最近売れてるよね、彼(情報番組プロデューサー)

 一度恋愛でボロボロになってもそれをネタにのし上がる位じゃなきゃ芸能界は生き残れない。オレからしてみてもそれは間違いではない。

 俳優ふゆやは流失騒動でネットニュースになってからあっという間に深夜のトークバラエティーを一周して噂の元カレの暴露話をしてそれまで俳優オタクにしか知られていなかった自分の存在を一般人に認知させた。

 彼がゲイであることをカミングアウトしても俳優オタクとまでいかない一般女性人気がさらに上がっていっているのはバラエティーでの彼のキャラクター性やいざ演技をすれば台本にハマる実力を持っていたこともあるだろうし結婚してだいぶたってからブレイクしたアラフォー俳優のように、ある日突然あんまり女性人気のない女性タレントと結婚したりしない安心感という側面もあるんだろう。

 おもしろおかしくバラエティーを一周させてあぶく銭稼がせて終わりではなくきちんと俳優仕事にも利益になるように真面目なテーマをトーク形式で解説するこの番組に売り込んできたマネージャーは女傑だ。

 なつおの事務所はふゆやよりいくばくか規模が大きかったとの覚えがあるが芸能界の力関係でふゆやの露出機会を潰されなかったのはふゆやの事務所側が先手を打ってさらに大きな事務所グループの傘下に入ったからだ。

 それもどうやら女性マネージャーが社長に進言したらしいとのことで、噂レベルの話だと思っていたがさっき挨拶にきた芸能事務所の社長には似つかわしくない人のいいオッサンとオレの前ではニコニコしていたが肝が据わっていそうなマネージャーを比べるとどうやら噂は真実なんだろう。

 

「今回のゲストは俳優のふゆやさんです」

「よろしくお願いします」

「では、さっそく本題として本日はsns時代の恋愛というテーマなんですけども、snsが浸透した今だからこそ恋愛中の方に気をつけて欲しいことは何ですかという話から」

「はい、僕の事例はまさに反面教師としてうってつけなので呼んで頂けたと思うんですが……相手があることなんで詳しくは話せないんですが……」

「はい、そうですよね」

「恋愛中、相手のことを疑うようなことをしたくはないものだと思うんですよ、恋は盲目ともいいますし、別れるときのこと前提に付き合いはじめるなんて一部の割りきったカップル位だと思うので」

「それはわかります、疑いを前提にお付き合いしてませんよね~」

「なので見方をかえて欲しいなってこれを見ている方には思って欲しくて……自分の恋人は秘密を守れる大丈夫な人だと思ってる方が大半だと思いますし……僕みたいに恋人に浮気相手がいないから大丈夫!って感じたと思います。それを疑えっていうのは抵抗感ありますよね?ただ、自分の恋人は浮気してないし二人の秘密を守れるしっかりした人でもその人の家族や友達、会社の人にはまだ会ってないわけで、」

「人のスマホをコッソリ見て載せてはいけない写真とかを、見つけたら出来心でネットにあげてしまうようなタイプかもしれない?」

「恋人の家族、友達はまだ信じたいってのはわかりますが恋人の会社の人とかとなるとなかなかに運次第になっちゃいますよね」

「たしかに」

「だから二人の秘密は画像で残しちゃダメです。二人の秘密は心の中に」

「うまくまとめて頂きました。ではここからはネットに出てしまった画像をどこまで消せるか?また具体的に削除してもらうには?を専門家の方をお呼びして解説したいと思います」


 ここからはネット関連に詳しい準レギュラーの弁護士先生に任せておけば別に見ていなくても大丈夫だろうと足音をたてないようにスタジオを出る。

 それにしても、スラスラと言葉が出てくるものである。大雑把な台本があるとはいえアドリブに弱い俳優もそれなりにいる中で対応力が高いといえる。

 この番組に彼を呼んでよかったのだろう、だがどこか違和感のようなものを感じたのも確かだ。

 打ち合わせの段階ですでに舞台を見せられているような……はたまたオレ自身が舞台にあげられてしまったような………

 やめよう……今までも俳優をゲストに呼んだときはときたま体験した感覚じゃないか

 

 オレは気持ちを落ち着けるため馴染みの喫茶店へと足を向ける。

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