第26話 手紙

ある日、美海が夕食後に机に向かって勉強していると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

ママかと思い、返事をして扉を開けると、白い光が射し込んで来た。

扉の向こうには、ウォルトが立っていた。


「こーんばんは。」


いつも扉を通って向こう側に行っていたが、誰かがこちらに来るのは初めてだった。


「どうしたの?」


美海は誰にも言わないが、ウォルトが苦手だった。

笑っていない瞳、変わらない表情。大きな身体、鱗で覆われた皮膚。変なイントネーション。

本人に悪気がない事は分かっていても、生理的に嫌悪してしまう。


「美海ちゃんーにこれを届けてほしいーんだ。」


そんな美海気持ちを知ってか知らづか、ウォルトは勝手に話を進めた。

受け取ったのは、お姉さん宛の手紙だった。

宛名も差出人も外国語で書かれていたので、誰が書いたのかは分からなかった。


「どうせ明日ーも彼女の所に行くんだーろ。その時に渡してくれればーイイから。じゃまーた。」


言いたい事だけを言って、ウォルトは扉を閉めた。


翌朝、美海は郁美と一緒にお姉さんに手紙を渡した。

手紙を受け取った瞬間、お姉さんの顔が曇った。


「ごめんなさい。今日はもう帰って。明日また来てね。」


お姉さん元気なく言う。小学生の二人にも動揺している事がわかった。それに対して、かける声が見つからない事が悔しかった。


「お姉さんどうしたんだろう。」


扉をくぐり美海の部屋に着いてから郁美が言った。

美海は初めてお姉さんに会った時、同じ表情をさせてしまった事を思い出した。


「わかんない。どうしたんだろね。」



翌日、二人がお姉さんの家に行くと、母屋の扉に手紙が刺さっていた。


『美海ちゃん、郁美ちゃんへ

昨日はごめんなさい。きっと驚かせてしまったと思います。私もまさか手紙が来るとは思っていなかったので、とても動揺してしまいました。昨日の手紙はとても大切な人からの連絡でした。どうしようか迷ったけど、会いに行く事にしました。どれ位かかるかわからないけど、なるべく早く帰ってきます。その間、家の事を任せても良いですか?と言っても、泥棒も来ない家だから、たまに窓を開けて空気を入れ替えてくれれば十分です。たくさんお土産持って帰ります。』


「郁美ちゃん、また先生いなくなっちゃったね。」


美海が郁美の顔を伺う。


「大丈夫。今は一人じゃないから。でしょ?」


郁美が美海に微笑んだ。

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