第22話 デート?②
「父さん、母さん……」
俺たちと鉢合わせをしたのは、休暇を活用して家電を見に来たであろう父さんと。
そしてその父さんの腕をがっちりとホールドしている母さんだった。
――――俺の両親、だった。
「なんで二人ともここに…………?」
「なんでって、そりゃ家電を見に来たに決まってるだろう」
「うちの炊飯器が壊れちゃってねえ~」
と、そこで母親が俺の隣にいる先輩の姿を確認する。
「あらっ……」
俺の顔を見たときは面倒くさそうな顔をしていた母親が、ぱち、ぱちっと先輩の姿を何度も見て、顔に手を当ててはっと息を吞んでいる。いちいちリアクションがおばさんくさい。
そしてその母親から、ぱっと言葉が口をついて出た言葉は。
「……同棲?」
「ち、ちがいますっ‼」
それを顔を真っ赤にして否定する先輩。
たしかに男女ふたりが一緒に家電量販店に来るというこの状況は普通ではない。
普通の人から見たら姉弟に見えているのかもしれないが、もちろん俺の両親はそうではないことを知っている。
そうしたらたしかに同棲っていうのは合理的な結論だ……ってそうじゃなくて。
「のぶ代さん。これは、あれだ」
「あれ?」
「新しく買った炊飯器で最初に炊くのは赤飯に今決まったってこと。おめでとう‼ わっはっは」
「わっはっはじゃねえよ黙っとけクソおやじッ‼」
ばかおやじだった。初対面の人相手になにセクハラしとんじゃぼけ。
先輩にそういうネタ言うとかぶっとばすぞ。
「あの……そういうことはま、まだちょっと……し、してなくてですね!」
「先輩、落ち着いてください。ただの冗談ですから」
「分かってるわよ。ちゃんと避妊はしているでしょ?」
「なんでうちの家族はみんな初対面の人に臆さずセクハラするんですかね⁉」
あはは~と笑っている母さん。
いや、笑い事じゃないから。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったわねえ。私、千太の母親ののぶ代と申します。ちなみにこっちはお父さんのひろしね」
「あ、えと、わたしは嘉瀬真理と申します! よろしくお願いします!」
ぺこり、とお辞儀をする先輩。
それを見ていて急にふと、大事なことに気が付く。
――たしか相坂さんが俺の引っ越す理由として、二人に『嘉瀬真理さんと距離を縮めるため』と言ったはずだ。
ということは、この二人が口を滑らせてしまうと、政府が俺に「先輩を落としてくれ」と頼んでいることが本人にバレてしまう。
やべ、口の減らない母親をどうにかせねば、と思った。
だがしかし、幸いなことに。
「すっごいべっぴんさんねえ~。こんなかわいい子が未来の娘だなんて、将来も安泰ねえ」
――覚えていないらしかった。
さすが俺の母親、馬鹿である。
「うちの息子はこんなかわいい子をどこで捕まえてきたのかしらあ」
「もう、いいからほっとけ! たまたま会っただけだよ!」
適当にごまかして二人を先輩から遠ざける。
これ以上一緒にいるのはまずい気がする。主に俺の母親がやばい。
「おい千太。ちゃんとゴムはつけろよ」
「親父はもういいから黙っててくれないか⁉」
でかい声で言うなあほ! 他のお客さんに聞かれるだろうが。
無理やり先輩のところから引き離していく。
「じゃあまたねえ~真理ちゃん。またうちに挨拶に来てねえ~」
「はい! 行かせていただきます!」
「先輩も真に受けなくていいからね⁉」
そして騒がしい二人はどこかへ消えていった。
嵐が通り過ぎた後みたいだ。なんかもう疲労が……。
「すみません先輩。うるさい家族で」
「そう? わたしは楽しそうだとおもったけどなー」
「まあ、賑やかではありますが」
ただ、思いのほか先輩がうちのバカ親のことを好印象だったのがせめてもの救いだ。
質の悪い親だと思われてもしょうがないところだったが。
「なんか疲れたので、さっさと買っちゃいましょうか」
「ふふ、そうなの? もう一回くらいご両親と話してみたいけどねっ」
「勘弁してください…………」
それから店員さんにおすすめを聞いて、結局安いトースターを購入することになった。
先輩は両親のおかげで緊張がほぐれたのか、終始楽しそうにいろんな電化製品を眺めていた。
―――――――――――――――――――
「二人ともどうでした?」
「真理はずいぶん買い込んだみたいね……」
両手に本屋の袋を携えている相坂さんと合流したのはおやつの時間になってからだった。
淡々とした顔で満足そうに買い物を済ませたであろう相坂さんは、帰りたそうだ。一刻も早く家に帰って買った本を読みたいという顔をしている。この顔は多分マンガを買った顔だ。
「じゃあ先輩、帰りますか?」
「えーせっかくだからお茶くらいしていこうよ!」
「まだ帰らないんですか、真理」
「とーぜんっ!」
何が当然なのかはよくわからなかったけれど、胸を張って先輩が言うのなら当然なのだ。
たぶん。
「まあそうですね、せっかくここまで出てきたんですし、相坂さんも一緒に行きましょう」
「…………すっかり真理に取り入られてますね」
「?」
ちなみに先輩が買ったトースターは郵送で送られてくることになっているので大丈夫だ。気兼ねなく歩き回ることができる。
そして先輩が検索をしてよさそうな店を探す。
近くに新しくできたばかりのカフェがあるとのことだった。
「はい、出発しんこー!」
「相坂さん、片方持ちますよ」
「え、ああ、ありがとうございます」
そして相坂さんの持つ本の入った紙袋を持って歩くこと10分ほど、噂のカフェに到着する。
ビルの10階にあるカフェで、中に入るとガラス張りの窓から街並みを見ることができるビルのカフェらしい。
「すごーい! ここ、夜に来ると綺麗だろうね!」
「でも今日は晴れてて、景色もいいですね」
先輩と相坂さんが窓からの光景に目をくぎ付けにされている。
そしてその後ろから見ていた俺は、「美女2人とこんなところにきていいのだろうか……」と戦々恐々としていた。
天井が高く、全体は真っ白にところどころ暖色系の照明が使われている。
いかにも最新のカフェという感じで、水野は言ったピッチャーも真っ白の陶器のようなものだった。
まるでIT系の企業オフィスみたいだ。
「先輩がたは何を注文しますか?」
「わたしカルボナーラ!」
「かなりがっつり食べるんですね……」
まだお昼ご飯を食べてから3時間ほどしか開いていないはずだけど。
「お腹が空くと、すぐ食べちゃうんだよね~」
「真理、その言葉を二度と私の前で口にしないほうが良いですよ」
ギリっとにらむ相坂さん。
その視線は、先輩の細いお腹の部分を向けられていた。
「そういう梨花だって痩せてるじゃーん」
「わたしはあなたとは違って努力しているんです。あなたとは違って」
「わたしだってたまに腹筋10回くらいしてるのになあ~」
「せ、先輩、その辺にしておいた方が……」
やばい、相坂さんの目が殺人者の目になってる。
たぶん相坂さんは家で何百回と腹筋をしているに違いない。
このままでは嫉妬に狂った相坂さんに先輩が殺されてしまう。
「ぼ、僕はこのきのこのパスタにしますね! 相坂さんは?」
「サンドイッチで」
慌ててごまかして、さっさとオーダーをする俺。
でも、やはりカロリーを気にしているらしかった相坂さんには何も言うことができず、そのまま料理が来るまで相坂さんのご機嫌を取るのに忙しかった。
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