第23話 デート?③

「わ~すごい、おいしそ~!」


 それからほどなくして頼んでいた料理が運ばれてくる。

 目の前の席に座っている先輩が店員さんに許可を取って料理の写真を撮っていた。これは後でツイッターに上げられるやつだろうな。


「ツイッターに上げちゃおっと」

「あ、もう上げるんですね」

「真理、さっさとしないと料理が冷めるよ」


 先輩の隣にいる相坂さんが注意をすると、ささっとつぶやくだけつぶやいて携帯をカバンにしまう。


「よし、いっただきまーすっ!」

「いただきます」


 上品な所作でパスタをくるくるとフォークに巻き付け、つるっと食べる先輩。


「ん~っ、おいしい!」

「よかったですね、先輩」


 そう言いながら俺もパスタに手を付ける。


 キノコとほうれん草が乗ったものを和風仕立てに仕上げたパスタだ。


「ん、こっちもおいしいですね! 先輩も食べます?」

「いや、わたしは大丈夫! 自分のは自分で食べたいから~」

「へえ、そうなんですね」


 そういえば前にも塾で会った清香さんも同じようなことを言っていたな。

 顔が似てるだけじゃなくて性格も似てるらしい。


「……真理」


 だが、お腹をすかせたままサンドイッチだけを食べている相坂さんはそうもいかないらしい。


 サンドイッチを食べながらも、顔を赤らめて、


「一口……ください」


 とかいうことを言っていた。

 あれ、カロリーは大丈夫なんですかね?


「成瀬さん、変なこと言ったら殺しますから」

「まだ何も言ってないですが……」


 こっちに血走った目を向けてくる相坂さん。

 あんたはエスパーか。


「いいよ~、はい、あーんっ」

「ちょ、ちょっと」

「ほらほら!」


 先輩はさっきと同じ要領でフォークにパスタを巻き付けると、それを相坂さんの口に持っていく。

 そしてそれに戸惑う相坂さんという構図だ。


「なに、いらないの?」

「いや…………いる、けど……」

「はい、じゃあ、あーん!」


 そう言われて諦めてはむと口にする相坂さん。どうやら食欲には勝てないらしい。


 口に含むと途端に目がパチンと開いて、幸せそうな顔をする。どうやら相坂さんの口にも合ったようだ。


「どう、梨花?」

「おいしい……」

「そ? じゃあもう一口食べる?」

「(ぶんぶん)」


 頭を思いっきり縦に振っている相坂さん。いつの間にかペットみたいに先輩によって手なずけられているし、そもそもカロリーを心配していた相坂さんはどこへというか。


 とつぜん広がる目の前の百合空間に癒されつつも、俺は淡々とパスタに舌鼓を打った。







「ねえ、写真撮ろうよ、写真」

「写真、ですか?」


 ご飯を食べて満腹になった頃、先輩がそんなことを言い出した。


「ほら、あんまり3人で遊ぶ機会なんてないでしょ? だからさ」


 言うが早く、先輩は店員さんを呼ぶと自分の携帯を渡す。


「ほら、近く寄ってっ」


 先輩を真ん中にして俺と相坂さんが並ぶ。

 ちょっとずつ暮れてきた夕暮れをバックに、俺たちはピースをしていた。


「はい、これでどうでしょうか?」


 店員さんが撮ったものを先輩に確認を取る。

「おっけーです、ありがとうございました!」と言うと店員さんはニコニコしながらまたカウンターの方に戻っていった。


「ほら、見て! いい感じじゃない?」

「俺の顔ひきつってるっていうか、それ以上に相坂さんがめちゃくちゃ無愛想ですね……」

「撮られ慣れていないもので」


 笑顔を作らなかったことを悪びれもしない相坂さんは、それからパッと先輩の携帯を奪った。


「梨花?」

「どうせなら二人の写真も撮りましょう」

「「えぇっ⁉」」


 俺と先輩の二人で声を上げる。


「ほら、どうせだから。くっついてくっついてー、はい、チーズ」

「え、え?」


 戸惑いながらも二人で何とか顔とポーズだけ作る。


 出来は最悪で、俺はめちゃくちゃ腰が引けているし、先輩の顔は引きつっている。

 ちなみに先輩はそれでもかわいい。


「はい、どーぞ」

「あ、ありがとう……」


 おずおずと自分の携帯をとる。

 それでも写真を見てにまにまとしていたから、多分満足のいくものだったのだろう。


「じゃ、じゃあっ。それぞれ2人きりのやつ撮ろうよ! ほら、千太くんと梨花も」

「わ、私はいいから」

「先輩と相坂さんの写真も撮りましょうか?」


 そう言いながら結局日が暮れるまで写真を撮りあっていた。


 とても楽しい時間だった。





 ――――――――――――――――――





「お、嘉瀬さんまた写真上げてる」


 3人が遊びに行った日の夜、一人の男がパソコンでツイッターを見ていた。


 名は赤田あきお。3人と同じ山丘高校に通う2年生だ。

 そして嘉瀬真理の大ファンでもある。


「友達とご飯か。充実してるな~」


 どうせ女子友達とご飯を食べに行ったのだろう。

 嘉瀬真理なら友達ならいくらでもいるはずだ。


 ただ、ここでふと思った。

 相手は男だろうか、と。


「まあ、二人っぽいし、男なわけないよな」


 ここで不運なことが一つ目。

 写真には真理の皿と千太の皿しか写っていなかったこと。これによって、梨花の存在が消えてしまった。


 そして二つ目。


「なんだよこれ……」


 それは、水の入った透明なグラスに、千太の顔が反射して写ってしまったことだ。


「こいつ……あいつか」


 成瀬千太のことは知っていた。

 この学校で知らないものなどはいない。


 去年、嘉瀬真理に歯向かった人間。


「ふざ、けんな……」


 そんなやつが真理と二人でデートなど、到底許容できるものではない。

 少なくとも赤田にとっては許せるものではなかった。


「ふっ。これくらいやってやらないとな……。あいつにはお灸をすえなくちゃ」


 そして匿名のネット掲示板に書き込んだ。


『成瀬千太という男は、嘉瀬真理に暴力をふるったことがある』


 千太の個人情報と、顔写真を。

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