第9話 視線

 その他には、ぐるりと見回しても、とりたてて言う程のものはない。強いて言うなら、紺に彩られた扉があることか。小さな覗き窓があり、時折冷たい視線がそこから投げつけられる。


 しかしそれが、どうだと言うのか。冷たい視線など、どれ程のものと言うのか。忘れた頃に訪れる、女よ。いくらでも泣くが良い。たとえそれで体中がびしょ濡れになってとしても、それがなんだと言うのだ。


 ただ無視すれば良いだけのこと。そんなことに気を取られるほどに、暇人ではない。この心は、深遠な世界にあるのだ。知りたければ、……。入ってくるが良い。

 そっと足音を忍ばせて、覗き込めば良い。

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