第10話 猫の友達

二人は5年生に進級しら。4年生の時は別々のクラスだったが、同じクラスになる事が出来た。

ある日曜日、二人は一緒に図書館に行く約束をしていた。

興味のある事について、グループで調べて発表する。と言う宿題が出されたからだ。

二人で話しあって、猫について発表する事にしたのが、学校の図書室には良い本がなかったので、休日に市の図書館で調べる事にした。


10時に集合して、図書館に入る。

二人とも図書館に来た事がなかったので、司書さんに利用方法を教えてもらって、本を探た。

なてない作業のせいか、集中力の賜物か、午前中はあっと言う間に終わってしまった。

近くにあるコンビニでおにぎりを買い、図書館の横にある公園のベンチで食べる事にした。

四角いベンチの真ん中には傘が立っており、ここなら日光も眩しくなさそうだった。

これだけの事で、少し大人になった気分で楽しく感じた。

午前中に、猫について書かれている本は、探し出したので、午後は猫の何について調べようかと、話しながら食べていた。

すると、チリンと金の音が聞こえた。二人が顔をそちらに向けると、首輪を付けた猫が1匹、茂みの中から顔を出していた。


「かわいいー、おいでおいでー。」


と二人同時に黄色い声をあげたが、猫は全く動く様子が無かった。

おもむろに郁美が、おにぎりの鮭を摘んで、猫と二人の中間に投げる。

猫は二人と鮭を見比べて、動かなかった。しかし、そのうち鮭に視線が行き目を離す事ができなくなっていた。

少しして我慢出来なくてなったのか、ゆっくり鮭に近づき凄い速さで口にくわえて逃げて行った。


「これ、猫に人間の食べ物を与えるな。早死にさせる気か?」


二人の後ろから、突然声が聞こえた。怒るというよりも、注意を促す様な優しい男の人の声だった。

図書館の管理の人に怒られたと思い、恐る恐る二人はふり向く。

するとそこには誰もおらず、代わりにベンチの反対側に三毛猫が座っていた。

二人がその猫を注視すると、猫は首を振るわせた。


「そんなに見るな。それにしても、あいつもあいつだ。知らない人間に与えられた物を、疑いもせずに食べて、毒が入っていたらどうする気だ。まったく、最近の若い猫の馬鹿さ加減には、ほとほと呆れて物も言えないとは思いませんか?」


猫があまりにも流暢に話すので、二人は目を丸くした。

美海が視線を郁美に向けると、郁美もちょうど美海に顔を向けたところだった。


「なんで、猫が喋れるの?」


郁美が猫に聞く。


「それは難しい質問です。たとえば、お二人はなぜ話す事が出来るのか、答えられますか?」


猫の言った通り、難しい質問だった。今まで言葉を話す事が出来るのは、人間だからだと思っていた。しかし、目の前には話す猫がいる。考えても答えが浮かばなかった。


「いやいや、失敬。二人を困らせるつもりはなかったのです。」


猫がニヤリと笑う。


「お二人の言わんとしている事は、きちんと理解しております。つまり、言葉を発する仕組みの事を言っているのでは無く、本来話すはずの無い猫が、なぜ話しているのかと。そう言う事ですね?」


この猫はとても冗舌なのだと、二人とも感じ始めた。


「私もかつては、あそこにいる者の様に無知な飼い猫だったのです。それが、ある日の夜、お尻に激痛が走りました。今まで感じたことの無い痛みでした。じっとしている事の出来なかった私は 、家を飛び出し、長屋を出て一晩中、街中を走り回りました。」


猫が一呼吸おいて、遠い目をした。


「身体中が焼け着くように熱くなり、喉もカラカラでした。水を飲もうと、土手を降りて川に近づいた時、力尽きて倒れてしまったのです。身体の感覚はありませんでしたが、意識だけははっきりと残っており、朝靄が晴れた様な、清々しい気分でした。朝起きると、痛みは無く、この様にしっぽが二股になっていたのです。」


そう言うと、猫は根本から2本生えているしっぽを立てて、ゆらゆら二人に見せつけた。


「その時から、私は今まで見聞きした人間の言動を全て理解し、言葉を発する事が出来るようになったのです。」


「凄い、猫と話せる何てお話みたい。」


美海は興味津だった。


「ところで、私にソレを頂けませんか。」


猫が、おにぎりを手で指さす。


「さっき、人間の食べ物を猫にあげるなって、自分で言ってたじゃないですか。」


郁美が、すかさず揚げ足を取った。


「 まあ、それはそうなんですが、私は鮭に目がないのですよ。身体に悪いとは知っていても、目の前にあるとそんな事は言っていられないのです。」


郁美が 、食べかけのおにぎりを猫の前に起きました。


「おおこんなに。かたじけない。」


猫は、おにぎりに飛び付き、美味しそうに食べてた。最初に若い猫を悲観していた威厳はどこにも無かった。

猫はおにぎりを食べ終えて、両手を綺麗に何回も舐めてから、背筋を伸ばしてキメ顔をした。


「ごちそうさまでした。まさか米とノリまで頂けるとは思いませんでした。」


今更格好を付けて話しても、全て台無しだった。


「名前はなんて言うんですか?」


郁美が気聞きました。猫への質問は彼女に任せた方が捗りそうだと、美海は思った。


「名前はもう無い。かつてはあったが、その名前で呼ばれたのは、もう何十年も前の事か。」


猫が考える素振りをした。


「いつもどこに住んでいるんですか?」


「今は、学校の裏にある林に住んでいる。あそこは良いぞ、餌は豊富だし、横穴に入れば寒さもしのげる。祠には人間がお供え物を置いていくから、オヤツもばっちりだ。」


その話を聞いて、二人は嫌な事を思い出しまた。

その後 、図書館の閉館時間になるまで、猫と会話をし猫と別れた後、急いで本を借りた。

不思議な友人が出来て、宿題の中身も進み、今日は二人にとって、とても有意義な一日になった。

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