第18話 停学からの修羅場①

『停学2週間』


 学校を途中で終えて帰ってきた俺にひとつメッセージが送られていた。。

 勝から送られてきたそのラインを見て、思わず苦笑いをしてしまう。


「やっちゃったなあ……」


 手が出てしまうとは一生の不覚。

 まさか自分で自分を制御することができなくなるとは……。


 続いて勝からラインが飛んでくる。


『ちなみに、信楽しがらきがかけあってくれて2週間だからな。信楽に謝っとけよ』


 お礼言っとけよ、ではなく謝っとけよ。


 それは、鳴を巻き込んでしまったことに対して謝罪をしろよという意味だろう。

 たしかに、鳴も殴られてしまったし、なんならそのあと先生と言い合うなんて優等生の鳴にとっては傷になる。


 ……本当に謝らないといけないな。


「まー勝もお節介なやつだな」


 やっぱり勝にとっては鳴が一番優先度が高いらしい。かわいいやつめ。


 もうメッセージは終わりだろうとベッドに携帯を投げ捨てるが、最後にもう一度だけ携帯がぶるっと震えた。


『あと……すまん。俺も殴れなくて、すまん。惚れてるとか言っておきながら……ダサかった』


 悔しさのにじむ文面。俺に対して弱みを吐きたくはないだろうが、それでも自分で「ダサかった」と言うほどには後悔しているらしい。


 自分も鳴のために体を張れなかったことを後悔しているのだろう。

 

 だけど。


「イケメンがひとを殴ってどーすんだよ。馬鹿が」


 勝まで殴って謹慎にでもなってたら、それこそ鳴は辛いだろうに。

 それを勝も分かっているからこそ、あの時は手を出さなかったはずだが。


 勝には適当に嫌味のメッセージを送っておく。

 こういうタイミングでしかあいつに悪口を言えないからな。


「はぁ……暇だな」


 こうしてやることがないと、暇なもんだなあ。平日の昼間に家にいるっている罪悪感もあって、遊ぼうという気にもならんし。


 というか、この後どうしよう。先輩にどうやって言い訳したらいいかもわからんし、相坂さんに至ってはなんて言われるかわかったもんじゃないぞ。


 と、そんなことを考えていると、ピンポーンとうちのインターホンが鳴った。


 ん、そろそろ学校が終わった頃か。となると。


『センー! 開けてー!』


 ……鳴だろうな。




 ―――――――――――――――――――





「来るの早いな」

「うん、いっかいセンの家に行ってのぶ代さんに住所聞いてきたから」

「本当に来るの早いな⁉」


 鳴にオレンジジュースをコップに注いであげると、一口でごくごくと飲み切ってしまう。


 かなり飛ばしてきたのか制服のブラウスに汗がところどころ張り付いていたが、鳴は気にする様子もない。

 だがさすがに目に毒なので、タオルを鳴に投げつける。


「ほら」

「あざーっすっ! てか、ここがセンの新しい家なんだね~」

「んあ? ああ、初めてか」

「センの部屋じゃないみたい。すごく整頓されてるし」


 ギクッ。まさか相坂さんが掃除しているのがバレた?

 ――い、いや、ま、まさかそれだけでこの部屋に他の女(相坂さん)が出入りしているとは思うまい。


 ……思うまい。


「てか聞いてよー! センが2週間も停学だよ?」

「勝から聞いたよ。鳴がかけあってくれたらしいな」

「いや、それはいいんだけどさー! 相手のほう、みんな1週間とかで、ふざけてないー?」

「まあ相手は加減しててくれてたから……」


 たぶんあの男たちが本気で殴っていたらもっとひどい目に遭っていただろう。

 俺はガチで殴ってしまったから、その差だ。


「つーか悪かったな、鳴。いろいろと巻き込んじゃって」

「そんなのいいって。センが悪くないことは分かってるから」


 にかっと白い歯を見せて笑う鳴。

 くすぐったそうに笑っている鳴は、ひまわりみたいだった。」


「それにあの時のセンは……かっこよかった………………し?」

「ん? なんか言ったか?」

「なんでもない。ばーかっ!」


ん? 今俺はなんで罵倒された?


「てか、それより」

「どうし――なっ」


 ただそのひまわりがいきなり俺の鼻に指を当ててくる。

 唇を尖らせていて、いかにも不機嫌という顔だ。


「どうしてあんなことになったのか、説明してくれるよね?」

「あっ、えっと、それはですね……」


 しどろもどろになってしまった俺に、にこっと高圧的な笑み。こうなったときの鳴は本当に怖い。


 とりあえず適当にごまかすか……。


「あ、ちなみにあの女がらみだったら、嘘ついてもわかるから」

「…………」


 先回りしてくぎを刺される。


 そして鳴はじーっとこちらを疑い深い目で見てきていた。


「ホント……何があったの?」

「まあ、厄介なこと、だな」

「……」


 頑なに言おうとしない俺を見て、鳴は呆れたような顔をしている。


「……どうしても言わないっていうんだね」

「まあな」

「はあ、じゃあしょうがない。羽交い絞めするしか」

「そうだな……って、え?」


 あれ、今の諦めて聞かずにいてくれるパターンじゃないんすか? あれ? あれ⁉


「ちょっと待て、落ち着け鳴」

「仕方ないなあ。アレをされないと言わないなんて、センも強情だな~」

「あれ、なんかお前もノリノリじゃない? ねえ、鳴もやりたいだけなんだよなそうなんだよな‼」

「よーし、いきまーすっ」


 勢いよく飛び込んでくる鳴に、俺は迎撃の姿勢をとる。


 そして俺たちは気が付いていなかった。

 鍵が開いたままになっていて、来訪者がいたことに。


「――――千太……………くん?」

「せ、せんぱい……っ⁉」


 俺たちが組み合っているさまを、嘉瀬先輩に見られていたのだ。

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