第8話 無視

 反対側の壁には、埋め込み式のラジオがある。

 シルバーメタリックのボディの中央に、ジャガード織りの布がかけられたスピーカーがある。


 お気に入りの調度品だ、重厚な趣がいい。ただ如何せん、お仕着せの音楽やらが流れていることが気には障る。そこより流れ出る現代の息吹きへの反応が、しばしば額の中の支配者の目をさらにいかめしくさせたように見える。


 その横には、その艶やかな肌に深くナイフの傷跡を残しつつ、それでも穏やかな表情の能面があった。しかし、穏やかに微笑んでいるその面に、どこか冷たさを見ては背筋に氷の入る思いをするのは、一度や二度ではなかった。


 その面は、生きている人間の意志など無視しがちなある種の威厳を感じさせ、部屋全体に重くのしかかっていた。



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