なんで俺だけが(俳優・なつお)
そろそろ復帰してやろうかなんて。
雲隠れして半年、事務所からは記者会見しろ、復帰するタイミングだと言われ始めている。懇意にしている舞台演出家からもオリジナル舞台をやるから出ないかとの誘いがきてる。
どんだけ俺がクソでも逮捕されるようなことやらかしたわけじゃないじゃん!舞台上で、映像でいい仕事したら問題ないってファンはいまでもたくさんいる。
つまり俺はチケットを捌ける数字持ってるんだ。
女関係で炎上するなんてこの界隈珍しくないのに活動自粛するはめになるなんてついてねぇ!
それになんか最近芸能界も不倫に厳しいけど俺は独身だし
「なつお君、ただいま、今ごはん作るね~」
コイツもそんなファンの一人だ。炎上するまでの彼女やセフレ達には続々切られた中『なつお君が俳優復帰するまでここにいていいよ、記者がウロウロしてるアパート帰れないもんね、なつお君が俳優続けてくれるんなら何人女作ってもいいし、男作ってもいいよ』そんな風に言うほど俳優の俺に惚れ込んでいるらしく甲斐甲斐しく世話してくれる。
なんならこんな都合のいい女を35歳過ぎた辺りで嫁にして遊び続けるのもありなんじゃないか?コイツそこそこお嬢様だし。
「そういや、そろそろ復帰できそうなんだわ、俺。小規模舞台からだけど、ちょい役からならドラマもまたいけそうだし」
「わぁ~、おめでとう、そうだ、ちょっと時間かかるからご飯できるまでチーズつまんでて、ワインもいいの開けちゃおうか、前祝いってことで」
ワイングラスに注がれた赤ワインは景気のいい色をしていて俺の前途を祝っているようだ。
いいワインでもこんな気分のいい時に一杯目からチビチビ味わうなんて俺の性に合わない。ぐっと煽る。
「よかった、一気に飲んでくれて、チマチマ飲まれたら意味ないもん」
「なんだ……よ……こ…からだが………」
「俳優じゃない、なつお君に価値なんてないんだよ!」
見たことない顔だった、俺が遊んで捨てた女達と別れたときだってあんな害虫を見るような顔をされたことなんてない。視界が霞む、このまま寝たら俺はコイツに殺されるのか……。
「だから、ぶ、た、い…その、あとドラマも」
なんとか…なんとか……
「舞台復帰?その後またドラマでも出るって?無理だよ、業界の圧力がきかない位のアングラから出ないならともかくね」
そうして、目の前に放り投げられたゴシップ新聞の見出しには
【ふゆや!一般男性とパートナー宣言!業界一斉お祝いムードで元カレなつおの芸能界復帰計画は白紙か?!】
なんで……なんで俺だけが……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます