第7話 主

「コーヒーとパン、ここに置いておきますので冷めないうちにお食べください。食べ終わりましたら、ここに戻してください」


 慇懃で固い声にふり向くと、ドアのすぐ横にある小さなテーブルの上に、白々と湯気立つコーヒーとバターが薄くぬられたパンがあった。

 視線を合わせることもなく、冷たく光るステンレスのトレーを置いていく職員の後ろ姿が見えた。


 言葉と共にドアから流れ出た空気も今では落ち着き払い、部屋は前にもまして深閑としていた。


 部屋の中はキチンと整理されていた。


 ベッド横の壁には、この別荘を建ててくれた愛すべき祖父のいかめしい姿の額がある。

まるでこの部屋の全てをー空気でさえもを支配するかの如くで、妙に大きく感じられる。


 そのいかにも明治らしいー鹿鳴館時代にしばしば起きた、東洋と西洋の対立と調和とをまざまざと感じさせる、チョンマゲにタキシード姿。


 まさに明治時代から今に至る道、この部屋の全てを支配した、あるじそのものだ。

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