかく君たちは離れていて。後は俺がなんとかするから」
男性は玲奈を遼に預けて暴れているトラ3匹に飛翔して行った。
「あの人……ホープの人?」
詩織は首を傾げて飛んでいく男性を見つめた。
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「やれやれ、人型の霊かと思えば獣型か……まあ、1番最初に現着してしまったし、仕方ないか」
男性はナノマシンサポートの無線を使用した。
「ホープ本部に通達、こちらL01。目標確認。これよりバトルサポートを緊急起動する」
『こちら本部。L01のバトルサポートの緊急起動を許可します』
「さて、始めますか……バトルサポート起動」
バトルサポートを起動した男性の左側の腰には黒い剣が携えられ、右側の腰にはライフル銃が携えられていた。
「戦闘開始」
男性はライフル銃を左手のみで持ち、狙いを定め、容赦なくトラ3匹にマシンガンの引き金を引いた。大きな発砲音とともに緑色の弾丸は、雷を帯びてトラに向かっていった。3匹中2匹には頭に命中し、倒したが、1匹は青年めがけて突進して来た。男性は冷静に空気を蹴るように飛翔して突進を回避した。
そして、左の腰に携えている黒い剣を鞘から抜き、トラの首めがけて斬りつけた。トラは大きな咆哮を残して地面に倒れ、現世から消えて行った。
一瞬の出来事に玲奈たちはその青年に目を奪われた。
「すご……」
「あの巨大なトラを一瞬に……」
玲奈と遼は言葉を失った。男性は玲奈たちの方を見てニコリと微笑んだ。
「君たち、怪我はない?」
男性はゆっくりと玲奈たちに近づき、完全を確認した。そして4人はゆっくりと地上に降り立った。
「玲奈!! 背中から血が!」
遼は玲奈の背中を見て出血していることに気づいた。詩織は玲奈の傷口を見て少し青ざめていた。
「大丈夫だよ、少年少女。バトルサポートを起動している時に負った怪我なら、バトルサポートを終了すれば怪我は無かったことになるよ」
男性の言葉を信じ、玲奈はバトルサポートを終了させた。バトルサポートを終了した玲奈の背中を遼と詩織が確認すると血は出ていなかった。
「……あなたは……ホープの人ですか?」
詩織が男性に尋ねると、男性は微笑みながら言葉を返した。
「自己紹介が遅れたね。俺はホープの
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