第21話 デート?①
停学明けを明日に控えた日曜日、つまりあれから2週間たった週末のことだ。
「ねえねえ、千太くん」
「どうしたんですか?」
先輩の家でいつものように朝ご飯をいただいているときだった。
ちなみに今日は先輩の作ったサンドイッチにスクランブルエッグ、コーンスープというホテルの朝ご飯みたいなラインナップだ。
もちろんどれも無茶苦茶おいしい。
「あのさ千太くん、最近お外に出てないよね?」
「そうですね~。学校や塾はいけないですし、コンビニに行くくらいですからね」
「じゃあさっ、じゃあさっ」
俺の返答を聞いて目を輝かせた先輩は自分の部屋に一度戻ると、すぐに戻ってきた。
右手に紙を一枚。
「ここ、行かない?」
そこに載っていたのは、ぎざぎざの吹き出しがやたらと目につく値引きの広告。
つまり、チラシというやつだった。
「これは、家電量販店の……?」
「そう! ちょうどトースターが壊れちゃったみたいだから。……千太くんが良ければ、だけど……」
「いえ、そんなの全然ついていきますよ!」
先輩と二人とかデートみたいだし。デートみたいだし‼
俺が快諾をすると、先輩も不安そうな顔をぱっと晴らす。
「ほんと! よかった、じゃあお昼食べたら1時に駅集合ね!」
「わかりました!」
停学が明ける前に先輩とデートなんて最高だ。前みたいなことがないように、ちょっとくらい変装しないとな!
――――――――――――――――――――――
「………………で。なんで相坂さんがいるんですか……」
「私だって知りませんよ……」
だが、先輩と二人で駅にやってくるとそこにいたのは仏頂面の相坂さん。
半袖のシャツにひざ丈くらいの落ち着いた色のスカート。首からネックレスがちらりと見えるが、一応最低限のおしゃれをしてきたという感じだろうか。
それでも胸に存在感ある双丘と銀髪、もともとの顔の良さで周りから視線を集めてしまっているが。
「おー梨花。相変わらず素っ気ないけどかわいいのぅ~」
「真理も似合ってるね。あと口調がおっさんみたい」
嘉瀬先輩が相坂さんに抱き着くのを一瞬で引っぺがされる。
そういう嘉瀬先輩の格好はというとブラウンのロングスカートに、上は涼しげな生地の薄緑のブラウス。そして縦にこんもりとしたつば付きの帽子を付けているのは、変装のためだろう。先輩は顔が広いというか広すぎるから行くところによっては変装が必須らしい。
ただ全体的に自然の色合いで、まさに春といったコーディネーションだ。
「二人は面識あったよね? 千太君を部活に連れてきたのも梨花だし」
「……まあ、あります、ね」
本当はありすぎて、ここ最近ほぼずっと相坂さんと生活をしていたなんて口が裂けても言えない。
昼夜ずっと勉強を教えてもらったりゲームをしていたなんてことは言えるはずがないのだ。……ゲームに至ってはかなりやったし。
「真理、ちょっと」
それから相坂さんは先輩を近くに寄せると耳打ちでこそこそっと耳打ちする。
「なんで二人で行かないの? 絶対に私じゃまじゃん」
「だってぇ……二人きりって緊張するから……」
「そんなので呼ばれる私の身にもなりなさいよ」
「ごめぇん…………」
何故だか泣きそうになっている先輩に、はあっとしょうがなく慰めている相坂さん。
はたから見たら二人は姉妹みたいだ。
「じゃあとりあえず行こっか!」
それから3人で電車に乗る。
休日だがそこまで混まないこの電車に乗って、揺られること30分。都会に出てくる。
「はぐれないようにね、千太くん!」
「は、はい」
「一番はぐれそうなのは真理だけど」
まるでバスツアーのガイドさんのように右手を挙げて進む先輩。
その後ろを俺と相坂さんが慌ててついていく。
そこで相坂さんが俺の方に顔を寄せてきた。
「途中でそれとなく二人きりにしますから。頑張ってくださいね」
「え? ああ、えっと、わかりました」
それとなくってどういうやつなんだろう。
まさかどこかの名探偵みたいに「〇ねえちゃん僕ちょっとトイレ~」とか言い出さないだろうな? ちょっとじゃないんだよないつも。
そんなどうでもいいことを考えながら、30階建てのビルに入っていく。
1階から10階まではそれぞれ本屋、服屋などが入っているところで、そこから先はビジネスホテルだったり料理店が入っているところだ。
エスカレーターでゆっくり5階まで上がると、そこにはたくさんの人がごった返していた。
「うわっ、すごい人ですね」
「休日だからね~。それにもうすぐゴールデンウィークだし?」
「なるほど」
そう言えば今年のゴールデンウィークは何をするのだろう。毎年のようにゴールデンウィークは家族でキャンプだが、今年は一人暮らし中だ。
意外とキャンプは好きなので行きたいけどな~。
「じゃあ、お二人とも。ここで」
と、そんなことを思っていたところで相坂さんがパッと俺たちから離れた。
「え?」という顔をしている俺と先輩に、相坂さんはあっさりとした声で答える。
「私、本屋に行きたいから。家電なんて興味がないので」
「いや、ちょっと、梨花?」
急に顔色が悪くなったのは先輩だ。
涙目で「わたしを置いていったりしないよね?」という目で相坂さんを見ている。かわいい。
「じゃあ、わたしは30分は戻ってこないので、二人でごゆっくり」
だが、無情にも相坂さんはその手を振り切ってエスカレーターで上に上がっていってしまう。
そして残された俺と先輩。
…………それとなく、とは。
「とりあえず、見に行きましょうか……。トースター」
「そ、そうねっ」
黙って突っ立っていてもしょうがないので、とりあえずチラシに載っていたものを探す。
「…………」
何とも言えない距離感。
おむすび3つ分くらい空いた距離を、俺を先にして進んでいく。
さっきまでくだらない話をしていたし、先輩の家で二人きりになっても話は尽きなかったのに、いざ外でとなると急に話題が思いつかない。
それは先輩も同じのようで、時々なにか話し出そうとするが結局言葉にならず消えていく。
「あ、先輩。ありましたよ!」
「ほんとだ!」
そんな俺たちを救ってくれたのはトースター。
――――ではなかった。
「……あれ? 千太じゃないか。どうしたこんなところで」
「あら、千太じゃない」
「父…………さん? 母……さん……」
俺と先輩が二人きりでいたところに現れたのは、俺の実の父親と母親だった。
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