第2話

さかのぼること12時間と30分。


 司令室にいたのは眼鏡をかけ知的な顔をしたおじさん(右左杉翔風<うさすぎはやて>司令)とガタイのよさそうな男の人(霧山炎樹<きりやまえんじゅ>隊長)そしてもう一人金髪の華奢な体つきをした彼はどこのだれかこそ確認できなかったが司令、隊長と同等に話していたからそこら辺の人だとは分かった。

司令は入室してきた俺に一つ空いたいすに腰を掛けるよう促し俺は机をはさんで三人に囲まれるような形となった。広い部屋には重い空気が立ち込んでいた。しばらくの沈黙の後、空気に耐え兼ね初めに口を開いたのは俺だった。


「配属の話なんですが…」 いくら理不尽な話とはいえ、礼儀は必要だ。いきなり怒鳴れば軍から追放されかねない。

「一つ話をしよう」右左杉司令が俺の声を無理やり遮って話を始めた。

二人の顔がこわばった事から話の重大性がうかがえる。怒りを抑え込み司令の声に耳を傾けた。


「ある時、神と悪魔が世界に降り立ち人々に契りを迫ったのは知っているだろう」


もちろん知っている歴史の基礎だ。


「だがな、みなが神と契を交わす中で唯一悪魔と契を交わした家があった。それがきっかけで今の世界が作られた」


なんだそれ。一切聞いたこともないしそんなこと教えられてもいない。


「それはどこの…」

「単なるうわさに過ぎんのだけどな」


なんだうわさか。でもそんなものをなんで俺に話したのだろうか。


 霧山隊長が指をこすって葉巻に火をつけ吐息と共に煙を吐いた。ああ、そうか神力が使えるのか。

煙が上にのぼりすぐに消える。葉巻の先を灰皿にこすり付けたところで隊長が重い口を開いた。

「俺たちPRTCは表向きには国民の安全を守る存在だが、極秘に契りについての情報を入手し……おっとこれ以上は喋りすぎだな」いや十分に喋りすぎたと思うが。極秘とか言ってたし。


「おいおい、炎樹ー少し喋りすぎだぞー」

「すみません右左杉しれー」


わざとらしすぎる。なんだこの猿芝居は。大根にも程があるぞ。なんでここで芝居を見せられたのかは知らないがとにかく俺は機密情報を知ってたらしい。ここで憲兵隊にいくなんて言えば無事に帰れるかすら怪しい。場合によっては……いいや考えないでおこう。


「二三味朱狼<ふさみしゅろ>」


隊長が改まった顔つきで俺の目を見る。

不思議とその瞳に吸い込まれてしまいそうだった。


「君にはPRTCに入ってもらい我々の作戦に参加してほしい。PRTCには君が必要だ」


俺が必要……なんと響きがいい言葉だ。ここでYesと答える選択肢もあったがこの一言にはこれからの生活が懸かっているのだ。容易にはYesなんて言えない。

「それは決定事項でしょうか」

Yes/No以前に自分に拒否権はあるのか。


「我々としては君の意見を尊重しようと思う」


よかった。これで帰りに背後から何者かに襲われることはないだろう。安心安心。


「少し考えさせてもらえないでしょうか」


そう言って司令室を後にした。


 後でてきとうに理由でもつけて断ればいいか。そんなことを考えて誰もいない家を目指して歩いていた時だった。

大通りとは随分離れた人通りの少ない小道に入ると急に首に衝撃が走ったので何かとおもえば後ろから誰かに首を腕で抑えられているようだった。俺は死ぬんだやっぱり抹消されるんだ。くっそーーーあいつらめ。背後にはもっと気をつけておくべきだった。あの時に安心した自分を恨んだ。後悔が頭の中を駆け巡る。


「騒いだら殺す」


首筋にナイフのようなものがあてられた。聞き覚えのある声だったがそんなことはどうでもいい。今はどうすればいいかだ。護身術を……そんなのしらん。力ずくでこの丸太のように太い腕を振りほどけそうもないしな…。仕方ない神力を使うか。相手を殺しかねないが自分が殺されるよりは致し方ないということだ。目を閉じて深呼吸をし力を一点に集中させるイメージで唱えた。


「神よ我にち……」


「とう!」


ズコッという音とともに衝撃が全身を駆け巡ったと思うと首を抑えていた腕の感覚がなくなっていた。

振り返るとそこには俺を殺そうとした犯人らしき人はもうおらず、先の司令室にいた“もう一人の男”が立っていた。背、高いなあ。190センチくらいだろうか。パーカーにジーパンの格好が似合っている。どうやらこの人のドロップキックに助けられたらしい。俺がくらった気がしないでもなかったが助けてくれたことに礼を言った。すると彼は突然俺の前にしゃがみ込み金色の髪をなびかせ空の様に蒼い目を俺に向けて俺に言った。


「借りね」丁寧に笑顔も添えて。満面の笑みだった。

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